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セミナーやWebでのプレゼンテーション、また顧客向けの提案書などにも最初に自己紹介のスライドを入れて上手に興味付けをしている方が増えているように思います。これまでにどんな仕事をしてきたか、何に強みがあってどんな仕事観を持っているのか、はたまたプライベートではどんなことを趣味にしているのか、といったことを話して聴衆をぐっと引き付けてから本題へと進む。自分のことをうまくブランディング/演出する人が増えたように感じます。

私たちが自分のことを興味付けする場はプレゼンテーションだけではありません。中でも、多くの人が日々利用しているのはSNSではないでしょうか。自分の趣味について発信したり、毎日の食事や生活の一部を切り取って共有したりすることで、いわば日常生活の中でセルフブランディングを行っているのです。

FacebookやInstagramがプライベート寄りなセルフブランディングツールだとすると、2003年にサービスが開始され、2011年に日本に上陸したLinkedInはビジネス特化型のセルフブランディングツール。プロフェッショナルとしての自分を表現/演出するツールとして、海外では名刺代わりのマストアイテムになっています。

そこで、今回は海外のLinkedIn活用のプロから、ビジネスでのセルフブランディングの仕方を学びます。自分のプロフィールをどのように表現し、日々の投稿でどう自分を発信していけば、プロフェッショナルとしての自分を上手に演出できるのか。セルフブランディング全般で参考にしていただける内容ですので、ぜひお読みいただき参考にしてみてください。

ダニエル・ディズニー氏に学ぶLinkedIn活用法

今回ご紹介するのは、OUTBOUND 2022というB2B営業向けのカンファレンスで、ダニエル・ディズニー氏が話した2本の講演から特に面白いと思った個所の抜粋版。ちなみにディズニー氏は「The Million-Pound LinkedIn Message」「The Ultimate LinkedIn Sales Guide」というLinkedIn活用本のベストセラーの著者なので、欧米では有名な講演者でもあります。

活用のコツ①プロフィール作成

まずは、LinkedInのプロフィール作成のコツから見ていきましょう。

  • 顔写真はプロのカメラマンに撮ってもらおう
  • 背景画像は自分の専門性やキーメッセージが伝わるものに
  • 企業でテンプレートを作るのも効果的
  • 「自己紹介」は空白行を入れて読みやすく
  • 「自己紹介」は見込客&既存客向けにフォーカスした内容に
  • 「自己紹介」の最後に連絡先と連絡方法を必ず入れる
  • すべての既存客に「スキル推薦」をお願いしよう(そのお返しにあなたも顧客のことを推薦しよう)

顔写真や背景画像にこだわったり、見込客や既存客向けに自己紹介を作るなど、ビジネス用途ならではコツが並んでいます。この中で私が一番感銘を受けたのが「スキル推薦」を顧客に書いてもらおうという部分。ただつながりを増やすだけでなく、相互に推薦しあうことでともにSNS上での価値を高めあう。プロフィールづくりからソーシャルであるべき、というのは面白い考え方だと思います。

ちなみにダニエル・ディズニー氏のLinkedInはこちら。自己紹介や職歴、スキルなどの欄の書き方が参考になりますので、ぜひご覧になってください。

活用のコツ②投稿

続いては投稿のコツについてです。

  • 「プロフェッショナル」と「パーソナル」のバランスに気を付けよう
  • よくあるダメな投稿3つは
     「同じ投稿の繰り返し」
     「機械的にシェアするだけなどの、自分らしさのない投稿」
     「スパム臭がする売り込み」
  • インサイトや気づきをみんなに共有しよう
  • 見込客発掘につながる投稿3つは
     「投票で会話を起こす」
     「『数多くシェアされた投稿』などまとめ的な投稿」
     「既存客の自分についての投稿のシェア」

1つ目のコツは、ビジネス用途がメインではあるものの、ビジネスについてばかりの投稿だと見てもらえなくなってしまうので、パーソナルな部分が見える投稿も織り交ぜよう、というもの。確かに仕事の固い投稿ばかりだと専門性は伝わりますが、親しみやすいとは思われないので新しい出会いやビジネスチャンスは逃げていきそうですね。

また、ビジネス用途だからといって、ガンガン売り込む投稿は逆効果。自分が気づいたことやインサイト(洞察、知見)について書いたり、自分について書いてくれている投稿をシェアするなど、下品にならないように上手にPRしようというのはシャイで謙虚な日本人の私たちにも共感できる内容だと思います。

専門性をPRしつつ、パーソナルな一面も紹介して親しみやすさを上手に上品に演出する

2つの講演の内容をギュッと圧縮すると、プロフィール欄ではしっかり専門性をPRしつつ、普段の投稿ではプロフェッショナルな部分だけでなくパーソナルな一面も示すことで親しみやすさを上手にかつ上品に演出しよう、というお話でした。「自分のことを積極的に売り込むのは恥ずかしい」という理由でLinkedInを敬遠していた人も、これなら試してみようかと思える内容だと思いますし、普段のプレゼンテーションや自己紹介の場面でも参考になるのではないでしょうか。

LinkedInは日本のビジネスパーソンにもこれから必要になるのか?

