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歴史の転換点という言葉があります。明治維新や先の大戦など、大きな出来事によって社会や人々の生活が大きく変化したタイミングのことを呼ぶことが多いようです。例えば1991年のバブル崩壊とその後の不良債権問題は、大手金融機関の破綻や2000年前後の就職氷河期の原因となるなど、いまだに日本社会に尾を引く歴史的な転換点だったと思います。

もちろん転換点には前向きなものもあって、たとえば日本サッカーの転換点の1つは、日本人2人目のセリエA所属選手として活躍した中田英寿さんの欧州移籍があるでしょう。これを境に有望な若手選手が欧州の名門クラブで次々とプレーするようになりました。

そのような歴史的転換点がB2B営業にも起きています。それはもちろん、今もなお真っただ中にある新型コロナウイルスの感染対策として広まった、デジタルテクノロジーを活用したリモート営業への転換と、それに伴う営業デジタルツール「セールステック(SalesTech)」の普及です。

今回のトライツブログでは、現在急激に拡大・進化しつつあるセールステックの現状についてご紹介します。営業活動でもっとデジタルツールを活用したいとお考えの方は、ぜひお読みください。

2021年版セールステック・カオスマップ

セールステックとは、営業とテクノロジーの造語で、営業活動を効率化するためのデジタルテクノロジー/ツールのことです。日本でも2017年頃から記事で取り上げられるようになり、2019年には「SalesTech Summit」「SalesTech Forum」といったイベントが多数開催されるようになりました。SalesforceなどのSFAやHubspotなどのMA、tableauなどのBIツール、Sansanなどの名刺管理ソフトなどがその頃の日本のセールステックの代表格でしたね。

このセールステックが、新型コロナの感染拡大とそれに伴うB2B営業のリモート/デジタル化により、急速に拡大・進化を遂げています。パンデミック以降に更新された最新版のカオスマップを見ながら、どのように変化しているのかを確かめることにしましょう。

ご紹介するセールステックのカオスマップ「2021 B2B Enterprise SalesTech Landscape」は、ナンシー・ナーディン氏によるもの。ナーディン氏はGartner社などでアナリスト経験を積んだのちにSmart Selling Tools社を立ち上げ、毎年精力的にB2Bのセールステックのマップを作成・更新しています。最近発表されたマップは45分類に1,000以上のツール(ロゴ)が配置された超大作。2017年版に掲載されていたツールは400程度、その後2018年版は500、2019年版は600だったので、コロナ以降の爆発的な伸びは目を見張るものがあります。

動画/Web会議(Video)の躍進/セールスイネーブルメントの消失

このマップ、特に分類名を見ていると色々な発見があります。1つ目の発見は、動画/Web会議(Video)の充実です。現在私たちが当たり前に使っているWeb会議ツール(Online Video Meeting)だけでなく、短時間の動画ファイル作成ツール(Video Selling)や、拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を活用して3次元で製品デモなどを見せるデジタルセールスルームなど、リモート環境でも顧客体験を向上させるためのツールが数多く揃っています。これなどは、コロナ以降に花開いたセールステックのジャンルの代表例だと言えるでしょう。

そしてもう1つの発見が、「セールスイネーブルメントという分類がない」ことです。セールスイネーブルメントとは、ここ数年B2B営業においてブームとなっているキーワードで、もともとは営業活動全体を一貫して施策を設計・管理し、営業活動を最適化しようというもの。その中でも営業担当者が使用する製品情報や成功事例、提案書などのコンテンツを管理・最適化する「コンテンツマネジメント」、コーチングや研修などの「営業担当者教育」の2つの領域において、様々なツールが開発されてきているという経緯がありました。

そのような中、ナーディン氏の最新版のマップでは、これまでセールステックの要石だったセールスイネーブルメントという分類をなくし、「コンテンツマネジメント」と「営業担当者教育」の2つに分解するという思い切ったことをしています。確かにこれまでセールスイネーブルメントという1つの分類の中に、異なる種類のツールが含まれていることによる違和感がありましたので、分解しようという考えは分かります。しかし、施策単位で営業活動の有効性を評価・分析するという、セールスイネーブルメントの根本的な概念がどうなるのか。また、セールスイネーブルメントをツール名に冠している既存の数多くの企業がどのように反応するのか、とても興味深いです。

すべての営業活動はセールステックを通して行うものに?

