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大企業を中心にワクチンの職場接種も始まり、1年以上となった新型コロナウィルスとの戦いにも、いよいよゴールが見えつつあります。そうなると、現在リモートワークで働いている方が気になるのは、通勤の手間のないこの生活がいつまで続くのか、会社に通う生活がいつ頃戻るのか、週のうち何日出社することになるのか、ということではないでしょうか。

私の知っている会社では、コロナ終息後もリモートワークを残すと考えているところが多いようです。週のうち1~2回はリモートワークを認めるというスタンスの会社もあれば、原則リモートワークで出社は最大で週2日までという会社もあるなど、ばらつきはあるのですが、オフィスへの出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッドな勤務形態がこれからの主流になりそうです。

今回のトライツブログでは、コロナ終息後のニューノーマルとなるであろうハイブリッドな勤務で起こりうる問題、「チームの危機」について考えたいと思います。今後出社する割合が増える方だけでなく、すでにオフィス出社とリモートワークを組み合わせたハイブリッドな勤務をしている方も、ぜひお読みください。

記事①定着・継続する「ハイブリッドワーク」と、それにより訪れる「危機」

今回ご紹介する記事は、米国の経営層向けの雑誌「Chief Executive Magazine」を発行しているChief Executive Groupへの寄稿記事「Top 5 Unexpected Culture-Killers For Hybrid Work」(ハイブリッドワークで生じる5つの危機)。一体どのような危機が起きるのか、その原因は何か、早速見ていきましょう。

様々な調査指標で、雇用主も従業員もリモートワークを完全にやめてしまうことはないことが明らかになっています。経営者のうちコロナ以前の勤務形態に戻そうとしているのは5分の1よりも少なく、米国の労働者の半分以上が今後も定常的にリモートワークを継続したいと考えています。ほとんどの企業では、チームのうち一部がオフィスで勤務し、残りがリモートで働く「ハイブリッドワーク」が定着することでしょう。

記事の冒頭では、コロナ終息後にハイブリッドワークが定着する必然性を述べています。ただ、このハイブリッドワークによって、チームに危機が訪れるというのです。

ハイブリッドワークという環境では、「ずっとリモートワークのメンバー」「リモートワークがメインでオフィスには時々来るメンバー」「頻繁にオフィスに来るメンバー」「ずっとオフィスにいるメンバー」による社内での派閥争いが起こるリスクが高くなります。それぞれのメンバーにとってのチーム/会社での体験は、必然的に異なってきます。この「体験が異なる」ことが、ハイブリッドワークにおける問題なのです。

ハイブリッドワークでは、メンバーの出社頻度によってチーム内での体験が異なり、それによって内部不和が引き起こされ、それがチームに危機を起こすとしています。記事では続けて、出社組とリモート組とで異なる体験をすることが多い5つのシーンを挙げています。

記事②チームに危機を起こす5つのシーン

1. 定例会議
2. 突発的な打合せ
3. 社内行事・イベント
4. コーチング/OJTなどの指導
5. 暗黙的な文化

以下、記事の内容を要約してご紹介します。

「1. 定例会議」では出社組がホワイトボードを使ったり、出社組の中で会話を始めたりすると、リモート組がホワイトボードに書かれているであろうことを推測することや、出社組同士の会話に参加することはとても困難です。また、出社組の間では気軽に「2. 突発的な打合せ」をやれますが、リモート組では相手の状況が見えないのでそれをやりにくいという違いがあります。

部門全体を集めてやるような大型の会議や社内表彰、研修などの「3. 社内行事・イベント」などはコロナ以降頻度が減っていますが、再開されるようになると出社組とリモート組とでまったく別の体験となることでしょう。また、メンバーの出社頻度が異なる場合に、「4. コーチング/OJTなどの指導」や評価を公平公正にするのはとても難しくなります。リーダーが頻繁に出社している場合、オフィスで頻繁に顔を合わせるメンバーがより指導を受けやすくなったり、単純に顔をよく見るというだけで優遇されるということも考えられます。

「5. 暗黙的な文化」は少しわかりにくいのですが、出社組同士で食事に行った際の写真をSNSやコミュニケーションツール上で共有するなど、日常的な出来事の体験を共有できずに疎外感を感じることを指しています。

