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近年、B2B営業の現場では「ザ・モデル型」と呼ばれる分業組織が広がっています。これは、営業とマーケティングが明確に役割を分け、それぞれが専門性を発揮する組織形態です。例えば、マーケティングチームは見込客の創出を担い、営業チームはその見込客に対して商談を行って成約に結びつける、という流れです。このモデルは、特に海外で広く採用されており、日本の営業組織でもその影響を受けて導入が進んでいます。
この分業型のアプローチは、効率性や専門性の向上につながる一方で、顧客との接点が分断されるリスクもはらんでいます。マーケティングが創出した見込客を営業が引き継ぐ際に、情報の伝達漏れや齟齬が生じることで、顧客体験が損なわれる可能性があるのです。
そんな中、B2B営業の在り方に一石を投じる記事を見つけましたので、こちらをご紹介するとともに、B2B営業にとって最適な組織形態について考えてみたいと思います。既に「ザ・モデル型」の分業体制を整えているという方も、まだ分業化してはいないが興味はあるという方も、ぜひお読みください。
分業型モデルに警鐘を鳴らす「One Team to Customer」とは
今回ご紹介するのは、スイスに拠点を持ちヨーロッパを中心に展開している営業/マーケティング系のWebメディアであるMoreThanDigital。ここに掲載された「B2B Sales Are Changing: How Sales and Marketing Are Winning」(B2Bセールスの変化:セールスとマーケティングが勝利する方法)という記事です。この記事は、従来の分業型モデルに警鐘を鳴らし、営業とマーケティングが一体となって顧客に対応する「One Team to Customer」の重要性を説いています。
記事の中で特に印象的だったのは、以下の部分です。
かつての営業活動と言えば、営業担当者が顧客に対して行うシンプルなセールストークだけでしたが、今日では顧客が購入に至るまでに、数多くのデジタルを介して商品の調査や選定を行っています。最初の展示会での会話から、メールやチャットでの連絡、リモート会議に、詳細な説明資料や動画の視聴、そして最終的な購買決定に至るまで、様々なデジタルツールと対人のコミュニケーションが組合せれています。つまり、マーケティングとセールスの境界がなくなりつつあるのです。
このため、現在のB2B営業においてはマーケティングチームと営業チームの緊密な連携が重要です。遠くない将来には、営業とマーケティングの分業型組織は時代遅れになるでしょう。
また、マーケティングはセールスファネルの入り口部分、営業は出口部分、のように明確に分業化されていましたが、これからはファネルのすべての段階が連携されるようになるはずです。
この営業とマーケティングの再統合は、これまでにもRevOps(レブ・オプス)という観点から主張されてきました。このRevOpsと言うのは、マーケティングと営業がそれぞれに別個のKPIを設定したり戦略を考えることによって生じていた「部分最適」な状況を打破して、全体最適を実現できるようにマーケティングと営業を統括する組織を作ろうというもの。つまり統括のための上位組織を設けようという考え方です。
それに対して、記事の筆者であるべスターリング氏が提唱する「One Team to Customer」は、顧客との接点を担うマーケティング部門と営業部門を直接統合して「顧客マネジメント部門」とするべきだという考え方です。
それではなぜこの「One Team to Customer」という考え方が今必要なのか、その背景として記事の中では次のような背景が紹介されています。引用ではなく、記事の内容を要約してご紹介します。
分断されたカスタマージャーニーに対する不満
「One Team to Customer」の重要性が高まっている背景には、分断されたカスタマージャーニーに対する顧客の不満があります。現代の顧客は、デジタルチャネルを通じて情報を収集し、複数のタッチポイントを経て購買決定に至ります。しかし、マーケティングと営業が連携していない場合、顧客は一貫した体験を得られず、不満を感じることがあります。
例えば、ある顧客がウェブサイトで製品情報を閲覧し、その後営業担当者と話した際に、ウェブサイトとは異なる情報を伝えられたとします。このような状況では顧客は混乱し、信頼を失ってしまうことでしょう。これが繰り返されると、顧客は競合他社に流れてしまう可能性もあります。
「One Team to Customer」によるシームレスな顧客体験の重要性
