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リスキリング(学び直し)の中でも人気なのがデータ分析です。オンライン学習サービスのmanebi社が2022年1月に実施した、国内企業のリスキリング実施状況調査で1番人気の科目となっており、なんと4割以上の企業が実施済みまたは計画中とのこと。もしかしたらこのブログをお読みの方の中にも、研修を受けた方や本を買って勉強した方もいらっしゃるかもしれないですね。
さて、そんなデータ分析能力が、B2B営業のマネージャーにもこれから必要になりそうだという調査レポートが最近発表されました。データ分析に自信がある方も、苦手意識をお持ちの方も、どんなレポートなのか早速見ていきましょう。
営業マネジメントとデータ分析能力の関連性は?
今回ご紹介するのは、データサイエンス系コンサルティング会社であるVaricent社の最新調査レポート「Why Sales Leaders Need Increased Analytic Skills to Improve Opportunity Management」(営業リーダーは商談マネジメントを改善するために分析スキルを高めよう)です。
このレポートでは、B2BとB2Cの営業リーダー、日本で言うところの営業マネージャーを対象に、マネジメント業務の満足度/品質と営業マネージャー自身が持つデータ分析能力の関連性を調査しています。
データ分析能力が高いマネージャーほど商談マネジメントへの満足度が高い
自分の商談マネジメントに満足している営業マネージャーの割合は、B2Cだと34%で、B2Bでは18%
この要因の1つとして考えられるのが営業マネージャーの分析能力。B2Cだと48%が高い分析能力を持っているのに対し、B2Bだと35%。
B2BとB2Cとで商談マネジメントへの満足度に差がある、その理由の1つに営業マネージャーの分析能力があるというのです。そしてさらに「SFAの分析ツールの利用有無」という要素を加えて深掘りしています。
データ分析能力がないと分析ツールを活用できず、商談マネジメントへの満足度が下がってしまう
調査対象全体における、Salesforceの分析ツール(SalesAnalytics)の導入率は半分以下
分析ツールを利用しているグループの43%が商談マネジメントに満足していて、61%が高い分析能力を持っている
逆に分析ツールを利用していないグループの商談マネジメント満足度は16%で、高い分析能力を持っているのは32%
これらのデータを1つの文章にまとめると、「営業マネージャーがデータ分析能力を持っていないとSFA等の分析ツールを活用できず、結果として商談マネジメントの満足度を押し下げてしまう」ということ。そして、商談マネジメントの満足度は業績目標達成度と関連性が強いはずなので、営業マネージャーのデータ分析能力の有無によって、業績目標を達成するかどうかが左右される、と解釈することも可能でしょう。
ちなみに米国での事例を見ていると、営業マネージャーの求人欄にSFAやMA、データ分析アプリなどデジタルツールを使えるが当たり前のように条件として記載されています。これは既にそれだけ必要性を認識されているということでしょう。
それに対し、残念ながら多くの日本企業の営業現場においては「データを使った良いマネジメントのお手本」を誰も知りません。従って、非効率なマネジメントを「こんなものだ」と問題視せず、いつまでもそれを続けてしまう危険性があります。
その結果として、諸外国と比較して圧倒的に生産性が低く競争力のないビジネスモデルを続け、やがて皆で死んでしまうという「茹でガエル」状態になってしまうかもしれないのです。
SFAやMAが導入され、分析の素材である商談/売上/顧客データが組織内に蓄積され、活用できるようになっている現在のB2B営業において、これまでデータ分析の重要性を訴えかける記事は数多くありましたし、成功事例も声高に喧伝されてきました。
しかし、その一方で今回のような客観的な定量データは発表されていませんでしたので、今回のVaricent社のレポートは、B2B営業におけるデータ分析能力の必要性を立証するエビデンスだと言えるでしょう。
重要視されないB2B営業組織でのデータ分析能力
2012年のハーバードビジネスレビューで「データサイエンティストは21世紀で最もセクシーな職業である」という記事が発表されてから10年が経ちました。その後2017年ごろから、プログラミングや統計についての詳細な知識がなくてもデータ分析が可能なノーコードのツールや、AIでほぼ自動で分析してくれるツールが出るなど、「データサイエンスの民主化」が進んでいます。
