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Open AI社のChatGPTに、GoogleのBardなど、昨年末から生成AIについての話が尽きません。

生成AIとは、大量のデータを学習することで条件に合った文章や画像、音声を新しく作り出すAI(人口知能)のこと。これまでも対話型のAIとしてはSiriやAlexaなどがありましたが、どうしてもぎごちなさがありました。しかし、ChatGPTやPerplexity AIなどは、普通に人とやり取りしているかのような出来。そのため、コンテンツ作成の自動化などのB2B営業分野での活用も期待されています。

今回は、「ChatGPTなどの生成AIがB2B営業をどう変えるのか」についての、海外の素晴らしい記事をご紹介します。生成AIによってこれからB2B営業はどう変わり、その中で勝ち残るために何が必要なのか。一緒に見ていきましょう。

生成AIの普及がB2B営業にもたらす4つの変化

今回ご紹介するのは、北欧スウェーデンで設立されたCRMとセールスイネーブルメントツールを開発・販売する企業メンブレン社のCEO ジョージ・ブロンテン氏の記事「4 Ways AI-Produced Content Will Change the Complex B2B Sales Game Forever」(AIが作るコンテンツがB2B営業にもたらす4つの変化)です。

ChatGPTなどの生成AIによってコンテンツ作りが容易になることで、B2B営業にどんな影響があって、どう変化するのか。ブロンテン氏が指摘する4項目を早速見ていきましょう。

1. スパムコンテンツの増加
AIを使ったコンテンツ制作ツールを利用する営業組織が増えるため、顧客はこれまで以上のスパムにさらされるようになります。(中略)顧客の多くが圧倒的なコンテンツ飽和状態となるでしょう。

2. 事実誤認の蔓延
(中略)AIによって生成されるコンテンツの多くに事実誤認が含まれています。誤ったコンテンツはBotによって増幅されるので、事実に反した情報や当たり障りのない情報が蔓延し、顧客にとって有用な価値ある情報を見つけるのがさらに難しくなります。

3. 専門知識の価値の向上
その結果として、信頼できる専門知識を持つ専門家がより求められるようになります。(後略)

4. 差別化の重要性の向上
(中略)一般的なコンテンツがあふれるため、個々の顧客に特化し、かつ希少性/独自性の高い情報がこれまで以上に求められるようになります。

3番目と4番目で言っていることはほぼ同じような気がするものの、総論としては納得できるものではないでしょうか。

ありきたりで一般的なコンテンツが量産される世界で求められる専門家

1番目の「スパムコンテンツの増加」と2番目の「事実誤認の蔓延」の補足として、生成AIのしくみを簡単に解説します。例えばChatGPTなどの文章生成AIは、聞かれた質問に対し、学習した膨大なデータの中から次に来るのが自然な単語を選び取って文章を作っています。

そのため、AIが作るのは読みやすいものの、斬新な切り口のアイデアや真新しい情報は含まれず、いわば「よく見聞きする当たり障りのない情報」とならざるをえません。例えば、「営業担当者が顧客に提供できる価値は?」という質問へのChatGPTの回答が、以下の画面です。

それらしい内容をそつなく答えられていますね。このような文章作りは生成AIのお手の物。しかし、「営業担当者が顧客に提案する場面での、今までにない斬新な演出を10個考えて」という依頼に対しては、以下のような回答が返ってきました。

今度は、どこかで聞いたことのあるようなアイデアが返ってきました。データをもとに学習する以上、真新しいアイデアや世の中にほとんど出回っていない情報を集めるのが苦手なことがよくわかりますね。

また、文章や単語の意味合いを理解しているわけではないので、事実情報を間違えて回答してしまうことも多々あります。例えば、日本の初代内閣総理大臣について質問してみた結果が下の画面です。小学校の教科書にも載っているので、普通に伊藤博文だと答えると思っていたのですが・・・

高校で日本史を選択していたとしても、多くの人が覚えていないであろう山本権兵衛が返ってきました。こちらも内閣総理大臣の経験者ですが、就任したのは大正時代の1913年。また、本当の初代内閣総理大臣が任命された日付も「12月22日」は合っているのですが、「1889年」ではなく「1885年」と微妙にズレています。

このように、世の中にあるデータを集めて学習した結果、ありきたりで普通なコンテンツが主に生成されて、そのコンテンツをもとにAIが学習することで、そのようなコンテンツがさらに多く広まっていく。また、増幅されていく情報の中には、先ほどの初代内閣総理大臣のように明らかに間違ったものも含まれている。そういった状況では、顧客の個別事情に合わせた情報、まだ公には知られていない取組事例、信頼できる詳細の専門知識といった、生成AIでは作れない情報を持っている専門家の需要がより高まっていく。ブロンテン氏の「生成AIがB2B営業にもたらす変化」を要約すると、このようになります。

専門家の仕事を便利にする、生成AIの2つの用途

記事では生成AIをB2B営業で活用できる、おすすめの2つの用途についても触れていますので、併せてご紹介します。

1. 最初のアイデアづくり
AIが最初に作成したコンテンツを、専門知識を持った専門家がチェックし、加筆・編集して利用します。

2. 引用元の調査
裏付けとなる情報源が必要な場合、これらを探すのは人間にとっては面倒で時間がかかりますが、AIはほぼ瞬時に完了できます。これについても、専門家によって、間違った情報や不確かな情報源を排除することが必要です。

大量のデータをもとに「それらしい」コンテンツを瞬時に作れる生成AI。ただ、その内容の確からしさをチェックしたり、オリジナリティを加えたりする役割として、専門知識を持った専門家が必要になる、というのがブロンテン氏の考察です。こちらについても、生成AIの得意不得意を踏まえた、納得の内容だと思います。

このように考えると、現在の生成AIは「すべての人を専門家にしてくれる」魔法の道具ではなく、「専門家がラクをできる」便利な道具なのでしょう。自分たちが顧客に大量のスパムコンテンツを送り付ける存在にならないためにも、専門家の補助ツールとして活用するというのが現実的なところではないでしょうか。

一般的で当たり障りのない情報が簡単に作れる世界だからこそ、専門家として顧客価値を高めよう

今回ご紹介した記事の内容をギュッと要約すると、「生成AIの普及によって、顧客は一般的で当たり障りのない大量の情報に圧倒されるので、信頼できて希少性/独自性の高い専門知識を持った専門家としての営業パーソンがこれまで以上に求められるようになる」。そして「専門家の仕事を効率化する便利道具としての価値もある」ということ。

生成AIはそれらしいコンテンツをサッと作ってくれる便利な道具です。コンテンツの叩き台や情報源の探索など、賢く使うことで私たちの仕事はずいぶんと楽になることでしょう。

また、私たちが疑問に思っていることや「これはどうかな?」というアイデアの種を投げかけると、Webから関連する情報を即座に集めてうまく整理してくれますので、話し相手や相談相手としても役に立ちます。時々間違ったことを言ってきたりもしますが、むしろその方が人間相手に相談している感じで面白いなとも思うのです。

その一方で、生成AIが作り出す大量の一般的なコンテンツの中で、私たちがこれからも顧客から求められる存在であり続けるためには、一人一人が学習し経験を積んで自らの業界や商品、そして顧客の課題や解決策についての専門知識を十分に蓄えた専門家となる必要がある。今回ご紹介した記事は、AIがコンテンツを量産するこれからの時代に、私たちの担うべき役割を明確に指し示してくれているように思います。

参考:「4 Ways AI-Produced Content Will Change the Complex B2B Sales Game Forever」(George Brontén, The founder & CEO of Membrain, February 15, 2023)