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Apple社の「Think Different」やトヨタの「トヨタ・ウェイ」のように、強い企業の中にはその企業独自の考え方、専門用語で言うところの「マインドセット」や「行動指針」があります。このようなものがあると、どのように考えて行動すればよいかが明確になりますし、企業としての一体感をもって事業に取り組めるようになります。

これはB2B営業においても同じ。わかりやすい行動指針/マインドセットがあれば、組織としてもっと生産性高く、効果的な営業ができるようになるということを紹介している記事を見つけましたので、ご紹介します。

昨今、システム系に偏りがちな昨今の営業改革ですが、これはこれで有効なアプローチだと思いますので、ぜひお読みください。

著名女性営業コンサルタントが語る「営業に役立つマインドセット/行動指針」

今回ご紹介するのは、現代のB2B営業のあるべき姿を描いた「The Modern Seller」の著者としても有名な、女性営業コンサルタントのエイミー・フランコ氏がB2B営業/マーケティング向けのWebサイトSales & Marketing Managementに寄稿した記事「Building a Strong Sales Pipeline: 6 Mindset Shifts to Drive Revenue Growth and Expand Your Reach」。日本語に訳すなら「強い営業パイプラインを作る:取引を広げて売上を伸ばすのに役立つ6つのマインドセット」でしょうか。

この記事では、B2B営業のうち特に「プロスペクティング」と呼ばれる、見込客からの商談発掘段階で役立つマインドセット/行動指針を紹介しています。

確かに営業活動をしていて一番精神的につらいのが商談発掘。見込客とのつながりを確かめながら、課題が発生しているか、自社の商品/サービスで課題解決に役立てるかを探り、商談へとつなげていきます。空振りに終わることも多いですし、相手との関係が不十分だったり相手の虫の居所が悪かったりすると、邪険に扱われることもあります。

そんなときに自分を奮い立たせてくれたり、心の支えになってくれたりして、次のアクションに取り組もうと思わせてくれる行動指針があれば心強いですよね。

商談発掘段階で役立つ6つのマインドセット/行動指針

それでは具体的にどんな行動指針なのか、見ていきましょう。

1. 不快感を受け入れる:見込客へのアプローチは電話であれメールであれ、相手の仕事を中断させてしまうもの。その不快感を受け入れよう。

2. バランスを見つける:問合せ対応などのインバウンドと、自分起点で連絡をするアウトバウンドの、自分なりの成功バランスを見つけよう。

3. 価値あるイベントでつながりを育てる:業界のオピニオンリーダーや意思決定者が集まるイベントを見つけ、参加してつながりを育てよう。

4. ルーティンを確立する:「週に3日、1~2時間/日を見込客発掘活動に使う」など、自分なりのルーティンを開発・継続しよう。

5. 最初の会話を効果的なものにする:事前に徹底的に相手のことを調査し、相手にとって生産的で効果的なやり取りができるようにしよう。アドリブ任せにしないこと。

6. 一つの商談を追いかけ過ぎない:可能性が低い相手を追いかけまわすのではなく、より慎重に判断して可能性の高い商談を発掘することに多くの時間を使おう。

全体的に基本的な内容ではあるものの、実践的でどんな業界の営業にも当てはまるものになっていると思います。

私が特に面白いと思ったのは、1番目の「不快感を受け入れる」。こちらから電話を掛けたりメールを送ったりすることは、多くの場合は相手にとって少し迷惑なものです。このことをしっかりと認めて受け入れた上で、5番目の「最初の会話を効果的なものにする」に則って、できるだけ相手にとって価値がある会話ができるように事前準備を念入りにしよう、というのはとても現実的ですし、営業に初めて取り組む新人の方にはぜひ伝えたいメッセージだと思います。

また、営業活動に慣れてきた中堅の方にとっても、自分の生産性をさらに高めるためのアドバイスとして、2番目の「バランスを見つける」や4番目の「ルーティンを確立する」は参考になるのではないでしょうか。