日本でもソニーがノーコードの簡易分析ツール「Prediction One」を開発し、Yahoo! Japan(Zホールディングス)が文系社員をAI人材に育成するための社内塾で採用するなど、データ分析に取り組むハードルは年々下がっています。また、データサイエンティスト協会が主催するイベントにも近年は多種多様な企業の社員が参加するようになっていて、産業界での裾野が少しずつ広がっていることも体感しています。
このようにデータ分析に取り組む機運が徐々に高まっており、先ほども触れたようにSFAやMAの中にデータが蓄積されるようになっているにも関わらず、どうも多くのB2B営業マネージャーの方々は、データ分析能力の向上をあまり重要視されていないようです。ハッキリ言うと、ご自身の問題だと認識されている方が非常に少なく、ターゲットとする顧客や商品を決めるのが経験則頼みになっていて、定量データによるエビデンスを重要視していないのです。
しかし、これは営業マネージャー個人の問題ではなく、その営業組織全体の問題だと私は感じています。つまり、その組織の中での価値観として、定量データによるエビデンスが軽視されていることが問題なのです。
営業マネジメントは経験知頼みからデータドリブンに変えられる
私が支援しているある企業では、業界構造が激変したことでベテラン営業マネージャーの経験知が通用しなくなってきたため、5年前に営業本部長と営業企画部長の決断によってデータドリブン型の営業マネジメントへと大きく舵を切りました。
この企業の営業マネージャーは、四半期ごとに営業計画を設計・推進する役割を担っています。以前は個人の成功体験や部下からの情報や市場の声をもとに、各自の匠の技によって計画を組み立てていました。
しかし今では、前四半期の実績が昨年同時期と比べてどう変化していて成功/失敗要因が何なのか、エリア全体や競合の動きがどうなっているかを定量データで把握し、それを基に次の四半期の計画を練ります。そして営業部長は、その計画がデータに裏打ちされているか、業績を伸ばすロジックに無理がないかという観点でチェック/アドバイスをしています。このように、5年間で営業組織の価値観をベテランマネージャーの経験知から定量データによるエビデンスへと転換したのです。
当初はデータ分析なんてしたことがない営業マネージャーばかりでしたが、データをもとに計画を立てる手順を具体化して研修を行ったり、必要なデータ基盤を整備したりしたことで、ほとんどのマネージャーが新しい手法で営業計画を設計できるようになりました。また、以前の経験知のうち汎用的に使えるものをマニュアル化したことで、経験の浅い若手マネージャーでも短期間で目標達成できるようにもなっています。
今回のデータが「ピンとこない」人/組織は要注意
SFAやMAの活用が当たり前になり、TableauなどのBIツールも普及しつつある現在、データドリブンな営業組織になるのが容易になっていますし、きっとそのような組織が今後さらに増えてくるでしょう。そして、皆さんが所属している営業組織が定量データによるエビデンスを重視するようになることも十分起こりえます。と言うのも、これまでずっと「営業はブラックボックス」と言われてきましたが、データを活用することで客観的な根拠をもって改革・運営できるようになるからです。
今回ご紹介した「営業マネージャーのデータ分析能力が、営業マネジメントの満足度を左右する」というデータ。データ分析能力の重要性をすでに実感している人には当たり前の話でしょう。その一方で、価値観として定量データを重視していない営業組織に属している人には、「ピンとこない」「実感が湧かない」「自分事だと思えない」のではないでしょうか。
今後B2B営業組織でのデータ活用がさらに進み、分析能力を持った営業マネージャーが率いるデータドリブンな営業組織が増えてくることでしょう。皆さんの営業組織が今までのままであっても、競合がそのように変化し、顧客がそのようなロジカルな営業活動に慣れ親しむようになる、ということも十分に起こりえます。
データ活用力で顧客や競合から取り残されてしまわないようにするために、今までデータ分析にトライしてこなかった方は一度世の中でどんな取り組みがされているのか、そして、B2B営業ではどんな分析ができるのかを学んでみることを強くお勧めします。まずはB2B営業におけるデータ分析について興味を持つことから始めてみましょう。
「データ分析」に関する主なトライツブログはこちら。
『Excelで!関数もVBAもなし!マウス操作だけの簡単SFAデータ分析』
『SFAデータ分析で「売上予測」「受注確率向上のヒント発見」に挑戦してみよう』
『SFAデータ分析の壁「テキストマイニング」をやってみよう!』
参考:「Why Sales Leaders Need Increased Analytic Skills to Improve Opportunity Management」(Martin Fleming, Varicent, Personal Selling Power Inc., July 18, 2022)