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「SFAの入力や社内調整に追われて、1日が終わってしまう」
忙しい日々の中で、こんな感覚を抱くことが増えていないでしょうか。 SFA(営業支援ツール)への正確な入力、最新のAIツールの使いこなし、売れる提案書の作成、そして複雑な社内調整。「やるべきこと」のリストは増え続ける一方です。
そんな中で、多くの若手・中堅営業の方々と接していて、気になることがあります。
それは、「やるべきこと」に追われるあまり、一番大切なはずの『目の前のお客さんの顔』を直視する余裕を失っているのではないか、ということです。
この「余裕のなさ」の正体を突き止め、そこから抜け出すヒントを提示している非常に興味深い調査結果を見つけました。ぜひお読みください。
7割の営業が「やることが多すぎる」と悲鳴を上げている
Gartner社がB2B営業1,026名を対象に行った調査によると、72%が「求められるスキルが多すぎる」、70%が「使わなければいけないテクノロジーが多すぎる」と回答しています。
「効率化」のために導入されたツールを使いこなすことに必死になり、肝心の商談で「余裕」を失ってしまう。皮肉なことに、武器が増えれば増えるほど、首が絞まっているという現実があります。
しかし、同調査にはもうひとつ、非常に興味深い発見がありました。成果を出しているトッププレイヤーは、増え続けるタスクの中で「ある能力」を研ぎ澄ませていたのです。
あなたが「察する」と呼んできた力の正体
調査では、目標を達成している営業の共通点として、以下の3つの能力が上位に挙がりました。
- AI活用力(達成率が3.7倍)
- 戦術的柔軟性(3.4倍)
- メンタライジング(2.9倍)
ここで注目したいのが、3つ目の「メンタライジング」です。 聞き慣れない言葉かもしれませんが、定義はシンプルです。「相手が口に出していない気持ちや考えを読み取り、自分の行動を調整する力」のこと。
「それって、日本人が得意な『察する力』のことでは?」──。 その通りです。私たちが日常的に、泥臭く磨いてきた「相手の心のうちを推察する力」が、実はデジタル時代のグローバル調査でも、成果を分ける決定的なスキルであると実証されたわけです。
「ヘッドダウン」に陥る営業たち
問題は、この強力な武器を持っているのに、使う「余裕」がなくなっていることです。
航空業界には、「ヘッドダウン」という言葉があります。パイロットがコックピット内の計器(スピードや高度の数字)に集中しすぎるあまり、窓の外の景色や周囲の状況を見失ってしまう状態を指します。
今のB2B営業も、まさにこの「ヘッドダウン」に陥っています。
- 商談中、次に話す「スクリプト」のことばかり考えている。
- PCの画面越しに、SFAに入力するための「情報の聞き取り」に必死になる。
- AIが提案してくれた「最適なネクストアクション」をなぞるだけになる。
これらはすべて「計器」を見ている状態です。営業にとっての「窓の外」とは、お客さんの表情の微細な変化、声のトーンの揺らぎ、ふとした沈黙に他なりません。
では、どうすれば「計器」に奪われた視線を、再び「窓の外(お客さん)」へ戻せるのでしょうか。今日から試せる3つのコツをご紹介します。
1. 商談中に「3秒の空白」を意図的に作る
商談中、お客さんが何かを言いかけて止まったとき、焦って言葉を被せていませんか? そこをグッとこらえて、心の中で3秒数えてみてください。
沈黙は怖いものですが、その「間」こそが計器から目を離し、窓の外を見る瞬間です。 たとえば、あなたが価格提示をしたとき、お客さんが「……なるほど、わかりました」と言いながら、一瞬だけ視線を落としたとします。
この3秒の間にその変化に気づければ、「今、少し気にかかる点がありましたか?」と一言添えることができます。この「気づいて、添える」こそがメンタライジングの実践です。
2. SFAの横に「感情の定点観測」をメモする
商談の記録を残す際、案件の進捗やBANT条件といった「事実」のほかに、「お客さんの反応」を一行だけメモしてみてください。
- 「予算の話をした際、急に早口になった」
- 「導入事例の話では、身を乗り出して聞いていた」
- 「他部署との調整の話になると、少しトーンが沈んだ」
こうした「非言語の情報」をあえて言語化する習慣が、あなたの「察する力」を無意識の勘から、再現性のある「スキル」へと進化させます。
3. 商談前の3分間、前回の「感情メモ」を読み返す
次の商談の直前、資料に目を通す時間を3分削って、前回書いた「感情メモ」を見返してください。
「前回、他部署との調整の話でトーンが沈んでいたな。今日はそこを解決するための、社内説得用資料のサンプルを見せてみよう」
こうして「今日は相手のどこを観察しようか」という観察の仮説を持って臨むだけで、計器(資料やツール)に追われるだけの商談から卒業できます。
あなたの「察する力」は、最強のスキルだった
スキルアップもAI活用も、もちろん大切です。 しかし、7割の営業が「やることが多すぎる」と疲弊している今、さらに新しいスキルを「足し算」するだけでは、いつか限界が来ます。
むしろ、あなたがこれまで何気なく使ってきた「察する力」に光を当て、それを発揮するための「余白」を意図的に作ること。 たまには計器から目を離し、顔を上げて、目の前のお客さんをじっと見つめてみてください。
その「窓の外」を見る勇気こそが、AIにも真似できない、あなただけの最強の武器になるはずです。
参考:
「Gartner Sales Survey Reveals Sellers Who Partner With AI Are 3.7 Times More Likely to Meet Quota」(Gartner, 2024)
「Three Critical Trends for Sales Leaders to Address in the Age of AI」(Gartner, 2025)


