この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。
「統計学が最強の学問である」という本が出版されて早や6年。今では、滋賀大学や横浜市立大学など「データサイエンス」を学部名に冠する大学も増えてきています。また、最近話題の統計問題では、各省庁に統計の専門家が不足していることが一因だとも言われており、統計学/データサイエンスに関するスキルを持った人材の育成がより重要視されるようになっています。このように、統計学は「最強」とまでは言えないにしてもとても重要な学問領域となっています。
一方で、B2Bの営業やマーケティングの分野でも、SFAやMAなどのシステムツールや売上データなどから、分析可能な様々なデータが生まれていますが、それらのデータが有効に分析されている企業はあまり多くありません。「統計学が役に立つ」と言われても、「なんだか難しそう」「普段の仕事での活用の仕方が分からない」という営業マネージャーや営業企画の方も多いのではないでしょうか。
そこで、今回からのトライツブログでは、「営業マネージャー/営業企画のための統計活用入門」と題し、全4回で実際の営業現場で使える統計学の手法/ツールを紹介していきたいと思います。第一回は「統計学の全体像と、その中で営業マネージャー/営業企画が知っておきたい分野」をできるだけ平易に解説します。
統計学を構成している6つの分野
統計学を一言で言うなら「データの中に含まれている特徴や規則性を見つけること」。この見つけたい特徴や規則性の種類によって、分野が分かれています。専門家の人には怒られるかも知れませんが、ここでは分かりやすさを最優先にして、統計学を以下の6つの分野に整理してみました。
- 1つのデータから特徴を見つける「統計量」
- 複数のデータから違いを見つける「比較」
- 複数のデータの間の関係性を見つける「相関」
- 複数のデータの関係性をもとに予測する「回帰」
- 複数のデータの関係性をもとにグループ化する「分類」
- 1~5の分析の確からしさを確かめる「検定」
それぞれがどういうものなのか、続けて見ていくことにしましょう。また、それぞれの分野の紹介の最後に具体的な分析手法を例示していますが、詳細は次回以降に説明しますので、今の時点では「そんなものがあるんだな」程度で軽く読み流してください。
6つの分野をざっくり確認してみよう
「統計量」は1つのデータに含まれている特徴を明らかにするものです。例えば、個人ごとの売上金額の平均値というのも統計量の1つです。統計量には他に、中央値、分散、標準偏差といったものがあります。この統計量についてはご存知の方が多いのではないでしょうか。
「比較」は、複数のデータ同士の違いを見つける方法です。例えば、営業拠点ごとや、商品分類ごと、顧客区分ごとに受注単価を比較することで、受注単価の高い営業拠点や商品区分、顧客区分を見つけられるようになります。この「比較」で使う分析方法には、分散分析、多重比較といったものがあります。
「相関」は、複数のデータの間にある関係性を見つけるものです。ある企業では、顧客別に商品分類ごとの売上データを使い、商品分類ごとの相関関係を分析しました。相関関係が強い商品分類ほど一緒に売れやすいということなので、クロスセルの提案を考えるときに役立ちます。「相関」で使う分析方法は、相関係数、共分散分析というものがあります。
「回帰」は、一般には「もとに戻る」という意味がありますが、統計学では「今あるデータをもとに未知のデータを予測する」という意味で使います。営業として予測したいものと言えば、商談が受注するかどうかでしょう。ある企業では、「顧客の予算」「決裁者」「課題」などのキーワードをSFAのメモ欄に記入しているかどうか、つまり客先でそのような話をしているかどうかで、商談の受注/失注を予測するという分析をしています。「回帰」で使う分析方法は、回帰分析、重回帰分析、ロジスティック回帰分析、判別分析などがあります。
