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顧客が求める情報をWeb上で提供するコンテンツマーケティング。2010年ごろにB2C企業を中心に日本でも本格的に広がり始め、2015年ごろにはB2Bでも取り組む企業が増えました。今となっては日本のB2B企業でもマーケティング施策として当たり前のものになっていますので、皆さんの企業でも製品情報やブログ記事にホワイトペーパーなど、何らかのコンテンツを発信されているのではないでしょうか。

コンテンツマーケティングが普及するにつれ、その種類も増えてきています。調査レポートにホワイトペーパー、YouTubeでの製品紹介動画に導入事例。海外では社内の専門家がポッドキャストを使って定期的に情報発信したりもしています。

このため、「コンテンツマーケティングに取り組みたいけど、どこから手を付けたらよいかわからない」や「すでに取り組んではいるけど、どこまで手を広げたらよいかわからない」とお悩みの方もいらっしゃると思います。

そこで、今回は「顧客に必要とされるコンテンツの全体像」をご紹介します。顧客はどんなコンテンツを求めていて、どこまで用意すればいいのか。自社の営業コンテンツを充実させたい方にも、大量にあるコンテンツを整理整頓したい方にも参考にしていただける内容ですので、ぜひお読みください。

顧客から嫌われているコンテンツを、価値あるものに修正するには

今回ご紹介するのは、コンテンツマーケティングや顧客体験に関する記事が優れているオンラインメディア、CMSWireの最新記事「Buyers Hate B2B Content. Here’s How to Fix It.」(B2B顧客から嫌われているコンテンツの修正方法)。B2B顧客が求めるコンテンツを、わかりやすく図表で整理してくれています。

その図表をご紹介する前に、記事のタイトルにある「B2B顧客から嫌われているコンテンツ」という穏やかでない文言の意味を見ていきましょう。まずは記事の冒頭部分から抜粋します。

私たちの調査によると、企業が提供するコンテンツの50%は読まれず、検索すらされていません。また、残りのうちの25%は読まれるものの、購買担当者の期待を満たしていませんでした。

記事の中身を読むと「顧客から嫌われている」は言い過ぎで、「顧客に必要とされていない」というのが正確な意味合いでしょう。では、どのようなコンテンツであれば、顧客に価値を感じてもらえ、必要とされるのでしょうか。記事の続きを見てみましょう。

購買担当者が価値を見出し、積極的に探しているのは、信頼できるソースによって作成されていて、自分たちの購買プロセスにマッチした売り手企業独自のコンテンツです。

顧客のそれぞれの購買プロセスで必要とされる情報を提供する。コンテンツマーケティングではよく言われる話ですので、「そんなの知っているよ」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この記事の面白いところはこれからです。顧客の購買プロセスを以下の5つに分解し、それぞれのプロセスで購買担当者が求めているコンテンツを一覧表にしているのです。

B2B顧客の購買プロセスの基本形

まずは記事の執筆者であるクリスティーン・クランデル氏が整理した5つの購買プロセスを確認することにしましょう。
1. トリガー:顧客企業が課題の存在を知る、きっかけとなるイベント
2. 定義:課題が重要なもので、解決のためにリソースを割くべきかどうかを組織として判断する
3. 探索:課題の解決策を調べ、それを提供できる企業を探してリストアップする
4. 評価:候補について深く掘り下げて調べ、ベストな解決策と企業を特定する
5. 検証:導入手続やサポート体制、投資対効果について調べ、組織で購入の意思決定をする

シンプルではありますが、企業の購買プロセスの基本形としては十分使えるものになっていると思います。

購買プロセスごとに顧客が必要としているコンテンツの一覧表

この5つのプロセスのうち、1番目の「トリガー」段階では顧客はコンテンツを必要としないため、2番目の「定義」から最後の「検証」までの4つのプロセスごとに情報を調べることになります。それではいよいよ、購買プロセスごとに顧客が必要としているコンテンツの一覧表の登場です。まずはご覧ください。

