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「統計学が最強の学問である」という本が出版されてから早7年。最初に書店でタイトルを目にしたときは、「そう言いたいのは分かるけど、ちょっと言い過ぎでは?」と思っていたのですが、AIや機械学習がこれだけ日常生活に浸透してきているのを見ると、まさにタイトル通りの時代になってきたと言わざるを得ません。

先日(2020年1月26日)の日本経済新聞の朝刊にも、「経済学者、企業の参謀に 最新理論で効率化」という記事がありました。記事によると、統計学で今注目されている「因果推論」という理論を通販サイトで活かし、最適なサイト作りに役立てているとのこと。日本でも、統計学が実際のビジネスの意思決定に大きな影響を与えるようになってきているのです。

その一方で、B2B営業ではSFAが導入されるなどして、日々蓄積されるデータは格段に増えているものの、それを上手に分析して営業戦略や商談の進め方の意思決定に役立てている事例はあまりないようです。そこで、SFAに入力される営業データの統計的な活用方法「予測」と「発見(因果推論)」について、ご紹介したいと思います。

B2B営業で皆が欲しがるデータ分析「予測」と「発見」

B2B営業でデータ分析をしようというとき、どの営業組織の方と話をしても「それを知りたい!」と言われるのは、
「今の状態だと、将来どうなるか(=予測)」
「より成果を上げるために、何をしたらいいか(=発見)」
の2つです。

営業マネージャーや営業企画の方は、定期的に報告される数字を見ながら期末の着地数字がどうなりそうかを予測して、上に報告することが求められていますし、それと同時に、より良い営業成績を上げるために何をすれば良いかを発見しようとしています。

この「予測」と「発見」をするための手法が「回帰分析」というものです。回帰分析について、まったく聞いたことがないという方もいらっしゃると思いますので、簡単にご説明します。

予測と発見のための「回帰分析」

回帰分析とは、売上や受注確率のような予測したいもの(目的変数、y)を、それに関係する要因(説明変数、x)で説明するもの。中学生の頃に

y = ax + b

というシンプルな式を勉強しましたが、回帰分析のモデルもこの式を使って

目的変数 = a×説明変数 + b

というように表します。この式の意味は、説明変数に係数aを掛けて定数bを足すと目的変数の予測値になる、というもの。実際の分析では、説明変数が1つだけということは稀ですので、

目的変数 = a1×説明変数1 + a2×説明変数2 + … + an×説明変数n + b

というように長い式になりますが、基本的な構造は「y = ax + b」と同じです。

このような式(データ分析ではモデルと呼びます)を使った、「期末の売上を予測する」「受注確率の向上に関係する要因を発見する」などの分析が「予測」と「発見」です。

同じ回帰分析という名前の分析手法を使い、同じモデルで表現するのに、なぜ「予測」と「発見」と言葉が使い分けられているのでしょうか。それは、モデルの中で重要視しているものが異なるからです。

正確性を最優先する「予測」分析

「予測」で大事なのは目的変数(y)の値の正確性。より正確に予測できればよいため、説明変数(x)がブラックボックス的でも許される、という考え方です。極端な例を挙げると、営業チームごとの売上を精確に予測できるのであれば、説明変数の中に「営業担当者の昼食時間」のようにその関連性がイメージしにくいものが入っていてもかまわない、というのが「予測」におけるスタンスです。

この「予測」はデータの件数が多ければ多いほど、かつデータのバラつきが大きければ大きいほど精度が高くなる傾向がありますので、データの件数さえ揃えばそれほど技術や経験がなくてもある程度の精度で予測できるようになります。SFAを使ったデータ分析に取り組む第一歩としては、恰好の分析作業だと言えるでしょう。

もっともらしさを最優先する「発見」分析

かたや、「発見」で大事にされるのは説明変数(x)です。そのため、「売上を予測するモデルの中に、営業担当者の昼食時間が説明変数として入っている」というのは、新たな「発見」につながることになってきます。

この「発見」の質を高めるには、データの件数を増やすよりもいろいろな説明変数を数多く考え、その中でもっともらしいものを探すことです。そのため、分析者には業務への理解と、それをもとに説明変数を設定できるだけの分析モデルを構築するスキル/経験が必要になります。

今流行りの「因果推論」とは?

例えば、失注した顧客Aに提案したときの対象者が、「担当者」だった場合、ドラえもんの「もしもボックス」を持っていない私たちは、顧客Aの「部長」「課長」に提案していたら受注していたかどうかを知ることはできないので、本当に提案対象者の役職が受注確率に因果関係を持っているかは分かりえません。

この、現実には起こっていないことに対して統計的に推論して仮の数値を求め、それを基に因果関係を確かめるのが、冒頭の日経新聞の記事にあった「因果推論」です。極端な言い方をすると、分析によって「部長に提案していればどうなっていればいたか」をわかるようにしようということです。

あなたがやりたいのは予測?発見?

B2B営業にとって身近な存在であるSFA。その中には、売上などの「予測」や、受注確率向上のためのヒントの「発見」が可能になるデータが日々蓄積されています。これらのデータを定期的に棚卸し分析することで、現在の自分たちの営業がどこに向かっており、今後改善するために何が有効なのかを知ることができます。

ただこれまで使ってきた帳票を見やすくする、手間を掛けずに出力するというような枠にはまらず、どんな予測や発見がしたいのかを考え、少しずつ「データを使った予測や発見」を日々の仕事に取り入れていく。これがSFAを有効活用していくということなのだと考えます。

トライツコンサルティングでは、SFAなどのデータを活用した「予測」や「発見」のサポートをしています。2月12日にはデータ分析をはじめとしたSFAのさらなる有効活用に関するセミナーを開催いたしますので、ご興味のある方はぜひお越しください。