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今週から新しい年度を迎え、新しいマーケティング/営業の施策を始めるという方も多いでしょう。新施策のための情報収集でしょうか、最近ではMA(マーケティング・オートメーション)やSFA以外に、ABM(Account-Based Marketing、アカウントベースド・マーケティング)という新しいコンセプトについて質問されることが増えてきているように感じます。皆さんもマーケティング関連のWeb記事などで、目にされたことがあるかもしれません。

そこで今回のトライツブログでは、最近話題になってきている「アカウントベースド・マーケティング(以下、ABMと表記します)」について考えてみます。

アカウントベースド・マーケティングとは?

Forbesの2月23日の記事に「アメリカのB2B企業のうち、ABMに取り組んでいる企業が昨年から倍増し41%になった」という一文がありました。このようにアメリカのB2Bマーケティング業界では、ABMが大きな潮流となっています。この流れに乗り遅れないように、MAシステムの大手Marketoは昨年9月にABMソリューションの提供を開始しましたし、SFA/CRM大手のSalesforce.comは、Salesforceを活用してABMを実現する方法についてWebでPRしています。

では、このABMとはいったいどういうもので、これまでのマーケティングとは何が違うのでしょうか。

「アカウントベースド」と言うとおり、ABMのターゲットの単位は「アカウント」つまり企業の購買意思決定単位です。そのためアカウントには、自ら中心となって購買を進める担当者や決裁権限を持つ上長など、購買のステークホルダーが含まれます。このアカウントという単位に対して、さまざまなマーケティング施策を通じて需要を喚起し、顧客の購買プロセスを進めていく(そして途中からは顧客と連携して受注・優良顧客化を実現する)のが、ABMです。

これは、「リード」と呼ばれる個人単位のターゲットに対して、マーケティング施策を提供して需要喚起することをしてきた従来型のマーケティングとは大きく異なります。いわば、従来型のマーケティングは「リードベースド・マーケティング」とでも呼ぶべきものでした。

ABMは「リードベースド・マーケティング」を全否定するものではありません。B2C市場や一部のB2B市場では、個人単位で商品・サービスを購入しますので、ターゲットはリード単位で問題ありません。しかし、B2B市場の多くでは組織として段階を追って購買プロセスを進めていきます。そして、大企業になるとその購買プロセスに関与する人の数は増えていきます。ガートナーグループの調査によると、100~500人規模の企業であっても7人ものステークホルダーが購買プロセスに携わるそうです。このような状況では、リード個人の需要を喚起するだけでは足りません。B2B市場の多くでは、アカウント全体の購買プロセスを後押ししなければならないのです。

従来型マーケティングとの違い

このアカウント単位という特性から、ABMと従来型マーケティングの違いが生じてきます。

1つ目の違いは「購買に関わるステークホルダーの数」です。ABMは購買のステークホルダーが多くそれぞれに対してマーケティング施策を打つ必要があると考えているため、そのステークホルダーをコンタクト先としてリストに追加し、メールマガジンの開封や自社HPの閲覧や資料のダウンロード、展示会等への参加などのマーケティング施策の結果情報をアカウントとして更新・管理します。一方、従来型のリード単位のマーケティングでは、このように組織単位でデータを集約管理する必要がありません。リードのうち誰がどの施策に反応したかだけを把握できればいいからです。

2つ目の違いは「購買プロセスの長さ」です。ABMはアカウントの長い購買プロセスに対して、それを後押しするようにキャンペーン施策を変化させ、組み合わせます。従来型のマーケティングでは個人の比較的短い購買行動を後押しするように、AIDMAなどの個人としての需要喚起のプロセスを進めます。そして、そのプロセスを進まないリードは脱落したものとして見捨てられてしまいます。ABMでは、反応がないアカウントに対しても継続的にマーケティング施策を提供し続け、相手が反応するのを待つのでリストが無駄になりにくい、という違いもあります。

新しいけどB2Bでは当たり前のアカウントベースド・マーケティング

ここまでABMの概要を見てきましたが、B2B営業からするとアカウント単位で施策を打つのは「当たり前のこと」でしかありません。営業担当のことをAM(アカウント・マネージャー)と呼ぶ会社があるように、顧客をアカウント単位で見るのは、法人営業ではいたって当たり前のこと。このABMは流行りのキーワードのようなものではなく、当たり前のB2B向けのマーケティングのやり方だと捉えるべきでしょう。

では日本のB2B企業は、この当たり前のマーケティング手法であるABMを急いで取り入れなければならないのでしょうか。ABMは日本市場でも急拡大するのでしょうか。

日本で普及するための2つのハードル

ABMがアメリカで急拡大した要因には、
「ABM実行のためのインフラとして必要不可欠なMA・CRMツールがすでに多くのB2B企業に普及していた」
「購買プロセスでWebやモバイルを活用する顧客に対して、マーケティング施策を提供するために不可欠なEメールアドレスなどを含む個人データを大量に購入することができる」
の2つがあると考えます。特に2番目の要因は大きく、有名なデータ・プロバイダーだけでも
LinkedIn 約3億5千万件
ZoomInfo 約1億3千万件
Salesforce.data 約5千万件
もの個人データを扱っています。

しかし、日本のB2B企業の多くではMA・CRMツールはまだようやく導入し始めたばかり。そして、個人情報の件数はとても少なく、業界大手の企業でも30万件にも届きません。さらに、その個人情報は新聞などに載っている人事異動情報をもとにしているため、Eメールアドレスなどはほとんど含まれていません。MA・CRMツールを使ってABMをやろうとしても、実際に使えるデータは社内に散在している名刺情報程度しかないのです。

このように考えると、日本のB2B企業がよりMA・CRMツールを使いこなせるようになり、さらに購買プロセスでのWeb活用がどんどん進む顧客に合わせて、Eメールアドレス等の情報を扱うデータ・プロバイダーが充実する、というようにならないと実用化は難しいと思われます。

今のマーケティングをABM流にアレンジすることから始めよう

まだ実用化は難しいとは言え、ABMの考え方は日本でも今後B2Bマーケティングの根幹となるでしょう。

洋書を中心にABM関連の書籍は増えていますし、アメリカでも導入事例が多数出ています。ABMの考え方を理解し、少しずつでも自分たちのマーケティングのやり方をABM流にアレンジしてみるということが、今できることだと思います。まずはその第一歩として、「顧客の組織内における購買プロセスの明確化」と「理想とする顧客アカウントのプロファイリング」から始めてみてはいかがでしょうか。

参考:「Startups, Take Note: How to Excel at Account-Based Marketing」(Forbes、February 23, 2017)

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