コンテンツの種類が縦に並んでいて、それぞれ適切な購買プロセスに丸印(●)がついています。表内のコンテンツはロジカルに整理されているわけではなく、重複が含まれています。例えば上の方にある「ソートリーダーシップ」は、「ブログ」や「ホワイトペーパー」の中に記載されることもあるでしょうし、その「ホワイトペーパー」の中には「製品情報」や「導入/成功事例」が含まれることもあるでしょう。そのため、横軸の各プロセスごとにどのようなコンテンツ/情報が必要とされているのか、という見方でみていただくのが良いでしょう。

プロセスごとのコンテンツを見てみよう

例えば、「定義」プロセスでは、その課題の重要性がわかるような客観情報が記載された「コラム記事」が役立つでしょうし、専門家としての意見を表明する「ブログ」も参考になるでしょう。

その後の「探索」プロセスでは、解決のためのアイデアが書かれた「ソートリーダーシップ」や、具体的なソリューションについての「製品情報」や「価格表」「YouTubeでの動画デモ」があると顧客に見つけてもらえます。海外ではB2Bのソリューションやシステムについての「格付け/クチコミサイト」が充実しており、探索段階の購買担当者がよく見ているようです。

次の「評価」「検証」プロセスでは、「導入/成功事例」や「導入企業リスト」「競合比較」といった情報が役に立ちます。また、「社内共有用資料」があると関係者に説明・回覧することができるので、顧客社内での検討がスピーディーに進むようになるでしょう。システムやITツール、生産設備や原料などを購入する際は、「サンプル/トライアル」の無償提供が不可欠なものとなっています。

誰もが使えるコンテンツ一覧の基本形・叩き台が手に入った!

これまでも、どのようなコンテンツが必要なのか、という記事はこのブログで何度も取り上げてきました。しかし、これまでの結論は「顧客の購買プロセスを理解しましょう。それぞれのプロセスで顧客が何を求めているかを理解しましょう。それに合わせてコンテンツを準備しましょう。以上!」というものが多く、「結局どうしたらいいの?」となっていたように思います。

それに対して今回ご紹介した表では、各企業でのチューニングが必要なものの土台となる基本形が示されているため、これまでよりも格段にわかりやすくなっているように思います。自分たちの顧客がどんなプロセスで購買を進めていて、各プロセスでどんな情報を求めているかは別途調べる必要があるものの、最初の叩き台として十分に使えるものになっているのではないでしょうか。

「評価」「検証」プロセスでさえも顧客が自分で進めるようになってきている

ここまで、CMSWireの記事の要点を抜粋してご紹介してきましたが、記事の中には書かれていない大事な前提情報があります。それは、「現在の顧客はWebで自ら情報を集めて、自分で購買プロセスを完結させようとしている」ということです。

「詳細な技術情報」や「トライアル」といった「評価」「検証」プロセスで必要な情報は、以前であれば営業担当者を呼んで対面で確認していましたし、営業担当者に作ってもらっていた提案書が「社内共有用資料」として利用されていました。しかし、コロナ禍をきっかけに購買のWeb化/自前化が加速し、「評価」「検証」プロセスでさえも顧客が自分で進めるようになっているため、それぞれのコンテンツが必要とされているのです。この記事が掲載されていたCMSWireというメディアはコンテンツマーケティングを中心に発達してきましたので、購買のWeb化/自前化はいわば自明の事実。そのため、記事の中には書かれていなかったのでしょう。

この観点から私たち日本のB2B企業でのコンテンツマーケティングの状況を見てみると、「コラム記事」や「製品情報」などの「定義」「探索」プロセスで必要とされている情報のコンテンツ化は進んでいるものの、「評価」「検証」プロセスで顧客が求める情報は十分にコンテンツ化されていないようです。この「評価」「検証」プロセスのコンテンツ整備で競合に遅れをとっていると、気づかないうちに顧客が競合に流れてしまったということになりかねません。

一覧表を使って自社のコンテンツを棚卸してみよう

今回ご紹介した一覧表を使って、皆さんの会社が公開・提供しているコンテンツを棚卸してみることをお勧めします。顧客の購買プロセスのうちどこのプロセスで求められる情報が充実していて、どこのプロセスの情報が抜けているのか。これからのコンテンツ作りに役立つ、大事なインプットデータとなるはずです。

参考:「Buyers Hate B2B Content. Here’s How to Fix It.」(Christine Crandell, President of New Business Strategies., CMSWire | Simpler Media Group, Inc., January 31, 2023)