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2022年9月21~22日の期間で、米国アトランタで開催されたB2B営業向けのカンファレンス「OUTBOUND 2022」に参加してきました。

このOUTBOUNDの特徴は、最新テクノロジーの紹介よりも、実際の商談の場面に活かせる営業スキルやものの考え方のレベルアップを目的としていること。そのため、営業研修で有名な企業や、営業本でベストセラーを書いていてグルと呼ばれるような著名なコンサルタントが次から次へと登壇する、大変に密度の高いイベントでした。

この主催会社の1つが、B2B営業研修の代表格であるSales Gravy社。今回のトライツブログでは、海外現地調査レポート第一弾として、その創業者兼CEOであるジェブ・ブラント氏の講演内容をご紹介します。ブラント氏が講演の中で何度も訴えていた「Pipe is Life !」(パイプライン管理こそが営業の生命線だ!)とはどういうことなのか、早速見ていきましょう。

「Pipe is Life」とは?

講演の中身に入る前に、もう少しだけブラント氏について補足説明します。氏は「Fanatical Prospecting」(熱狂的な商談発掘(未邦訳))というベストセラーの著者。この本が出版されたのは2015年なのですが、2022年の今でもAmazonの「営業・販売(Sales & Selling)」分野で200位以内に入っており、3,000近くもの評価がつけられているロングセラーです。

実は、「Pipe is Life !」はこの本のキーワードでもあります。ブラント氏は同著の中で、そしてOUTBOUNDの講演の中で、営業担当者が自身のパイプライン(進行中の商談のストック)を常に潤沢に保つこと、つまりパイプラインの中にある商談を受注するだけでなく、見込客に日々コンタクトして持続的にパイプラインの中を一定量の商談で満たすことの重要性を訴えています。

常に一定水準以上の商談量を確保すべし

例えば、「営業のスランプはパイプラインの変動によって発生する」というのが氏の持論です。どういうロジックなのか、順を追って確認していきましょう。

①既存客対応に手間取ったなど、何らかの理由でパイプラインへの商談の補充が遅れると、
②数か月後に受注数が減ってくる、
③そうなるとパイプラインの量を通常以上に増やさなければならなくなり、
④今までは入れていなかったような受注確度の低い商談が入ってくる、
⑤確度が低いのでより必死に売り込まざるを得なくなり、
⑥それを見込客がプレッシャーに感じるようになるので、さらに受注率が下がり、
⑦スランプになる
となるため、何があろうともパイプラインの中の商談の量を一定以上確保しなければならない、というのです。

ビジネスの仕組みを勉強するためのゲームの1つに「ビールゲーム」というものがあります。これは参加者がビールの工場―卸―小売店に分かれ、消費者から求められる需要量に対して全体コストを最適化するように生産・流通を調整するゲーム。需要の変動に対応しているうちはいいのですが、ゲームが進むにつれて物流や生産のトラブルが発生して中間在庫の物量が大幅に上下するようになると、ある週は店頭に山のように陳列され、ある週はほとんど店にビールが並ばない、という状態が起きてしまいます。このように流通の段階で波が発生すると、それを鎮めるのは大変です。

これと同じように、パイプラインへの補充すなわち商談発掘が滞ると商談の量や質が大きく変動してしまうので、「Pipe is Life !」なのであり、常に一定水準以上の商談量を確保する必要があるというのが氏の主張です。とても納得できる説明ではないでしょうか。

ピンチのときほど「必要性の法則」でうまくいかなくなる

そして、受注数が減っている状態で受注確度の低い見込客向けに商談せざるを得ない状態になり、躍起になって受注しようとすればするほど成果から遠ざかる。このような状況を「必要性の法則」という言葉で表現しています。どういうことかというと

必要性の法則
受注しなければならなくなるほど、失注しやすくなる。

どうしても受注するんだと気負って一生懸命に取り組んだ商談はうまくいかなかったのに、リラックスして「取れなくてもいいや」くらいの感覚で臨んだ商談の方がうまくいった、という経験をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。この法則を発動させないためにも、安定した商談量の中で落ち着いて商談を進めるべきなのです。

「置き換えの法則」で補充しないといずれスランプに

そして、日々補充すべき商談の量についてもブラント氏は「置き換えの法則」というルールを提示しています。

置き換えの法則
商談を受注したら、あなたの受注率にぴったり合った数だけの商談を新たにパイプラインに補充しなければならない。

これはどういうことかというと、例えばパイプラインに10件の商談があり、そこから1件受注できて、残り9件はまだ商談中だとします。その時、平均的な商談受注率が10%なのであれば、今回の1件の受注に相当する10件の新規商談を発掘しなければならないということ。1件減ったから1件足すというのではなく、今ある9件の商談はどれも受注しない場合があると想定して商談を補充しなければならないというものです。

確率論の話をすれば残りの商談9件のそれぞれにも10%の受注率はあるのですが、もう受注する商談がないという悲観的な設定で補充しておかないと、パイプラインにちょうどいい量の商談はあるもののどれも受注確度が低いものばかりという状態になり、いずれスランプに陥ってしまう、というのがこの法則で言わんとしていることです。

スランプのときほど既存の商談/顧客ではなく、新規の商談/顧客に取り組もう

そして、それでもどうしてもスランプに陥った場合は、既存のつまり受注確度が低い商談や顧客を掘り返すのではなく、受注確度の高いものが含まれている新しい商談や顧客に思い切って取り組もう。そしてそうならないように「Prospect Fanatically, Everyday !」(毎日、熱狂的に商談発掘しよう!)というのが、このテーマでの講演の〆のメッセージでした。

以上がブラント氏の「Pipe is Life !」の概要のご紹介です。営業マネージャーの方々がチームの活動を管理する場合や、営業担当者が自分自身の活動の目安として、「常にどれだけのアクティブな商談が必要なのか」「自分たちの受注率と商談期間からすると、どれくらいの量/スピードで商談発掘しなければならないか」を考える際に参考にしていただけるのではないでしょうか。

コピーづくりの巧みさも学ぼう

OUTBOUNDの数多くのプレゼンターの中でも、ブラント氏は断トツに話が上手くて面白かったように感じました。その要因として、必要性の法則など営業を経験したことがある人なら誰しもが「あるある」と思うような内容が含まれていることはもちろん、それ以上に「Pipe is Life !」というコピーづくりの巧みさがあるように思います。

「Yes, We Can !」や「I Have a Dream」、「Make America Great Again」など、アメリカの政治家は日本人の私たちの記憶にも残るコピーを作るのに優れています。それと同じように、講演で伝えたいことを1つのコピーに磨き上げるスキルこそがブラント氏自身の最大のセールススキルだと感じました。そしてこのスキルは私たちの日々の営業活動、例えば提案のコンセプトづくりやセミナー等での事業紹介などの場面で参考にできるものでもあります。

その中身そのものと、コピーづくりという2つの観点から、今回の「Pipe is Life !」に学んでみてはいかがでしょうか。

参考:
「Playing to Win the Game of Sales」(Jeb Blount, Founder & CEO, Sales Gravy Inc., 21 September, 2022)
「How to Get Out of Sales Slump」(Jeb Blount, Founder & CEO, Sales Gravy Inc., 19 September, 2022)