ここまでお読みいただき、「確かに自己アピールやセルフブランディングの考え方としてはわかったけど、LinkedInってやった方がいいの?」とお思いの方もいらっしゃることでしょう。

このご質問に対する私の答えは、「これまではやらなくてもよかったし、ここ1~2年で必須になることはないでしょうが、5~10年後には日本のビジネスパーソンにも必要なツールになりそうなので今から慣れておきましょう」というものです。まずは、これまで必要なかった理由から見ていきます。

なぜ日本ではSNSを活用した営業「ソーシャルセリング」の普及が進まなかったのか

これまでこのトライツブログでは、LinkedInやFacebookなどのSNSを活用した営業手法である「ソーシャルセリング」を何回か紹介してきましたが、その都度、日本での普及が進んでこなかった理由を考察してきました。

理由の1つは、Twitterのように匿名ではなくLinkedIn等の実名を前提とするSNSでは、ビジネス情報を開示するのに消極的な人が多いというもの。社会人向けのSNS研修では、「発信力向上」「パーソナルブランディング」よりも「炎上回避」「コンプライアンス遵守」にウェイトを置かれることが多いので、仕方がないように思います。

また理由の2つ目として、魅力的にPRできるキャリア形成が難しい、というものがあります。先ほど紹介したコツの中にも「プロフェッショナル」という表現があったように、自己PRする上で「映える」専門性は必要不可欠です。しかし、従来型の大企業に文系営業職として勤めているとどうしてもゼネラリスト型でキャリア形成されてしまうので、年齢や職級が上がるほど専門性が薄れていってしまう傾向があります。

この2つの要因により、日本企業、特に昔ながらの大企業で働く営業担当者にはSNSのビジネス活用は難しく、海外のように必要なツールにはなっていない、というのがこれまでのトライツとしての見解でしたし、他の記事でも同様の論調のものが多いようです。

「スキル/キャリア自己責任」社会への移行に伴いビジネス向けSNSの普及が今後進む?

しかし、ここ数年の世の中の趨勢を見ていると、それが変わりつつあるようです。企業には人的資本経営の一環でリスキリング等の育成環境の充実が求められている一方、従業員側にも有利な条件で雇われ続ける能力「エンプロイアビリティ」の向上が求められていますし、「労働市場の流動化」「労働移動の円滑化」といったキーワードも経済団体や政府から繰り返し発信されています。

これらのことを総合すると、日本全体で「会社が従業員の人生の面倒を見る」社会から、会社として育成環境は用意するものの「スキルアップやキャリア形成は自己責任」「良い職業/給料を得られないのは本人の努力不足」という「環境は用意するけど結果は自己責任」社会へと移行しているように思われます。

そして、そのような社会では、それぞれのライフステージに合わせてよりよい職場や働き方を目指して流動的に職を変えることが増えるでしょうし、それを実現するためには私たち一人ひとりが自らのエンプロイアビリティを求人マーケットであるLinkedIn等のSNSで発信・証明しなくてはなりません。つまり、
①自らの雇用維持のためのセルフブランディング目的での利用が増える
②利用者が増えるため、LinkedInのSales Navigatorなどのソーシャルセリング用ツールが使えるようになる
③ビジネスのためのソーシャルセリングとしてのSNS活用が増える
というこの10年の間に欧米で起きたビジネス向けSNS普及の流れが日本でもいよいよ起きるのではないかと思うのです。

「スキル/キャリア自己責任」社会に向けて少しずつ自分のことを発信していこう

それでは、これからどれだけの期間をかけてそのような社会に移行するのでしょうか。1~2年という短期間ではないでしょうが、5年後から10年後には確実にそうなっていることでしょう。その時に向けて少しずつLinkedInなどのビジネス系SNSに自分を慣らしていく際に、今回ご紹介したコツはきっとお役に立てるはずです。

具体的にはいきなりソーシャルセリングに取り組むのではなく、ちょっと人前で話をするところでもセルフブランディングを意識した情報発信をしてみる。その際に、自分自身のキャリアを棚卸し、それが企業にとってどれだけ魅力的なのか、エンプロイアビリティがどれだけあるのかを周りの人と見比べる。そんなことを重ねることが、これから変化していくビジネス環境を生き残る、あなたの大切なスキルになっていくと思います。

参考:
「Play 2 Win With LinkedIn」(Daniel Disney, Outbound 2022)
「How To Turn Your LinkedIn Profile Into A Sales Machine」(Daniel Disney, Outbound 2022)