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ここ2か月ほど、2022年9月に米国アトランタで開催されたB2B営業カンファレンス「OUTBOUND 2022」の講演内容を紹介してきましたが、今回はこのカンファレンスの中で一番私が感銘を受けた講演をご紹介したいと思います。
講演のタイトルは「The Referral Machine Formula」。日本語に訳しにくいタイトルですが、無理やり訳すのであれば「紹介がどんどん舞い込んでくる営業のしくみの作り方」といったところでしょうか。電話を掛けたりメールでフォローしたりと大変な新規商談発掘に疲弊するのではなく、顧客から紹介してもらうことでもっと効率的に売ろうというもの。
このテーマだけを見ると「楽して稼ごう」という軽めの講演だと思ってしまいがちなのですが、最後には私たち営業に関わる者の心にグッと踏み込んでくる本質的なメッセージで講演が終わりました。私がその場で聞いたときは、剣道の面を脳天に叩き込まれたかのような衝撃を感じたのです。
顧客から紹介をもらえる営業になるための心得は何か。そして講演者が最後に投げかけた本質的なメッセージは何だったのか。ぜひ最後までお読みください。
ベテラン営業コンサルが語る「紹介がどんどん舞い込んでくる営業のしくみの作り方」とは
今回ご紹介する講演者は、The Sales HunterというB2B営業向け教育&コンサル会社の代表をしているマーク・ハンター氏。以前のブログでも軽く触れた、カンファレンス全体のオープニングセレモニーでBTSの曲に乗って颯爽と踊りながらメイン通路を進んで壇上に駆け上がった、齢70歳近くの主催者のおじいちゃんです。
そして、同氏は米国のB2B営業本でベストセラーの「Mind for Sales」や「High-Profit Prospecting」の著者でもあります。40年以上もB2B営業の世界に携わり、様々な企業に対してコンサルティングや研修を提供してきたハンター氏が語る、「紹介がどんどん舞い込んでくる営業のしくみの作り方」がどのようなものなのか、早速見ていきましょう。
紹介をもらう営業になるための5つの心得
ハンター氏が講演の最初に話したのが、「紹介をもらう営業になるための5つの心得」。1つずつ説明します。
1つ目は「紹介プロセスを自分でコントロールしよう」。依頼するための場のアポイントを取る、紹介を依頼する、紹介してくれた顧客と紹介された見込客との初回面談を行う、紹介された見込客の課題を共有・具体化する・・・といった、紹介を得て受注につなげるまでのプロセスを、相手任せの行き当たりばったりにするのではなく、自分で設計してリードしようということです。
2つ目は「毎週の目標を設定しよう」。新規の見込客との商談に行き詰ったときにだけ紹介に頼るのではなく、紹介をもらうための活動を日常のルーチンの中に組み込もうというもの。米国式だと週次ですが、日本だと月次で行うのが現実的でしょう。
そして3つ目は「紹介してくれた顧客には常に状況を知らせよう」。紹介してもらったもののビジネスにつながらない、ということもままあります。そんな状況でも常に紹介してくれた顧客には最新の状況を知らせるようにしよう、ということ。せっかく紹介してくれた顧客に「あの後どうなっているんだろう?」と心配させるようでは、次に紹介してくれることはまずありません。
4つ目は「相手以上に紹介してあげよう」。自分が紹介をしてもらいたいのなら、それ以上に相手に紹介案件を与えましょうということ。聖書にたびたび出てくる黄金律「人にしてもらいたいことは、あなたも人にしてあげなさい」をパワーアップさせたものです。自分が困ったときだけ紹介を頼むのではなく、紹介してもらうことの喜びを普段から相手に感じてもらっているのであれば、スムーズに紹介してもらえるのは間違いないはずです。
そして最後の5つ目は「よく考えた上で、ちゃんと声に出して依頼しよう」。どれだけ良い仕事をしていても、待っているだけでは紹介してもらえないのがほとんど。だから、はっきりと紹介してほしいことを声に出して頼む勇気を持たなければならない、ということです。
講演の最後に示された「紹介をもらえる営業になるために最も重要なこと」
5つの心得に続いて「紹介を依頼する際に話すべき4つのポイント」や「紹介を依頼するメッセージ例」など、具体的なノウハウが立て続けに紹介され、参加者も身を乗り出して聞き入っていました。そしてこの楽しい講演もいよいよ最後というときに、ハンター氏が「これまでに話してきたことはどれも重要ですが、それ以上に重要なことを今から話します」といって見せたスライドに書いてあったのが、この文章でした。
Referrals are measurement of your integrity, your ability to deliver what you’ve promised
(あなたが今もらっている紹介の数は、そのままあなた自身の誠実さや約束を実現する能力を映す指標そのものなのだ)
要するに、今紹介をもらえている人も、そうでない人も、それはこれまでの努力や振る舞いの結果なのだから、今日これまで話したことを取り入れるだけでなく、あなた自身が顧客にとってもっと価値のある人材にならないと意味がない、という本質的なお話。それまでは軽快に楽しく進んでいた講演でしたが、最後にこのスライドが出た瞬間に会場全体がシーンと静まり返り、私の周りの人たちも瞳孔が開いたかのようにじっとスライドを凝視していました。
改めて考えると、こちらから依頼はするものの既存顧客からの自然発生的に紹介されるということは、会社としていい製品/サービスを提供できていて、営業担当者として誠実に顧客の課題解決をできているという証。そのため、キャンペーンなどによる人工的に発生させた紹介ではなく、自然発生的な(最近のマーケティング用語でいうところの「オーガニック」な)紹介の数は、営業担当者としての自分の活動を振り返る指標として、また営業マネージャーとしてメンバーの活動を評価する指標として、確かに適切なものだと言えるでしょう。
焼畑式の営業から紹介・継続が舞い込む営業へと転換した事例
以前、私が数年にわたってコンサルティング営業への変革の支援をしたプロジェクトでのお話です。そこで生まれて定着したオリジナルのキーワードの1つが「焼畑禁止」。弁舌巧みに初回受注は獲得するものの、その後は紹介も継続もされないような焼畑式の営業をしてしまう人が多かったため、顧客の課題解決に寄り添いそれが本当に実現できたかを顧客と一緒に振り返って次の解決策を考えるようにしよう、と営業の仕方を変えるための研修やコーチングを行いました。
その結果、どうしても従来の焼畑スタイルを変えられなかったメンバーは早めに別の部署に移ることになりましたが、最初は焼畑式だったもののコンサルティング営業へと転換できたメンバーは、紹介や継続受注が次々と舞い込む立派なコンサルタントとなって大活躍をしていました。このような経験もあって、ハンター氏の最後のスライドに強い衝撃と感銘を受け、ここでご紹介したという訳なのです。
皆さんは既存顧客から自然発生的に紹介してもらえていますか?
ハンター氏の最後のスライド「あなたが今もらっている紹介の数は、そのままあなた自身の誠実さや約束を実現する能力を映す指標そのものなのだ」を読んだ上で、改めて考えてみてください。皆さんの営業組織は、そして皆さん自身は、既存の顧客からどれくらい自然発生的な紹介をもらえているでしょうか。胸を張って顧客に紹介を頼めるでしょうか。スライドの文章を読んでどんな気持ちがしたでしょうか。これらへの率直な答えの中に、営業のあり方を大きく改善できるヒントが隠れているのだと思うのです。
参考:「The Referral Machine Formula」(Mark Hunter, The Sales Hunter, September 22, 2022)