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星新一のショートショートの1つに「肩の上の秘書」というお話があります。そこは誰もが肩の上にロボット型のインコを乗せている世界。営業担当者が民家を訪れてその家の奥さんに訪問販売をする場面で、営業担当者がインコに小声で「この商品を買え」という指示を受けてインコが流暢な営業トークを話し、奥さんが自分のインコに小声で話した「いらない」という答えを受けてもう一羽のインコが丁重な口調で断るというものでした。

近年のAI技術の進化によって、実際にこれに近いツールが生まれています。もしかしたらあと数年で、皆さんも自分の代わりに営業してくれるロボットを手に入れているかもしれないのです。

今回のブログでは、人間の代わりに営業してくれる未来のテクノロジーをご紹介します。どんなことができるのか、そしてこのようなツールを取り入れるために私たちは何を考えるべきなのか、一緒に見ていきましょう。

インサイドセールスの完全自動化!Vocodia社のDISA

今回ご紹介するのは、フロリダに拠点を構える新進気鋭のテクノロジー企業Vocodia社のDISA(デジタル・インテリジェント・セールス・エージェント)です。これは、インサイドセールスやテレマーケティングのような見込客に電話をかけ、相手の課題を確認しながら自社商品の興味付けをして商談化する、という営業活動をすべて自動化するツールです。実際にどのように動くのか、1分40秒程度のこちらの動画を見てください。

ご覧いただいた方にはお分かりのように、このDISAは2つの機能が組み合わさっています。1つ目の機能は、「自己紹介し、相手に時間があるかどうかを尋ねる」→「自社商品に適した見込客かどうかを判断する」→「相手の課題を確認する」→「課題に合わせて自社商品の魅力を訴求する」というように設計されたプロセスに沿って会話するというもの。そして2つ目の機能は、冒頭の挨拶や相手からの質問など、ランダムに発生する会話をスムーズにこなしつつ、先ほどのプロセスに自然に戻すというもの。

この2つの機能によって、ご覧いただいたようなまるで人間が電話をかけているかのように自然なインサイドセールスが、完全に自動で実現できているのです。

さまざまな業界でDISAの活用が始まっている!

このVocodiaのDISAについてわかりやすく紹介している記事が、Selling PowerというB2B営業向け情報サイトにありましたので、見てみましょう。

「営業という仕事の80%は、電話をかけて自己紹介し商品の説明をすることです。DISAはこれらのタスクを自動化し、営業担当者がそれ以降の商談に集中できるようにするものです」とVocodiaのCEOである、ブライアン・ポドラック氏は述べています。(中略)

DISAは自動的に見込客に電話をかけ、自然な会話形式で説得力のある商品紹介を行います。そしてその後、DISAはその見込客を生身の営業担当者に引き継いで、個別対応が必要な営業プロセスへと接続するのです。

直線的で標準化が可能な商談発掘の会話を自動化するためのもので、その後の複雑で個別に対応しなければいけない商談活動は人間が実施するというのが、このDISAの基本的な位置づけなのです。

ちなみにこのDISAは既に米国周辺で実際に使われています。その中でも最大規模のユーザーがAccess Group社。銀行や保険、不動産やITなどの企業から業務委託されて、インサイドセールスやカスタマーサポートなどのコールセンターを運営している企業です。同社のラテンアメリカ・カリブ海地域のコールセンターでDISAの利用が始まっているそうです。

ChatGPT等のLLM技術によって日本語版DISAの登場も間近

ここまでご覧いただいて、皆さんはどう思われましたか。

私は、冒頭でご紹介した星新一の世界がいよいよ現実のものになってきたという、強い衝撃を感じました。まだ営業側だけではありますが、人間の代わりになって営業トークをできるロボットが本当に登場したのです。しかも星新一のロボットインコは1羽(1台)ごとに操作する営業担当者が1人必要ですが、VocodiaのDISAは一度AIにプロセスを伝えて自社データの学習を終えたら、営業担当者は不要。勝手に何千という見込客リストに架電して営業トークを始められてしまうのです。

ちなみにこのVocodiaはChatGPTとは別の技術ですので、現時点(2023年7月)では日本語版は存在しません。しかし、他の企業がChatGPTなどのLLM技術を使って似たようなツールを開発すると、当たり前に日本語でも使えるようになります。AIが未成熟な頃であれば「海外の話だから自分たちには関係ない」と無視できたのですが、日本語でも使えるAIが登場した現在となっては決して対岸の火事ではないのです。

日本語版のDISAとそれを活用して営業活動を効率化する競合企業の登場に備えて、私たちは何を考えなければならないのでしょうか。

日本語版DISA登場に備えて考えるべき2つの問い

第一に考えなければならないのが、「自分たちの営業プロセスのどの部分を標準化・自動化できるのか」です。

セミナーや展示会で出会った顧客のフォローや、数の多い中小の見込客への初回訪問のアポ取りなど、DISAが使えるような場面はどの営業部門にも存在するはずです。しかし、多くの営業現場では標準化、ルール化ができておらず、属人対応、イレギュラー対応だらけだったりするので、現状をベースに考えてしまうと何もAIに任せることができないという結論になってしまうでしょう。そうならないためには、大胆に「ここはAIに任せる」と意思決定し、業務を標準化させる必要があります。

その次に考えなければならないのが、「自分たちはAIに任せられる考え方をしているか」です。

AIに限らず最新の技術には不完全な部分があって、そのゆえにリスクがあります。ChatGPTが登場したときは、誤った事実情報を自信満々で回答してしまう「ハルシネーション(幻覚)」が問題になりましたし、Dall-eなどの画像生成AIでは指の形が変だったり箸を上手に持てていなかったりしたのが話題になりました。

日本語版のDISAでも、間違った情報を回答してしまうこともあるでしょうし、間違って人間が対応すべき顧客にAIが電話してしまい、激昂した相手に取引を打ち切られるということがあるかもしれません。とはいえ、同様のことは人間が営業していても起こるもの。一方的に新技術のミスや欠点ばかりをあげつらうのではなく、新技術と人間とを公平に比較衡量し、AIに任せられる部分は積極的に任せるような、合理的・功利的な考え方が必要だと思うのです。

将来のテクノロジーに備えよう

今回ご紹介した、完全自動でインサイドセールスをしてくれるAIツール「DISA」。冒頭で「未来のテクノロジー」と紹介しましたが、日本語版が登場するのも目前ですので、「未来(いまだ来たらず)」ではなく「将来(まさに来たらんとす)」のテクノロジーと表現するのが適切だったかもしれません。

まだご紹介した動画を見ていない人は、ぜひご覧いただきその衝撃を体験してみてください。そして、日本語版のDISAが登場し、競合企業がそれを活用して一気にビジネスを拡大しようとしたときに、自分たちがどうするかをイメージし「自分たちの営業プロセスのどの部分を標準化・自動化できるのか」「自分たちはAIに任せられる考え方をしているか」と考えてみていただきたいのです。この2点を真剣に考えることこそが、AIを活用した営業DXの第一歩なのだと思うのです。

参考:「The Cyborg Salesman: Using AI to Grow Your Team」(Brian Podolak, CEO & Co-Founder, Vocodia, Selling Power, 2023 July)