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前回のブログでご紹介しましたとおり、この2023年の9月7~8日にアメリカで開催されたB2B営業向けのカンファレンス「Sales3.0」に参加してきました。

今回はその中から、「高業績なチームを作るために営業マネージャーが取り組むべき『戦略』『文化』『人材』」というテーマについてご紹介します。業績が上がらないチームが陥りがちな落とし穴がどういうものか、どのような『戦略』『文化』『人材』が高業績につながるのか、早速見ていきましょう。

Sales 3.0の冒頭を飾った「指数関数的な成長を実現するために営業リーダーがやるべきこと」

今回ご紹介するのは、アクセンチュアの前身のアンダーセンコンサルティング出身で、B2B営業のコンサルティングと人材育成に取り組んでいるLSA Global社という企業を率いる、トリスタム・ブラウン氏の講演「The Moves Top Sales Leaders Make to Create Exponential Growth」。日本語に直訳すると、「指数関数的な成長を実現するために営業リーダーがやるべきこと」。

タイトルからするとなんの新しさもない、よくある講演のように見えてしまいますが、そうではありません。2日間のカンファレンスの冒頭を飾るにふさわしい包括的な内容ではありましたが、その中には刺激的で聞いていて耳が痛い話もしばしば。非常にためになる内容だったと思います。

営業マネージャーが取り組むべき「戦略」「文化」「人材」

ブラウン氏の講演は、営業マネージャーが取り組むべき3つのテーマを導きだすことからスタートしました。

8つの業界にわたる410社のB2B営業組織を対象に調査した結果、「明確な戦略」「目標達成志向型の文化」「その戦略と文化に合った人材」の3つが揃っている企業は、そうでない企業と比べて売上が58%多く伸びており、利益率も72%高い傾向がありました。

この調査結果をベースに、冒頭でもご紹介した「戦略」「文化」「人材」という3つのテーマが出てきたということなのです。それでは、「明確な戦略」「目標達成志向型の文化」「戦略と文化に合った人材」とは具体的にどういうものなのか、順に見ていきましょう。

「戦略」についての5つの危険信号

まずは「戦略」です。ブラウン氏が語る優れた戦略の条件は、「理解できて、信じられて、実行可能」であること。ところが、世の中にはこの条件を満たさない営業戦略が多いそうで、問題のある戦略にありがちな5つの危険信号を紹介していました。

戦略についての5つの危険信号
1. 重要な目標が多すぎる
2. 社内政治によって戦略が決まる
3. 責任の所在が明確になっていない
4. 社内が分断され、コラボレーション不足
5. メンバーは実行する前に戦略について質問する(戦略が十分に明確になっていない)

皆さんの営業組織ではどうでしょうか。「かなり当てはまっている・・・」という方もいらっしゃるかもしれません。確かに戦略がこうなっていたら、皆がきちんと理解して、信頼して取り組むのは難しそうです。

「文化」についての5つの危険信号

それでは「文化」に話を進めましょう。優れた文化とは「健全で、高業績志向で、部門間の連携を促す」ものだそうです。そして、戦略のときと同様に、問題のある文化にありがちな5つの危険信号をリストアップしています。

文化についての5つの危険信号
1. 成功/失敗の定義があいまい/不明確
2. 改善努力をしていない低業績者がいつまでも居座り続けている
3. 成果を上げるための方法がはっきりしていない
4. 業績指標があいまい/不透明/整合性がない/不公平
5. その組織で習慣になっているものごとの進め方が、ビジネスの妨げになっている

5つの項目が挙げられていますが、純粋に文化と言えるのは2と5ぐらい。1、3と4はどちらかと言うと戦略に当てはまる内容のように思えます。分類こそ微妙ではありますが、どの項目も高業績なチームを作りの足を引っ張るものであることは間違いなさそうです。

この5つの項目を総括してブラウン氏は「成長を望むのであれば、成長に焦点を当てず(成功の定義や業績指標を明確にせず)、成長を測らず、成長したメンバーに報酬を与えない(同様に、努力しない低業績者をそのままにする)ということはありえない」と表現していましたし、会場の参加者も大きくうなずいていました。成長というものが基本的な価値観になっていることがよくわかるシーンだったと思います。