「分類」は、関係性の強さをもとに大量のデータをグループにまとめるものです。3つ目の「相関」の例のように一緒に売れやすい商品同士をグループ化したり、企業規模や業種といったデータから売れる商品が似ている企業グループ分類を作るなど、様々な活用方法があります。この「分類」で使う分析方法は、主成分分析に因子分析、クラスター分析、多次元尺度法、コレスポンデンス分析など多数あります。
最後の「検定」は、これまでに紹介した5つの分野の分析結果の確からしさを確かめるものです。「比較」の結果が本当に正しいと言えるのか、確かに「相関」関係があると言えるのか、ということを確認するのですが、この「検定」の方法はとてつもない数がありますので、ここでは紙幅の都合上例示を控えさせていただきます。
使われているのが「統計量どまり」で宝の持ち腐れな日本のB2B営業
ここまで6つの分野をご紹介してきましたが、実際に皆さんが仕事で使っているのは6つのうちいくつあったでしょうか。
これまで私が色々な営業組織で使われているExcelのデータを見てきたところ、その多くが売上金額を集計したり、平均値を求めたりといった「統計量」どまりでした。拠点別や四半期ごとの売上を「比較」しているとは言え、それは合計額や平均値といった「統計量」を見比べているだけで、「比較」分析には至っていないところが多いのです。
この「統計量」は1つのデータの特徴を調べるものなので、どうしても出てくる結果は「分かり切ったもの」になってしまいます。これに対し、「比較」「相関」「回帰」「分類」ではデータの中に隠れている特徴や規則性を探るものなので、思いもよらなかったアイデアが得られることがあり、そこにこそ統計分析の価値があります。
日本のB2B企業の多くでSFAやMA、BIなどのツールを上手く使いこなせていない理由の1つは、この「統計の使い方が、統計量どまり」というところにあると私は考えます。
多くのデータが目の前にあり、それを様々な切り口で分析できる機能を持ったシステムがあるのに、実際に使っている統計の手法が「統計量どまり」では、わかっていることを集計しただけの答えしか得られず、新たな気付きにつながりません。せっかくハイテク機能テンコ盛りの最新オーブンレンジを買ったのに、冷ご飯を温めることにしか使っていないようなもので、「宝の持ち腐れ」になっている状態と言えます。
ちなみにここでの「宝」とは、分析ツールのことだけでなく、手間ひまかけて集めたデータのことでもあります。料理の仕方を知らないと、苦労して手に入れた産地直送の貴重な食材を活かせないのと同じです。
オーブンレンジを使いこなし、貴重な食材を美味しくいただくためには、マニュアルやレシピ本を読んで勉強したり、食材のことを知る必要があります。それと同様に、データを活かしていくためには統計の知識を身につけることが不可欠なのです。
このシリーズで学ぶのは「統計量」「比較」「相関」「回帰」「分類」の5分野
そのため、次回以降の3回では「統計量」どまりにせず、「比較」「相関」「回帰」「分類」の4分野で実際の営業分析に使える手法をご紹介していきます。
ここで「あれ、検定はやらないの?」と思われたでしょうが、「検定」は対象外とします。と言うのも、営業で分析するときは「意味のある傾向」を見つけることが最重要となるので、その傾向がどこまで厳密に正確だと検定することにはあまり意味がありません。「検定」は分析手法が無数にあって学習するのに骨が折れるものですが、B2B営業ではあまり使いどころがなく、コストパフォーマンスの低い分野なので、このシリーズでは割愛します。
次回は「統計量とその落とし穴」についてご紹介します
次回は、統計解析の基本中の基本である「統計量」についてご紹介します。「比較」「相関」「回帰」「分類」を理解するためには、この「統計量」についての理解は欠かせません。また、簡単だと思われがちな「統計量」ですが、そこには多くの企業でやってしまっている根本的な間違いがありますので、その落とし穴についてもご説明します。
私は統計とは、データという貴重な食材を最大限に活かし、美味しくいただくための料理方法のようなものだと考えています。一緒に統計を学び、料理上手を目指しましょう。
これからの営業担当者にとって、「統計」は絶対に武器になると思います。もしご希望がありましたら、こちらでご紹介しているような内容での社内勉強会なども承ります。下記よりお気軽にご相談ください。