営業戦略

自己研鑽か環境適応か? 営業力強化の2つの考え方

自己研鑽か環境適応か? 営業力強化の2つの考え方

これまでこのトライツニュースでは、米国を中心とする海外発のB2B営業やマーケティングついての調査レポートや雑誌記事をご紹介してきました。日本でも刊行されているForbesやHarvard Business Reviewといった雑誌でも、日本版には紹介されないもののB2B営業・マーケティングのトレンドをうらなう上で参考になる記事がたくさんあります。

とは言え、日本の雑誌も負けてはいません。昨年12月に刊行された一橋ビジネスレビューの冬季号の特集は、ズバリ「『新しい営業』の科学」。皆さんの中にはお読みになられた方もいらっしゃることでしょう。

そこで、今回のトライツニュースでは、この「『新しい営業』の科学」を参考に、営業力強化の根幹となる2つの考え方について見ていきたいと思います。

特集記事「『新しい営業』の科学」

一橋ビジネスレビューの「特集『新しい営業』の科学」は、営業に関する6本の論文とサマリーページの計84ページにも及ぶボリューム満点の特集記事です。ここでそれぞれの論文のあらましを紹介するだけでも膨大な量になってしまいますので、論文のタイトルだけご紹介します。

「特集論文-Ⅰ.現場から見た日本企業の営業」(野部剛、小松弘明、生稲史彦)
「特集論文-Ⅱ.セールス研究の現状と営業研究の課題」(稲水伸行、佐藤秀典)
「特集論文-Ⅲ.データから見えてくる日本の営業」(稲水伸行、鏑木幸臣)
「特集論文-Ⅳ.営業活動における組織能力向上」(山城慶晃)
「特集論文-Ⅴ.価値競争型営業への道筋」(小菅竜介)
「特集論文-Ⅵ.AIは営業担当者の働き方をどのように変えるか」(伊達洋駆、山本勲)

これらの論文の多くは、東京大学や筑波大学に慶應義塾大学、立命館大学の教授や研究者と営業に関連するビジネスに取り組んでいる民間企業(ソフトブレーン・サービス株式会社、株式会社ビジネスリサーチラボ)との共同で執筆されています。そのため、学術的なアプローチが前面に出てはいますが、実際の日本企業の営業活動の実態をよく反映しているものと言えるでしょう。ご興味のある論文がありましたらぜひ読んでみてください。

営業力強化には「自己研鑽型」と「環境適応型」の2つの考え方がある

実は、私が論文を読み進めていく中で、そこで前提としているもの、当たり前のものとして取り扱われているものが、トライツニュースで紹介してきた海外の記事と大きく異なっている、という感覚を強く感じていました。そして、一通り読み終えてから改めてサマリーを読み直したときに、その疑問はクリアになったのです。

サマリーの一部にこのような表現があります。

本特集では、実践と学術、定量と定性を組み合わせて、日本の営業の今を捉えようと試みる。立場や手法が違っていても共通しているのは、営業を組織として遂行することを是とし、そのために営業プロセス、人材の育成と選抜を見直すべきだということだ。

この「営業プロセス、人材の育成と選抜を見直す」というのがまさにこの特集論文の根幹となる考え方になっています。つまり、営業活動の成果を上げるためには営業マンが主体となって営業プロセスを進める必要があり、その営業プロセスを進めるためには営業マンのスキル向上が有効である、という考え方です。これを一言で表現するならば、営業が自分たちのプロセスを磨き、自分たちのスキルを高める「自己研鑽型」の営業力強化だと言えるでしょう。

片や、これまでトライツニュースで紹介してきた海外の記事やレポート、書籍の多くは別の考え方を前提としています。それは、顧客の購買活動のWeb化が進んだり購買プロセスが長期化・複雑化するなど、営業を取り囲む環境は大きく変化してきている。そのため、営業はその環境変化に合わせてWebコンテンツややデジタルツールを駆使して、顧客の購買活動を支援するような営業のあり方に変わるべきだ、というものです。これは「環境適応型」の営業力強化と言えます。

今回ご紹介している「『新しい営業』の科学」は、営業力強化に対する2つの考え方のうちの前者である「自己研鑽型」の特徴が非常に強く出ており、そこが面白いところだと私は思ったのです。

営業に関するツール・サービスはどちらかの考え方がベース

ちなみにこの「自己研鑽型」と「環境適応型」という営業力強化の根幹になる2つの考え方は、論文や記事にだけ現れてくるものではありません。例えば、営業向けのコンサルティング・サービスでも、提案力やヒアリング力など営業マンのスキル強化や、他部署との連携を強めるなどの自己研鑽型を得意とするところもあれば、顧客のペルソナを整理したり、顧客の購買活動の開始点から商品・サービスの使用までの流れであるカスタマージャーニーを描いたりするような環境適応型のサービスを強みとしているところもあります。

また、SFAなどのデジタルツールは「自己研鑽型」と「環境適応型」のどちらか得意なアプローチを持っています。それはそれぞれのツールの生い立ちや、営業に対する「思想」の違いから来るもののように思います。
「自己研鑽型」が得意なツールは、自分たちの営業プロセスがベースとなっていてそれをいかに前に進めていくか、そしてその状況をいかにマネジメントするかが主眼となっています。従来からある日本のSFAシステムはこちらが多いように思われます。

一方で、MA(マーケティング・オートメーション)やABM(アカウント・ベースド・マーケティング)、また海外産のSFAの多くは、営業がコントロールしきれない「環境」である顧客の購買プロセスやカスタマージャーニーをいかに促進していくかという考え方がベースになっており、「環境適応型」が得意な営業改革ツールだと言えるでしょう。

ここで、「MAや海外のSFAなど、新しいもののベースとなっているのだから『環境適応型』が今は正しくて、『自己研鑽型』が時代遅れなのだろう」と思われる方がいらっしゃるかも知れませんが、そうではありません。それぞれの企業の営業が相対しているマーケットによって、環境適応型が必要なこともあれば、自己研鑽型が適していることもあります。大事なのは自社の営業が置かれている状況から、どちらに軸足を置いた営業力強化に取り組むべきかを考えることなのです。

あなたに必要な営業力強化は自己研鑽型?それとも環境適応型?

今回のトライツニュースでは、一橋ビジネスレビューの「特集『新しい営業』の科学」を俯瞰し、営業力強化について根幹となる2つの考え方、自己研鑽型と環境適応型について見てきました。

これから4月の新年度に向けて、営業力強化のための施策を考える、という企業も多いことでしょう。デジタルツールの導入に、研修プログラムの策定、組織体制の見直しにコンサルタントを入れたプロジェクトの発足を考えている方もいるかも知れません。その時には、ぜひ今回の記事を参考にしていただき、

「自社の営業改革で、軸足を置くべきなのは自己研鑽型と環境適応型のどちらの考え方なのか」
「今、検討の俎上に上がっている選択肢は、どちらの考え方をベースとしたものなのか」

を考えてみてください。大事なのは、自社に適した考え方をベースとしているツールやサービスを見極めることです。

参考:「特集『新しい営業』の科学」(一橋ビジネスレビュー、2018年冬季号)

投稿者プロフィール

寺島 孝輔
実際に現場で成果が出るまでお手伝いします。現場の力を引き出し、現場に新しいアイデアを加えることで、顧客から選ばれるビジネスへの変革を実現します。
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