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コロナ禍の3年間が過ぎ、セミナーや展示会のオンライン開催がすっかり当たり前の世界になりました。また、リモート勤務も一部の企業ではすっかり定着しているため、メールマガジンなどを使って定期的に情報発信する企業も増えてくるなど、B2B市場ではこの3年間でデジタルマーケティングが一気に進みました。

そして、それに伴ってMAツールやコンテンツ管理ツール、顧客データベース管理ツールなど、様々なテクノロジーの導入・活用が、日本国内だけでなく海外でも進んでいます。

今回はコロナ禍の3年間を経て、マーケティングテクノロジーがどのように伸びたのか、そして今後はどのようなテクノロジーが伸びると予想されているのかをご紹介します。マーケティングにおけるツールの見直しやさらなる活用促進をお考えの方には参考になる内容ですので、ぜひお読みください。

マーケティングテクノロジーの鳥観図「MarTech Map」とは

今回ご紹介するのは、マーケティングテクノロジー、略してMarTechを2011年から継続してウォッチし、1枚のマップにまとめ続けているChiefMarTechの「MarTech Map」の最新版(2022年版)です。

中身に入る前に、MarTechに含まれる範囲について簡単にご説明します。一般にB2Bマーケティングの範囲は商談化の可能性が高い見込客を発掘し、営業担当者に渡すまでです。しかし、今回ご紹介するMarTech Mapには「Commerce & Sales」という分野が含まれています。これは、いわゆるECといったオンライン販売のしくみや、「バイヤーイネーブルメント」と呼ばれるようなWeb上での見込客向けの情報提供のこと。つまり、一般的な「見込客発掘」にプラスして、(営業担当者ではなく)Webでの販売や情報提供も含んだマップになっているのです。

最新版2022年のMarTech Mapを見てみよう

それでは、さっそく見ていただきましょう。以下が欧米を中心とするB2B向けのマーケティングテクノロジーの全貌です。

こまごまとしたドットのように見えるもの1つ1つが、テクノロジーのアイコンを切り抜いたものになっています。よくわからないので、少し拡大してみましょう。

私たちにもなじみのあるCRMツールについてですが、これだけでも354ものツールがひしめいており、有名なSalesforceのアイコンを見つけるのも一苦労です。ちなみに左から8列目、下から2行目がSalesforceです。見つけられましたか?

掲載数は10,000件に迫るも成長は鈍化傾向に

CRMだけでもこの量なので、先ほどのマップ全体となるととてつもない数になります。その数はなんと9,932。2011年に初めて作られたときは、すべて合わせてもたったの150件だったので、この10年あまりで66倍に増えたことになります。

しかし、上のグラフをよく見ると、掲載数が倍増した2015年から2016年と比較すると、この数年で伸び率が鈍化している様子がうかがえます。このグラフをぎゅっと横方向に圧縮して近似曲線を追加したものが下のグラフです。

きれいなS字型の曲線を描いていて、2019年ごろから伸び率が低下傾向にあることが見てとれます。10,000件近くまで増えてはいるものの、どうやらかつての爆発的成長は終わりを迎えつつあるようです。

コロナ禍で伸びた3つの分類

全体的な傾向はここまでにして、分野ごとの傾向を見てみましょう。

MarTechのマップは横に並んでいる6つの列ごとに、大分類があります。それぞれは以下のとおりです。

  • Advertising & Promotion:広告宣伝
  • Content & Experience:コンテンツおよび顧客体験
  • Social & Relationships:SNSおよび顧客関係管理
  • Commerce & Sales:オンライン販売・営業支援
  • Data:顧客データ管理
  • Management:マーケティングマネジメント

この6分類について、2020年から2022年までの2年間の掲載数の伸び率の上位3分類は以下のとおりです。

  • マーケティングマネジメント:67%
  • コンテンツおよび顧客体験:34%
  • オンライン販売・営業支援:24%

コロナ禍の影響で、顧客を訪問することができなくなり、多くの企業がブログ記事や動画を作成するなどのコンテンツマーケティングを実践するようになりました。また、オンラインで注文を受け付ける仕組みを導入する企業も増えました。そしてこれらのツールが浸透する一方で、マーケティング活動が本当に実績につながっているのかが厳格に問われるようになり、KPIを測定・チェックできるマネジメントツールの導入も広がっています。

このように考えると、「コンテンツおよび顧客体験」「オンライン販売・営業支援」「マーケティングマネジメント」の3分類が大きく伸びているのは、多くの企業がコロナ禍に対応した結果として非常に納得できるものではないでしょうか。

今後15年で伸びるマーケティングテクノロジー大予測

ここまで、マーケティングテクノロジーのこれまでの推移を見てきました。それでは、これからはどうなっていくのでしょうか。2023年になってChiefMarTech社が、今後15年で伸びるマーケティングテクノロジーを大胆に予測した記事「2023 will be a chaotic year for martech, yet the start of a massive wave of growth」(2023年はMarTechにとって、大波乱の年でもあり、大きな成長の波が起こる年でもある)を発表していますので、その中からかいつまんでご紹介します。