「人材」についての5つの危険信号

最後に「人材」ついて。ブラウン氏が考える優れた人材とは「戦略を理解し、他にない差別化されたスキルを持ち、戦略/文化と一致している」人。ここでも、人材に問題がある場合にありがちな5つの危険信号を紹介していました。

人材についての5つの危険信号
1. 高すぎる、または低すぎる離職率
2. 営業マネージャーの育成不足
3. 求められるスキルが不明確
4. 業績が上位のメンバーも、下位のメンバーも同じように扱われる
5. メンバーが受け身で非自発的

1つめと4つめは、流動的で活発な労働市場があるアメリカだからこその考え方だと思います。競争的な職場環境を用意し、成果を出しているメンバーは昇進/昇格させ、厳しいメンバーは入れ替わってもらうことで組織としての強さを維持しよう、という実に欧米的な考え方がこの根底にあります。文化の2つめにあった「改善努力をしていない低業績者がいつまでも居座り続けている」も、この文脈で理解することで言葉のトゲが多少柔らかく感じられる気がします。

2つめの危険信号として、メンバーではなく営業マネージャーが育成対象として挙げられてるのも面白いですね。チームを育てるためには、メンバーより先にメンバーを管理・指導・育成する営業マネージャーを育成すべし、というのがブラウン氏の考え方でした。

講演全体に張り詰めていた「成長圧力」

私がこの講演を聞いていてまず感じたのが、米国ではそもそも組織やメンバー、営業マネージャーに対して「成長することが正義」という考え方が「圧力」として「当たり前」に存在しているという事実でした。「戦略はとことん明確にして必ず実現すべし」「成長を加速させる組織文化であるべし」「メンバーが成長でき、かつそれを自ら望む環境を作るべし」という「成長圧力」と呼べるようなものが講演全体に張り詰めているように思えたのです。

それに対し、日本の伝統的な企業の営業組織においては労働市場の流動性が低く、賃金形態ではあまり大きな差をつけて評価するのがまだ主流ではありません。「離職率が低すぎないように」や「成果を出しているメンバーはどんどん昇進/昇格させよう」というようなことを言われても、難しいものです。また、「成長」に対してプレッシャーをかけると、「パワハラだ」などと言われてしまう風潮もあります。

ブラウン氏の講演を素直に受け入れることができる米国と、「そうは言われても・・・」となってしまう日本の違い。それは組織の中にある「成長圧力」と、失った30年でしみついてしまった「みんなで我慢しよう」という「同調圧力」との違いが大きいように感じたのです。

日本でも成長を促す制度は増えてきているものの・・・

しかし、ここ数年の新聞の見出しを見ていると、成果主義が導入されたり、高スキル人材への待遇が大幅に改善したり、マネジメントだけでなく専門職としてキャリアを歩める制度ができたりと、制度面では成長を促す取り組みが増えてきているように思います。

人に対して十分な投資をせず、賃金も上げずに、「我慢」を強いてきた流れから、成長を促す取り組みが増えてきたことは望ましいことです。ただ、それがまだまだ実際の働き方や組織文化、働き方という面では今までと何も変わっていないことが多いとも聞きます。

そこで改めて日本企業に足りないと感じたのが、この「成長圧力」なのです。ただ、「成長しろ!」とプレッシャーをかけるのでなく、いろいろな取り組みがポジティブに「成長圧力」につながるようにしていくことが必要なのだと思います。そのためには、取り組みの「ねらい」や「意図」と、「その先に何があるか」がしっかり伝わるようコミュニケーションを深めていくことが大切ではないでしょうか。

自分たちの営業組織には十分かつ無理のない成長圧力がかかっているか?

今回ご紹介した講演では、なかなか手厳しく耳が痛くなる危険信号がいくつもありました。しかし、同時に組織やマネージャー、メンバーに対する「成長圧力」という、アメリカのB2B営業組織の基本的な価値観や志向性を理解する良い経験ができたように思います。

営業企画や営業マネージャー、営業トップの方は、皆さんの組織の戦略/文化/人材に、十分かつ無理のない「成長圧力」がかかっているかを考えてみると、下期または来期に取り組むべきテーマに新しい視点が加わるかもしれません。

参考:「The Moves Top Sales Leaders Make to Create Exponential Growth」(Tristam Brown, Chairman & CEO, LSA Global, Sales 3.0 Conference, September 7, 2023)