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2022年も12月に入りました。お坊さんが特に忙しいと言われる師走ですが、営業では「12月だけじゃなく一年中忙しいよ」という方も多いことでしょう。

コンサルティング営業のために課題解決の提案書をしっかり考えて作らないといけないし、Webマーケティングやコンテンツ作りもしないといけない。マネージャーだと一人ひとりの部下にコーチングしないといけないし、毎月の数字も分析して報告しないといけない。これだけやることがたくさんあるのに、人数は限られているし、一昔前のような長時間労働はできないしさせられない。慢性的な人手不足が問題だと感じている営業組織はきっと多いはずです。

そんな忙しい方にとって気になる調査記事を見つけましたので、ご紹介したいと思います。タイトルは「人手不足に対応する営業組織の4つの戦略」。営業組織の慢性的な人手不足を解消するためにはどうすればいいのか、見ていきましょう。

戦略1:フィールドセールスからハイブリッドセールスやカスタマーサクセス、専門家への役割転換

今回ご紹介するのは、世界屈指の調査会社であるGartner社がSelling Power誌に寄稿した記事「Four Strategies for Sales Organizations to Respond to the Talent Shortage」(人手不足に対応する営業組織の4つの戦略)。景気後退の懸念を理由とするGAFAのレイオフのニュースが日本にも伝わっていますが、米国全体としては依然として人手不足の傾向が継続中。そのような状況を打開すべく、人手不足に対応して営業組織を再設計するための4つの対策が記されたというわけです。早速1つずつ見ていきましょう。

戦略1:役割の転換
Gartner の調査によると、バイヤーの 72% が営業担当者不在の購買を好んでいます。このため、フィールドセールスよりもインサイドセールスやデジタルと対面の両方をこなせるハイブリッドセールスの必要性が高まっています。
(中略)また、カスタマーサクセス、業界/分野や技術の専門家などの役割が営業担当者を支援することで、組織は高コストなフィールドセールスの人数を減らすことができます。

これはつまり、高コストなフィールドセールスの一部を減らして、Web活用で効率的なインサイド/ハイブリッドセールスや、カスタマーサクセスや業界/技術の専門家を増やすことで、体制を効率化しようという考え方です。

ただ、これがそのまま日本でもうまくいくかというと怪しいように思います。日本のようにフィールドセールスよりも営業企画系の人材の方が高給取りが多い場合、相当ドラスティックに総人員数を減らさないと逆に高コスト体質になってしまいます。また、労働市場の流動性がまだまだ高くはないので、ハイブリッドセールスやカスタマーサクセス、業界/技術の専門家という特殊性の高い人材をすぐに調達するのも難しいでしょう。

とは言え、課題解決営業やコンサルティング営業など、顧客の課題に合わせて解決策を提示する高度な営業の場合は、カスタマーサクセスや業界/技術の専門家は必要不可欠な存在ですので、日本の場合は現在のフィールドセールスにリスキリングを施してこれらの役割に転換させるということになるのだと思います。

戦略2:社内向け業務の簡素化/自動化による担当者の負担軽減

戦略2:負担の軽減
Gartner の調査によると、営業担当者の 90% が仕事に疲れ果てていると感じています。営業組織は、ワークフローや業務プロセスを簡素化および自動化して、社内向けの業務を営業担当者から引きはがし負担を軽減する必要があります。

収益を生まない社内向けの事務処理は自動化/効率化して営業生産性を高めよう、というのは職場にPCやSFAの導入が始まった20年以上前からずっと言われている話です。近年はRPAなどにより、銀行など大量の定型業務がある業界での業務効率化の事例も出てきていますが、個別対応が多い日本のB2B営業で成功しているのはまだ少数。

以前にある企業で顧客向けの個別対応業務をプロセス化/効率化するというプロジェクトを行ったことがありますが、改めてプロセスとその中身を書き出してみると、意外と共通している部分や定型化/システム化可能な部分が見えてくるもの。属人的でブラックボックス化している業務については、その見える化から始めるのが1つの打ち手になるように思います。