現代の営業に必要な5つのマインドセット/行動指針

実は、この記事に私が注目したのにはもう1つ理由があります。それは、この人の講演を直接聞いたことがあるからです。

去年(2022年)9月に米国アトランタで開催されたB2B営業向けのカンファレンス「Outbound 2022」に登壇したフランコ氏が話したのは、「現代の営業に必要な5つのマインドセット」。顧客がオンラインで情報収集し、自分で購買プロセスを進めてしまう現代の営業は、どのようなマインドセットで顧客と接すればよいかを5つのシンプルな単語で明快に語っていました。

1. アジャイル(Agile):戦略的に環境変化を取り込んで自らを短期間で変化させ続ける

2. 起業家視点(Entrepreneurial):顧客のビジネスの大局(売上と利益)を意識する

3. 全体志向(Holistic):すべての物事はつながっている。相手のビジネスをシステムとして観察し理解しよう

4. ソーシャル(Social):意識的につながりをはぐくもう

5. 外交官(Ambassador):顧客の中や顧客と自社の間につながりを育てよう

顧客の購買プロセスのどこでボトルネックが発生していて、それをどのように解消すればよいかを考えるためには、「全体志向」や「ソーシャル」「外交官」としての理解・行動がピッタリですし、顧客の課題を解決するまで伴走する役割を果たすためには、「起業家視点」で顧客のビジネスを理解するのが不可欠です。また、これだけ環境変化が激しい現代ですから、「アジャイル」であることも大事ですよね。

この5つのマインドセット/行動指針も、とても役に立つ内容だと思います。

ちなみに以前、私がコンサルティング営業の導入と定着を支援した企業の中に、特徴的な行動指針をキーワードとしていたところがあります。例えば、取引の可能性がある企業に一回提案してうまくいかなかったところに対し、きちんと継続フォローして次の機会を探ろうという意味の「焼畑禁止」。環境面で問題になっている焼畑農業からヒントを得て作られた造語なのですが、その組織で定着しみなが共有するマインドセットになっていました。

変化の激しい今だからこそマインドセットのアップデートが求められる

顧客が自分で購買プロセスを進めるようになったり、AIなどの様々なデジタルツールが普及したりと、現代の営業は大きく変化しています。そのためか、「新しい時代に適したマインドセットになるよう、自分をアップデートしよう」というメッセージが頻繁に発信されています。今回ご紹介したフランコ氏は営業が持つべきマインドセットの専門家として、様々なカンファレンスやセミナーに引っ張りだこなようです。

また、今年(2023年)の4月に行ったHR系のカンファレンス『UNLEASH AMERICA』でも、「新しい時代に合わせてツールセット、スキルセット、マインドセットをアップデートしよう」が全体のコンセプトでした。

このように、大きく変化している今の時代だからこそ、そこに適応するためのマインドセットというものに注目が集まっているのだと思います。

変化の激しい現代に合わせて、あるべき営業の姿を言語化してみよう

多くの企業には経営理念とか、社是・社訓・行動指針・ミッション・バリュー・フィロソフィーなどとして、その企業の根本となる活動方針を明文化したものがあると思います。

今回ご紹介したものはそれよりも営業活動に特化したもので、環境変化に合わせて柔軟にアップデートしてよいものだと思います。この記事をきっかけにし、デジタル化がどんどん進む中で、改めて自分達は何を重視して活動すべきなのかを整理してみてはいかがでしょうか。

聖書の冒頭に「はじめに言葉ありき」という有名な一文があります。現代の営業としてあるべき姿・目指したい姿を言語化することが、何よりも大事なのだと思うのです。

参考:
Building a Strong Sales Pipeline: 6 Mindset Shifts to Drive Revenue Growth and Expand Your Reach」(Amy Franko, Sales & Marketing Management, July 18, 2023)
「5 Traits of Today’s Modern Seller」(Amy Franko, Outbound 2022, September 21, 2022)