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AIを活用した分析機能を搭載したSFAやMAツールが増えてきています。これまでの傾向をもとに、受注につながりやすい商談とそうでないものとを判別したり、将来的な期待売上を予測して顧客の優先順位を評価したりというものです。そして、近年のAIや機械学習の普及によって、複雑な計算は全部自動でやってくれてユーザーが操作するのは学習させるためのデータを指定することだけ、というシステムも多くなっています。

ですが、本当に全部AIやシステムに任せてしまっていいのでしょうか。

今回はこれまでと少し趣向を変えて、SFAやMAなどの分析機能を選定・使用する方にはぜひ知っておいていただきたい、データ分析の2つのアプローチと、その選択の仕方についてご紹介したいと思います。自分に合ったデータ分析を成功させるために学んでいきましょう。

モデルの解釈を重視する「マニュアル型」のデータ分析

AIや機械学習が普及する前のデータ分析では、既存のデータからどれだけできの良い分析モデルを作ることができるかが、データサイエンティストたちの腕の見せ所でした。例えば、冒頭の「受注につながりやすい商談とそうでないものを判別するモデルを作る」という場合、それぞれの商談の見積額や発生時期、顧客企業の人員規模や利益率、商談対象者の役職などをもとに、受注確率を計算するというモデルを作ります。

この場合のモデルの「できの良さ」とは、受注する商談と失注する商談を見極める精度の高さだけではありません。モデルが理解しやすいものであるためには、なるべく少ない変数でできている必要がありますし、そのモデルが実際に業務に携わっている人が見て、納得できるものであることも必要です。「営業利益率が低い顧客で、役職の低い担当者の商談ほど受注確率が高い」というように現場の経験則と相反するモデルや、「顧客の本社所在地が『1丁目』で、顧客担当者の氏名が『ワ行』だと受注確率が高い」のようなモデルは、いくら予測精度が高くても「できの悪い」使われないモデルなのです。

このようなモデルには予測精度だけでなく解釈・納得できるものであることが求められるので、分析の専門家と現場の業務を知る人によるチューニングが必要です。そして、一度作ったモデルはしばらく使い続けられ、ある程度データが貯まった段階で検証・再チューニングされます。これを解釈重視・人力設計で固定的な「マニュアル型」のアプローチとしておきます。

自動で簡単に始められる「オートマチック型」のデータ分析

これに対し、現在主流になりつつあるものとして、AIがすべて自動で計算して最も精度の高いモデルを勝手に選んでくれるデータ分析のアプローチがあります。

計算速度も向上していますので、あまり関係のなさそうなデータも含めて使えるデータはすべて取り込むように指定し、その中から最適なモデルを計算させます。その際に変数の数を少なくする必要はないので、人の理解・解釈の上限を超える数百の変数を含むモデルもざらに使われています。

また、計算速度が向上したことによって、一度作ったモデルをずっと使いまわす必要がなくなりました。その時に使えるデータが日々増えていきますので、データが新しくなるたびにモデルを新しく作り直して、その都度最適なモデルを使って予測や評価をするようになっています。そのためこのアプローチを、精度重視・自動設計で流動的な「オートマチック型」と呼ぶことにします。

データサイエンスの専門家不在でも、社内にデータさえあれば簡単に始められる「オートマチック型」が現在の主流となっていて、その波はAmazonのリコメンド機能などのB2C市場だけでなく、SFAやMAなどの私たちB2B市場にも押し寄せてきています。

自分がやりたいデータ分析に合ったアプローチを選ぼう

ここで一度立ち止まって考えていただきたいのが、私たちがやりたいデータ分析に向いているのは解釈重視・人力設計で固定的な「マニュアル型」と、精度重視・自動設計で流動的な「オートマチック型」のどちらなのか、ということです。

例えば、Amazonのリコメンドのように大量の商品の1つ1つにモデルを作ろうとすると、必然的に「自動」にならざるを得ません。B2Bでも、アスクルなどのように商談の発生頻度が多くて、人が介在する余地が少ない商談の場合は「オートマチック型」がぴったりでしょう。

しかし、大口の取引で営業担当者がしっかり課題ヒアリングや提案書づくりに関わる商談の場合、いくら予測精度が高くてもモデルが納得できるものでないと営業現場から猛反発を食らうことは必至でしょう。他にも、限りのある既存顧客の中で優先順位づけをする場合なども、精度だけでなく解釈・納得できるモデルが求められるので、人の目でしっかり確認する「マニュアル型」が最適となるはずです。

以前、米国で顧客特性と商品の売上という変数で分析が行われた際に、人種を推測できてしまう変数をモデリングに使ったことが判明し、問題になったことがあります。このように分析としては正しくとも、全てを機械にやらせるとトラブルになることもあるので、人が介入することも大切なのです。

このように、「オートマチック型」と「マニュアル型」のそれぞれに向いている分析があるので、私たち使い手がそれを意識して上手に選択する必要があります。現在はAIの進歩と計算速度の向上によって、自動で全部やってくれる「オートマチック型」が流行っていますが、自分がやりたい分析がそれに不向きなのに流行に飛びつくようなことをしてしまうと、結果として現場に受け入れられずにお金のムダになってしまいかねません。

そのため、データ分析機能のついたシステムやツールを選ぶときは、最新機能や成功事例に振り回されるのではなく、まず自分たちがやりたい分析が何かを明確にし、それが「オートマチック型」と「マニュアル型」のどちらのアプローチに適しているのかを判断することが重要です。それができて初めて、世の中にある色々なシステムやツールの中から最適なものを選べるようになるのです。

自分に合った型/アプローチを選んでデータ分析システム・ツールを使いこなそう

SF小説「2001年宇宙の旅」で有名なアーサー・C・クラークの第三法則に「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」というものがあります。最新のデータを毎回読み込んで、その都度最適なモデルを生み出して予測・評価してくれる「オートマチック型」のデータ分析システム・ツールは、データサイエンスやAIに明るくない人にとってはまさに魔法のように便利なもの。しかし、その魔法は「実際にどんなモデルを使って予測・評価しているかを分からないし選べない」というブラックボックス的な性質を含んでもいます。

魔法のようなツールに安易に飛びつかずに、自分が本当にやりたい分析を知りそれに合ったモデリングの型/アプローチを選ぶ。データ分析システム・ツールをうまく使いこなすために、ぜひ参考にしてください。

参考:「統計学を革命する: 資本主義を支えるAIとアルゴリズム」(著:ジャスティン・ジョーク、訳:本多真奈美、青土社、2022年9月20日)