オフィスとリモートとで体験が異なる5つの代表的なシーンですが、リモートで仕事をしている割合が高い人は特にイメージしやすいのではないでしょうか。出社している人が多い会議にリモートで入ったりすると、声を張らずに話されている雑談についていけなかったり、会議の冒頭からすでに和気あいあいとしていて会議前から会話していたんだろうなと想像したりと、物理的なだけでなく心理的な距離を感じることがあると思います。そのような疎外感がチームを蝕むというのです。

記事③ハイブリッドワークで危機を起こさないための2つの対策

記事では最後に、これら5つのシーンで組織の内部不和が起きないようにするための具体的なアイデアを紹介しています。紙幅の都合上ここでは詳細を紹介できないのですが、大きくまとめると以下の2つに尽きます。
1.出社しているメンバーとリモートのメンバーとで同じ体験ができるように環境を整え、進め方を見直そう
2.頻繁に顔を合わせるメンバーを好ましく思う認知のバイアス(単純接触効果)の存在を組織全員で理解しよう

「リモート組が疎外感を感じないように意識しましょう」などと精神論で片づけるのではなく、システムやツールを揃えたり手順を見直すことで体験を再設計しようという工学的なアプローチや、認知のバイアスという根源から理解しようという案が出てくるあたりが非常にアメリカ的で面白いと感じました。

最も良くないのは無策・助長すること

出社頻度の違いによって会議やイベント、OJTなどの体験が異なってくる。それだけでなく、リーダーがより多く出社しているメンバーを好ましく思ったり、リモートのメンバーが疎外感を感じたりすることで、内部不和が生じてチームに危機が訪れる。とてもイメージしやすい内容ですし、すでに体験しているという方もいらっしゃるかもしれません。

では、このようなリスクがあるハイブリッドワークに対して、私たちはどうすればよいのでしょうか。

最も良くないのは、こうしたリスクや問題に対して見て見ぬふりをしたり、「リモートを選んでいるのは自己責任」「疎外感を感じるのが嫌なら出社しろ」などとハイブリッドワークそのものを否定することです。このような対応をしてしまうと、内部不和という危機を助長・加速させてしまい、リモートで働くことに価値を見出しているメンバーを転職などの理由で失うことになりかねません。

リモートワークの意義や価値を改めて確認しよう

ちなみに、日本の多くの企業には「リモートでは何をやっているのかわからないし、毎日決められた時間に出社している方が頑張っていると感じる」と考えている人がいまだにかなりいます。2つ目の打ち手にある認知バイアスというのは、「知らず知らずのうちに優遇してしまう」というものなのですが、それには「頭では平等に接するべきだと分かっている」ことが前提となっています。

しかし、日本の多くの企業では認知バイアス以前の問題として、そもそも「リモートで働くメンバーとオフィスで働くメンバーを平等に接する気がない」ということなので、そこから考え方を変えていかないとハイブリッドワークは定着しないでしょう。

これからワクチンの接種が広がり、経済活動を始めとして様々な活動が平常化していくことと思います。その際に、オフィスに出社する条件も緩和されることで、リモートワークを継続する人とオフィスに頻繁に出社する人というように、メンバーによって出社頻度が異なる、ということが当たり前になってくるはずです。

そのようなチームで、オフィスに来る人とリモートで働く人との間で不和や断絶を起こさないようにするためには、まず「リモートワークの意義や価値を改めて確認する」ということから始める必要があると思います。リモートワークを取り入れたことで個人/チームの生産性はどう変わったのかを数字で検証し、仕事や生活での満足度は変化したのか、そしてこれからもリモートワークを積極的に継続したいのか、これらについてメンバー一人ひとりの思いを知ることを行って、皆が気持ちよく働ける環境づくりを進めていくことが大切なのです。

一部の企業では既にオフィスのあり方を見直す動きが出ています。コロナという制限がなくなった後でも、物理的にメンバー全員分の席がなければリモートワークせざるを得なくなりますし、経費削減など経営上の大きなメリットになると考えられているようです。

しかし、そこで働く人に対して適切な打ち手を考えていかないと、チームとしての危機を迎えてしまうということを今回の記事は示唆してくれているように思います。

参考:「Top 5 Unexpected Culture-Killers For Hybrid Work」(Heinan Landa, Chief Executive Group, LLC., June 16, 2021)