戦略3:データ分析で人が対応する対象顧客/案件を絞り込む

戦略3:対象の絞込
対象となる顧客/案件の基準を絞り込むことで、価値の高い顧客/案件に集中することができ、営業担当者一人当たりの収益を向上させることができます。

これを実現する上で大事なのが、データ分析で顧客/案件を評価する精度です。米国ではSFA/CRMやMAの中にあるAIによる分析機能が普及していますが、これも日本ではまだ一部の営業組織でしか取り入れられていません。

そしてなにより、これだけをやってしまうと組織全体の収益が減ってしまうので、次に紹介する戦略とセットで実施する必要があるでしょう。

戦略4:単純・小口の顧客/案件はEC化/自動化へ

戦略4:代替チャネルへの転換
単純で小口のトランザクション購入をEコマース化することで、営業担当者の負担を減らすことができ、さらに収益への影響も抑えることができます。

先ほどの「対象顧客の絞込み」と組み合わせて、大口顧客や規模が大きく難しい案件は営業担当者が直接扱い、それ以外の小口はEC化/自動化しよう、ということです。

営業の人手不足解消には「青い鳥」も「とっておきの秘策」もない

この4つの戦略を最初に読んで感じたのは、「やっぱり青い鳥なんていないのだな」ということ。今までに見聞きしたことがないようなとっておきの秘策が出てくるのではないかと期待していたのですが、4つの戦略とも私たちがよく知っていて、しかしまだ十分に取り組めていないことばかりでした。

しかしこれは裏を返すと、やるべきことはもう見えているし、すでに国内や海外では成功事例が出ているものばかりだから、決して不可能なことではない、ということでもあります。

そして、もう1つ大事なのは、この4つの戦略はそれぞれ独立しているのではなく密接に関連しているので、組み合わせて実施することに意味がある、ということです。顧客の特性や案件情報を分析・評価し(戦略3:対象の絞込)、単純・小口の顧客/案件はEC対応とする(戦略4:代替チャネルへの転換)。大口で難易度高い顧客/案件に対応するためには担当者だけでなく業界/技術の専門家やカスタマーサクセスといった体制を整え(戦略1:役割の転換)、組織全体の効率化を図るために業務の簡素化/自動化を進める(戦略2:負担の軽減)のです。

本当の問題は人手不足でなく、必要な施策を推進できるスキルを持った人材不足

それでは、この4つの戦略を取り入れるために必要なことは何でしょうか。それはリスキリングすなわち「育成」と、業務の自動化や顧客/案件データの分析、Eコマース対応などの「DX」の2つです。

若年労働人口の減少や、いまだに低い労働市場の流動性など、日本全体でも人手が足りない状況は続くでしょう。また、エン・ジャパン(2022年「企業の人材不足」実態調査)によると、人手不足の職種でトップなのは営業職(28%)とのこと。営業職の人手不足は今後しばらくは継続することになるでしょう。

しかし、これまで見てきたように打ち手がないどころか、打ち手は私たちがよく知っている「育成」と「DX」でした。そう考えると本当に深刻なのは、この「育成」と「DX」という打ち手を推進させる「人材」がいないということだと思います。

慢性的な営業組織の人手不足を解消するためには、今のやり方で人手を増やそうとするのでなく、必要なスキルを持った人材を確保することです。それは①社内で適性のある人に再教育する、②スキルを持った人を採用する、そして③外部リソースの力を借りるという3つの手段があります。

この記事を読んで、我々トライツはこの3つの手段のうち、③を行いながら、①にも取り組むことで、その組織の人材不足を解消し、組織全体の生産性向上のご支援を行っているんだと改めて感じました。もっと多くの企業の人材不足解消に貢献できればいいのですが、こちらの人材不足でそれができないのが悩みではあります(苦笑)

参考:「Four Strategies for Sales Organizations to Respond to the Talent Shortage」(Robert Lesser and Delainey Kirkwood, Gartner Inc., Selling Power Inc.,2022)