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「1億総活躍社会」やSDGs目標の「ジェンダー平等を実現しよう」のように、性別にかかわらず皆が色々な形で活躍する社会へと変わってきています。当初は耳慣れなかった「看護師」や「保育士」という言葉もすっかり定着し、「看護婦」「保母」「保父」といった言葉をほとんど見聞きしなくなったように感じます。
また、先日ある会社の営業マニュアルを作った際には、チラシや提案資料でのイラストの使い方の注意事項として、「人間のイラストを入れるときは男女の数に偏りがないように」「『技術職は男性』『事務職は女性』のように、職業・役割と性別をステレオタイプに結び付けない」という説明を入れました。このように、性別と職業・役割についての認識は大きく変化しつつあります。
しかし、営業職、特にB2B営業の分野ではまだまだ女性の進出が遅れているように感じます。他の部署と比べても女性の比率は低いところが多いように感じますし、非公式な文書や発言ではまだ「営業マン」という表現が残っていたりもします。そのようなB2B営業で女性がより活躍できるようになってきた、という海外の調査レポートが最近発表されましたので、一緒に中身を確認しながらB2B営業に求められる能力の変化について考えることにしましょう。
海外調査レポート「将来のB2B営業の主役は女性だ」
今回ご紹介する記事はHarvard Business Reviewの「Why Women Are the Future of B2B Sales」です。こちらの記事はコンサルティング会社ZS社とXactly社の調査結果を組み合わせたもので、大変面白いのですが本文がかなり長いので抜粋してご紹介します。
記事の前半部分で、ZS社が実施した営業担当者のパフォーマンス調査の結果を紹介しています。これによると、パフォーマンスの高い営業担当者と標準的なパフォーマンスの担当者を見分ける能力は、以下の7つだったとのことです。
・分析する・・・ものごとの原因と影響を理解して全体像を把握する
・接続する・・・顧客やチームメンバー、その他リソースとのネットワークを構築する
・協働する・・・他者と協力して作業する
・解決策を形成する・・・顧客の要望を理解し、それに提案内容を適合させる
・影響する・・・影響力を最大化するようにメッセージの内容とスタイルを整える
・推進する・・・体系的・計画的な進め方で求める成果を現実化する
・改善する・・・常に改善策を追求し、新しい挑戦に向けて準備する
さらに、この7つの能力を詳しく見てみると、面白い発見があったというのです。
ハイパフォーマーの女性も、ハイパフォーマーの男性も、どちらも7つの能力すべてをある程度は用いていました。しかし、ハイパフォーマーの女性は「接続する」「協働する」「解決策を形成する」能力をより用いており、ハイパフォーマーの男性は「推進する」「改善する」能力をより用いていることが分かりました。「分析する」「影響する」能力は、性別による違いは見られませんでした。
そして、ハイパフォーマーの女性営業担当者が持つこれらの強みが、現在のB2B営業においてより重要になってきている、と記事では述べています。少し長いのですが、よくまとまっている内容なのでお読みください。
現在のデジタルに詳しく、知識豊富な購買担当者は、営業担当者に対してこれまでとは異なる期待をしています。購買担当者は、商品が持つ機能に営業担当者が付加価値を組み合わせることを期待しており、その実現のために営業担当者には顧客と協働して解決策を形成する能力が不可欠です。(中略)
かつては男性優位であったハイテクセールスの分野でも、女性が持つ能力の重要性が増しています。ビジネス向けテクノロジー分野では、買い切り型ではなく、SaaS製品などのサブスクリプション型やクラウドなどのコンサンプション(消費)型の売上が増大しています。この場合、価値のほとんどは初回販売ではなく、顧客がベネフィットを認識し購入を拡大することによって得られますので、顧客に継続的な価値提供を実現するカスタマーサクセスマネージャー(CSM)の数が増えてきています。CSMの成功のためには「接続する」「協働する」「解決策を形成する」能力が欠かせません。繰り返しになりますが、これらは女性ハイパフォーマーが強みとする能力なのです。