ちなみに、ここでの「伸びる」についてですが、先ほど見た市場内のサービス数をS字カーブで表現する考え方がベースになっています。

テクノロジーは一般的に、初期は時間をかけてゆっくりと成長し、途中から市場が急拡大・急成長して導入側と開発側両方のプレイヤーが増えます。上のグラフの中央付近で傾きが最大になりますが、この個所を変曲点と呼びます。その後、市場が飽和状態になると値下げ圧力や高機能化への要望のため、開発する企業の新規参入が難しくなり天井付近で横ばいになっていきます。

ChiefMarTech社の記事では、B2Bマーケティングに関するテクノロジーのうち、何がすでに変曲点を超えていて、何がこれから変曲点に至るのかを解説しています。

飽和状態になりつつある「SaaS」「ソーシャル」「モバイル」

まずはすでに変曲点を超えていて、飽和状態になりつつあるテクノロジー3つです。

  • SaaS:インターネット経由でクラウド上にあるソフトウェアを利用するサービス
  • ソーシャルマーケティング:LinkedInやFacebook、InstagramなどのSNSを活用したマーケティング
  • モバイルマーケティング:スマホ等のモバイル端末向けのマーケティング

もはや業務システムを利用する際に、自社内にサーバーを立ててその中で開発するという作業はほとんど見なくなり、SaaSが当たり前になっています。そして、ソーシャルマーケティングは日本のB2B市場では未成熟なものの、欧米ではすでに需要が一巡し飽和状態になりつつあるようです。また、アプリを使ってスマホから使用できるシステムというのも物珍しくなくなっています。

これからの急成長が期待される「AI」「AR/VR」「コンポーザビリティ」「Web3」

では、これら3つに続いて、これから変曲点に進もうとしているテクノロジーを見ていきましょう。ChiefMarTech社では以下の4つがこれから急成長を迎えると予想しています。

  • AI
  • AR/VR
  • コンポーザビリティ
  • Web3

2016年に日本でも流行語となった「AI」。昨年はSNS流行語大賞に「AI絵師」という言葉が入るなど、いよいよ私たちの周りでも普通に使われるようになっています。そして昨年末にはChatGPTという今まで以上に自然な対話型AIが開発され、企業のカスタマーサービスや、文章作成など様々な用途での応用が期待されています。今後AIによる人手いらずのマーケティング活動や、顧客の購買活動がどんどん実現していくことでしょう。その意味で、今後もAIは要注目のテクノロジーです。

また、最近はメタバースなどの「AR/VR」周りもトレンドになっています。日本でも凸版印刷やリコーなどのB2B企業が参入したこともニュースになりました。まだまだS字カーブの初期段階のテクノロジーですが、ChiefMarTech社では今後15年以内に変曲点に到達すると予想しています。

そして3つ目に挙げられている「コンポーザビリティ」。直訳すると「組合せ可能性」で、様々なシステムを連携して使用可能にする技術というもの。現在のB2BのMarTechでは、1つのシステムでCRMやMAなどの一連の業務をカバーするワンストップ型が主流ですが、そうではなく部分的な機能に特化したシステムをレゴブロックのように組み合わせて使えるものとして開発しようというのがコンポーザビリティの考え方なのです。これは、次に出てくる「Web3」の要素の一部でもあります。

そして最後に挙げられているのが、近年見聞きすることが増えてきた「Web3」。「何か大きくインターネットが変わるらしい」「ブロックチェーンやエッジコンピューティングといった分散型技術が使われるらしい」などの情報が出ていますが、まだその姿ははっきり見えないでいます。しかし、現在のCRMやMA、SNSの多くが中央集権型のしくみで動いている以上、Web3への変革は大きな影響をMarTechにも及ぼすことは間違いないとChiefMarTech社は予想しています。

新しいテクノロジーで未来の働き方がどう変わるのか、今後も要注目

マーケティングテクノロジーのこれまでの伸びをおさらいし、これからの姿を垣間見てきましたが、いかがだったでしょうか。MarTech全体としての伸びは鈍化しつつあるものの、AIをはじめとしてこれから急成長する種があることが見えてきたのではないかと思います。今後どのようなテクノロジー/ツールが登場し、私たちが当たり前に使うようになってくるのか、その時の私たちの働き方がどのようになっているのか、引き続きこのトライツブログでも注目して追跡しますので、どうぞお楽しみに。

参考:
Marketing Technology Landscape 2022」(Scott Brinker, ChiefMartech.com, 2022)
2023 will be a chaotic year for martech, yet the start of a massive wave of growth」(Scott Brinker, ChiefMartech.com, 2023)