これに対し、「One Team to Customer」とは、営業とマーケティングが一体となり、顧客に対して一貫したメッセージとサポートを提供するアプローチです。これにより、顧客は売り手側の組織の内部構造の分断を意識することなく、スムーズに購買プロセスを進めることができます。
このアプローチの背景には、顧客が求める「信頼できる専門家」としての存在があります。B2Bの購買プロセスは複雑で、多くの意思決定者が関わるため、顧客は単なる販売担当者ではなく、自分たちのビジネスを理解し、適切なアドバイスをくれる専門家としての営業による継続的なサポートを求めています。
AIによる効率化が「One Team to Customer」を後押し
そしてこれは記事の中にはないのですが、生成AIによる効率化も分業型モデルから「One Team to Customer」への転換を促しているようにも思えます
近年、AI技術の進化により、顧客データの集約やメール作成、資料作成などの作業が大幅に効率化されるようになりました。例えば、AIを活用することで、顧客の行動データをリアルタイムで分析し、最適なタイミングでパーソナライズされたメッセージを送信することができます。また、営業担当者が顧客とのミーティングで使用する資料を、AIが自動生成することも可能です。
このようなAIによる効率化は、「One Team to Customer」型の営業組織への移行を後押しする重要な要素となっていると考えられます。AIの登場によって、これまでの営業とマーケティングの分業による効率化を追求する必要が薄れ、分業ではない形での効率化が可能になり、より理想的な顧客中心のシームレスな体験を提供することが可能になった。このように考えることもできると思います。
「One Team to Customer」を実現するために取り組むべき3点
それでは、この「One Team to Customer」を実現するために何が必要なのでしょうか。
まず、大前提となるのが営業とマーケティングの間での情報共有の徹底です。定期的なミーティングや共通のプラットフォームを活用し、顧客情報やこれまでに発信してきたコミュニケーションの内容を共有することで、一貫したメッセージを提供できます。
次に大事なのが自社の部門やデジタル/対人といった顧客接点の種類ではなく、顧客の購買プロセスを基点とした一貫したプロセスづくりです。顧客の購買プロセスをベースとして、より便利で効率的なチャネルとコンテンツを組み合わせて、顧客の購買プロセスを支援するという考え方への転換が不可欠です。
そして最後に欠かせないのが、単なる販売員ではなく、顧客のビジネスを理解して適切なアドバイスを提供できる専門家としての営業担当者の育成です。そのためには、製品知識だけでなく、業界動向や顧客のビジネスモデルについての知識も持ち、顧客の購買プロセスを伴走しながら支援できる存在になる必要があるのです。
One Team to Customerを参考にして営業/マーケティングの将来を考えよう
今回ご紹介した、顧客を中心とする「One Team to Customer」型の営業モデルは、現在メジャーになってきている分業型モデルの次の姿となる可能性が大いにあります。分業型モデルで大きな課題となっている、顧客が求めるシームレスで信頼できる購買体験を実現するためには、必然的な流れだとも言えるでしょう。
しかし、あくまでもそれは分業型モデルをしっかり機能させたことで見えてくる次のステージのように思います。営業とマーケティングがそれぞれにデジタル化に対応し、役割の中で生産性を向上させることができれば、その次に一体化して顧客体験を向上させていけるということです。決して「分業型で上手くいかないから次はOne Team to Customer型だ!」などと表面的に組織変更を繰り返すべきではありません。
この記事が提唱する「One Team to Customer」の考え方を読んで改めて感じたのは、営業やマーケティングの世界に「これが最終形」というものはなく、どんどん顧客の変化やツールの進化に合わせて変わっていくことが重要なのだということです。
そして、これが本筋になるかどうかはまだわかりませんが、この記事はとりあえず一つの未来の方向性を示しているなということでした。トライツとしては引き続き、動向を探っていきたいと思いますのでご期待ください。
参考:「B2B sales are changing – how sales and marketing are winning」(Kai Bösterling, MoreThanDigital, January 27, 2025)