ハイテクセールスの職において女性は1/4しか占めていませんが、CSMの50%~70%が女性であり、2020年4月時点で、女性がOracleやSalesforceを含む主要なハイテク企業のCSM組織のリーダーとなっています。
このように、変化しつつある現在のB2B営業においては女性のハイパフォーマーが持つ能力がより重要になってきており、私が冒頭で触れた社会的公平などの観点だけでなく、生産性という観点でもタイトルの通りWomen Are the Future of B2B Sales(将来のB2B営業の主役は女性だ)ということなのです。
以前から重要視されていた「接続する」と、新たに加わった「協働する」「解決策を形成する」
抜粋部分だけではありますが、記事を読んでみていかがでしたでしょうか。「パフォーマンスの高い営業担当者に共通する7つの能力」など参考になる部分も多く、良い記事だと私は思います。続きが気になる方はぜひお読みください。
記事の中で繰り返し出てくる「接続する」「協働する」「解決策を形成する」という女性ハイパフォーマーがより多く用いている能力について、私なりに少し補足説明したいと思います。私が社会人になった20年前を思い返すと、当時はCRMやロイヤルティマーケティング、ライフタイムバリュー(LTV)などが注目されていました。そのため、先ほどの3つの能力のうち「接続する(関係を構築・維持する)」だけが重要視されていたように感じます。
しかし、現在ではただ相手との良好な関係を維持するだけでは、営業として目標達成しづらくなっています。複雑化・高度化した商品・サービスを販売するために、顧客に合わせたカスタマイズがB2B向けの高額商品では不可欠のものになってきていますし、顧客から継続・拡大して注文を得るためには、単なるカスタマーサポートではなくカスタマーサクセスに取り組まなければなりません。その意味で現在の営業においては、顧客と一緒にカスタマイズされた「解決策を形成する」必要がありますし、顧客とカスタマーサクセスに向けて「協働する」必要があります。
今まで重要視されていた「接続する」にこの「協働する」「解決策を形成する」という2つの能力が追加されていることに、現在のB2B顧客の変化とB2B営業に求められることが凝縮して反映されていると考えられるのです。
女性活躍の広がりに加え、必要不可欠な3つの能力を強化する営業施策を考えよう
そして、この記事はB2B営業において女性の活躍の場を増やすことの意味をジェンダーの問題でなく、トータルのパフォーマンスを向上させる上での明確な「理由」としてロジカルに証明しています。これはスピードの差はあるでしょうが、日本においてもこれから「女性の活躍が社会的に必要」ではなく、「女性の方が顧客から必要とされる能力が高い」という理由でB2B営業において女性の活躍の場が広がっていくことを示唆しているように感じました。
また、そもそも「接続する」「協働する」「解決策を形成する」の3つを含む7つの能力は、男女問わずハイパフォーマーと平均的なパフォーマーを見分ける指標でしたので、男性でも程度の差はあれ必要な能力です。
従って、この3つの能力は男女を問わず、B2B営業に携わるメンバー全員として強化しなければならないものだと捉え、営業向け研修やツールの充実にも広げて考えていくべきでしょう。
例えば「自社の営業担当者が顧客と解決策を形成したり、カスタマーサクセスに向けて協働したりできるような教育研修を行っているか」「顧客と解決策を形成したり、協働するのに使える営業のツールやシステムは現場にあるか」「そもそも自社の営業にとって『解決策を形成する』『協働する』とは、具体的にどういう行動を指すのか」といった観点で自社の営業現場をチェックし、施策を考えてみてはどうでしょうか。きっと、これまでとは違ったアイデアが出てくると思います。ぜひ一度考えてみてください。
トライツコンサルティングは、現在のB2B営業の変化に合わせた営業研修やツールづくりを支援しています。「顧客と一緒に解決策を考えられる営業担当者を育てたい」「カスタマーサクセスを支援できる営業組織に進化させたい」とお考えの方はご相談ください。
参考:「Why Women Are the Future of B2B Sales」(Harvard Business Review, May 28, 2020)