最新版のセールステックのマップを見てきましたが、このマップから言えるのは「新型コロナ以降、セールステックのツール数が大幅に増えている」、そして「ツールの進化・増大により、セールステックの分類が変化しつつある」ということです。では、セールステックの使われ方はどのように変化しているのでしょうか。これについての興味深い記事を見つけましたのでご紹介します。

ご紹介する記事はマーケティング・テクノロジー(MarTech)についての有名なブログChiefMarTech.comの「More evidence that the Golden Age of Salestech has arrived」(セールステックに黄金時代が訪れていることのより有力な証拠)です。ChiefMarTech自体が、MarTechのカオスマップを継続して作成しており、MarTech側の立場からセールステックの進化・拡大について考察しています。

データやAIを活用したスケジューリング、最先端のデモやセールスプレゼンテーション、AIを活用したセールスコーチング、営業担当者の学習・育成、営業報酬やゲーミフィケーション、予測の深化やパイプラインのレビュー、多数のCRMなど、セールステック全体での活用が各企業で進められています。

これらの製品を組み合わせて使うことで、営業担当者の能力を高め、お客様に感動と喜びを与えることができます。そして、新たな営業手法や革新的な製品、プロセスを生み出す土壌ともなっています。

コロナ以前のセールステックは、営業活動を機能分解し、ツールの方が人間の手作業よりも明らかに効果的で投資対効果が見込める場合に、部分的に導入されるものでした。そのため、セールステックを導入している企業の多くで、営業活動は人の手作業とツールを組み合わせたハイブリッド型の業務となっていました。

それに対し、ご紹介した記事ではコロナ以降にセールステックの使われ方が変わってきていると述べています。ほぼすべての接点がデジタル化・ツール化されたことにより、セールステックはもはや人間の手作業を部分的に代替するものではなくなっています。営業活動全体をデジタルでおこなうことを前提に、自分たちの営業活動に必要な機能すべてをセールステックを通して行うものになってきているのです。

これは例えるなら、コロナ以前のセールステックは部分的に機械化されているが手作業が残っているタイプの工場のようなもので、コロナ以降はフルオートメーション化された工場のようなもの。このセールステックの使われ方・位置づけの変化こそが、現在のB2B営業に起きている歴史的な転換点なのではないかと私は思います。

セールステックを通してB2B営業の歴史的な転換点が見えてくる

SINIC理論というものがあります。これは、オムロンの創業者である立石一真氏が1970年に発表した、工業社会は手工業社会から工業化社会、機械化社会、自動化社会、情報化社会へと進化するという理論。50年以上前のものではありますが、過去から現在までのB2B営業の変化はまさにこのSINIC理論に沿ったものでした。個人の手工業的な営業活動から、プロセスや手順が標準化された工業的な営業活動になり、セールステックによって部分的に起きていた機械化・自動化・情報化の進化が、営業活動全体に広まろうとしています。

SFAやMAなどのセールステックを部分的に使っていたコロナ以前の営業と、顧客との面談やデモ/プレゼンテーション、営業担当者向けの研修やコーチングなど、営業活動のすべてをセールステックを通じて行うコロナ以降の営業。セールステックのマップの変化を詳しく見ることで、B2B営業に起こっている歴史的な転換点が見えてくる。そのように私は思います。

トライツブログでは引き続きセールステックなどの観点から、B2B営業に起こっているトレンドや変化をウォッチし、分かりやすく皆さまにご紹介していきます。これからもご期待ください。

参考:
2021 B2B Enterprise SalesTech Landscape」(Smart Selling Tools, Nancy Nardin)
More evidence that the Golden Age of Salestech has arrived」(ChiefMarTech.com, Scott Brinker, Feb. 8, 2021)