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「AIDA」という言葉があります。これは、「注意(Attention)」「関心(Interest)」「欲求(Desire)」「行動(Action)」という4つの購買プロセスの頭文字をつなげたもの。「欲求」と「行動」の間に「記憶(Memory)」を入れた「AIDMA」というものもありますので、こちらをご存じの方もいらっしゃることでしょう。 

実はこれらの概念の起源は古く、AIDMAは今からちょうど100年前の1924年のサミュエル・ローランド・ホールの著書「Retail Advertising and Selling」が初出とのこと。このAIDMAはマーケティングの教科書ともいえるフィリップ・コトラーの「マーケティング・マネジメント」でも紹介されていますし、2000年過ぎまでは当たり前に使われるコンセプトでした。 

しかし、2005年ごろから消費者や企業の購買スタイルが大きく変化してきました。 

それまでは、TVや新聞などのマス広告の一方的な受動者だったのですが、自ら主体的にWebを使って情報収集するようになりましたし、ブログやSNS、レビューサイトに感想を投稿・シェアするというように、情報の発信主体にもなっています。また、「カスタマーエクスペリエンス」がキーワードになるなど、購買体験そのものでの差別化も図られるようにもなっています。 

そして、これらの変化に応じて2005年ごろからAIDA/AIDMA以外のさまざまな購買プロセスモデルが開発されてきています。そこで今回は、AIDA/AIDMA以降の購買プロセスモデルをまとめてご紹介します。「AIDAやAIDMAは知っているけど、それ以外はよくわからない」という方も、「AIDA/AIDMA以外にもいくつか見聞きしたことあるけど、どう使いわけたらいいかがわからない」という方も、ぜひお読みください。 

マス広告がルーツの「AIDA」「AIDMA」 

新しいモデルの紹介を始める前に、簡単にAIDAとAIDMAをおさらいしておきましょう。AIDA/AIDMAのプロセスは下図のとおりです。 

この購買プロセスが前提としているのは、冒頭でも述べた新聞やTVなどのマス広告や、屋外広告や店頭ポスターなどをきっかけに購買活動が始まる、という状況です。 

AIDAモデルの場合、消費者や企業は大量の広告の中から「注意」をひかれたものを目に留め、それに「関心」を持って、欲しいという「欲求」を掻き立てられ、その場で買うという「行動」をとります。AIDMAの場合は、大量の広告に「注意」を引かれて目に留め、「関心」を持って「欲求」を掻き立てられ、それが意識的/無意識的に脳内に「記憶」されて、店頭で再度見つけたときに買うという「行動」に至ります。 

今でもTVCMを多くの企業が使っていますし、これらの購買プロセスモデルも今でも現役です。しかし、Webの登場によって購買プロセスの一部が変化したため、次に紹介する「AISAS」「AISCEASE」というモデルが開発されました 

Webでの購買を反映させている「AISAS」「AISCEASE」 

Webの登場によって、購買プロセスに2つの大きな変化が起こりました。それはYahoo!やgoogleといった検索サイトを使った「検索」と、ブログやSNS、Amazonなどのサイトでのクチコミの「共有」です。そして、この2つの変化を取り入れた購買プロセスモデルが、下図のAISAS(アイサス)とAISCEASE(アイシース)です。 

これらはともにWebが広まった2005年ごろに電通によって開発されたモデル。AISASの方は3つ目の「検索」の後に「行動」に直接移っているのに対し、AISCEASEはその間に「比較」「検討」という2つのプロセスが増えています。これは価格コムやAmazonなどのサイトで、複数の商品や販売している店舗や個人を比較して、より良いものを選ぶという活動を表現したものです。 

AIDMAと比べてこれら2つのモデルは、よりWebでの購買活動に重心を置いたものだと言えます。B2Bの購買活動の93%はWeb検索から開始される」というアバディーン・グループの調査データもありますので、顧客がWebを使って情報収集しているのであれば、これらのモデルをベースに購買プロセスを整理・具体化するのがお勧めです。 

Webでの購買体験を重視する「SIPS」「DECAX」 

2010年以降から、商品やサービスだけでなく購買活動自体を重要視する考え方が広まっています。靴や洋服といった試着が欠かせない商品をWebで買うというのは当たり前ではありませんでしたが、家で試着してみて合わなければ無料で返品可能といったサービスが登場するなど、便利で勝手の良い購買体験が差別化の要素になってきたのです。 

カスタマーエクスペリエンスともいわれるこのトレンドに合わせて開発された購買プロセスモデルが、下図のSIPS(シップス)とDECAX(デキャックス、ディーキャックス)です。 

SIPSは特にSNSにおける購買プロセスを表現したもの。YouTubeやInstagramなどに流れてくるコンテンツを見て「共感」したら、その作り手のチャンネルを「確認」し、そこに「参加」していいね!やシェアすることで「共有・拡散」します。 

DECAXは特にコンテンツマーケティング起点での購買プロセスを表現したもの。メールマガジンやSNSのコンテンツの中から興味あるものを「発見」し、チャンネル登録するなどして継続的にコンテンツを受け取る「関係・エンゲージ」へと進み、その後に購買へと進んでいくというものです。 

どちらのモデルでも、いきなり購買に進むのではなく、「参加」や「関係」といった過程を経て関係性を高めることを重要視しています。B2BでもMAツールなどを使った見込客育成(ナーチャリング)が広く利用されていますので、この考えを取り入れたいとお考えの場合はこれらのモデルを参考にしていただくのがいいと思います。 

SaaSなどのサービス利用・定着に適した「AMTUL」 

最後にご紹介するのは、SaaSなどのシステムや、コンサルティングなどのビジネスサービスに適した購買プロセスモデルAMTUL(アムトゥル)です。 

このモデルの特徴は「試用」「本格的利用」「ブランド固定」へと進む、サービスの利用・定着を表現していること。多くのSaaSツールが「最初の数か月は無料」「基本機能だけの利用ならずっと無料」と謳っているように、まずは無料で試してもらって価値を実感してもらい、その後の有償の本格的利用へと進ませるのがこのモデルの考え方です。 

コンサルティングでも商談の中で顧客の課題を整理したり、今後の方向性を指し示したりしますが、これもAMTULモデルの「試用」だと言えるでしょう。無償や割安価格で自社の商品・サービスを体験してもらうことが購買につながるのでしたら、このAMTULモデルを「試用」してみてはいかがでしょうか。 

これまでの5つを参考にして自社の顧客の購買プロセスを具体化しよう 

ここまでAIDA/AIDMA以降に開発された購買プロセスモデルのうち、AISAS、AISCEASE、SIPS、DECAX、AMTULという代表的な5つをご紹介しました。これらのモデルを見比べて、皆さんの顧客の購買プロセスに近いものを見つけ、それをもとに皆さん独自のものになるように具体化・肉付けしていただければと思います。 

トライツブログでは、顧客の購買プロセスの変化について継続的にご紹介しています。今後も今回のように購買プロセスの変化によって生じた、伝統的なコンセプトの変化/進化について解説していきます。一緒に今の時代に合わせてアップデートしていきましょう。