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これまでトライツブログでは提案書の作成など、営業でのAI活用について紹介してきました。が、ChatGPTなどのAIを活用し始めたのは顧客側も同じ。

そこで、今回は顧客の購買・調達業務にAIがどんな変化をもたらすのか。そしてそれに合わせて私たち営業はどう対応すべきなのかを考えてみたいと思います。顧客のAI活用が私たちの仕事をどう変えるのか、早速見ていきましょう。

自然言語処理AIが支援する購買・調達業務での3つの用途

今回ご紹介するのは企業のテクノロジー活用に詳しい技術ライターのエミリー・ニュートン氏が、セールス&マーケティングマネジメント・マガジンに寄稿した記事「How Is AI Changing Procurement Contract Negotiations?」(AIが調達・契約のやり取りをどう変えるのか?)。記事の中で、ChatGPTをはじめとするAIツールが、購買・調達業務で使われる6つの用途を紹介しています。

まずは、ChatGPTなどの自然言語処理AIによる3つの用途から見ていきましょう。

1. 契約書の作成
契約書は似たような書式・文面・用語が含まれるため、ChatGPTなどの生成AIによる下書きに最適です。(中略)まだ生成Aiは発展途上の技術なので、契約書の構成・推敲のために人の手は必要ですが、契約書作成の効率を高め相手とのやり取りをスピードアップできるでしょう。

2. 契約書のコンプライアンスチェック
契約が多くのコンプライアンス項目に準拠しているかを検証するのは、とても困難です。AIは契約書の内容を自動で分析し、コンプライアンスチェックのアシスタントとして機能します。

3. 多言語間の自動翻訳
企業間のコミュニケーションは非常に複雑かつデリケートなものです。しかし、どんなにコミュニケーションが達者な人でも、言葉の壁を越えて自分の考えを伝えるには助けが必要です。(中略)今日の自然言語処理AIは世界中で話されているほぼすべての言語を翻訳できるので、多言語でより良いコミュニケーションを実現できます。

「契約書の作成」と「コンプライアンスのチェック」という用途が出てくるのが、購買・調達部門らしいですね。これらの業務では多くの企業で似たような文章が使われていて、似たようなコンプライアンス項目がチェックされているため、AIはそれらを学習していて、かなりの精度で業務を支援してくれるようです。

機械学習等のデータ分析系AIが支援する購買・調達業務での3つの用途

6つの用途のうち残り3つの用途は、ChatGPTなどの自然言語処理ではなく、機械学習技術を使ったデータ分析系のAIを活用するものです。

4. 市場変化および価格のモニタリング
AIは市場の変化や価格の変動、購買の意思決定に影響を与えるその他の指標を監視・分析するための優れたツールです。

5. サプライチェーン分析
AIはサプライチェーンの各企業の活動内容や、価格設定、物流の状況や欠品情報など、重要な指標の分析に活用できます。調査によると、(アメリカでは)購買・調達部門の51%が高度な分析ツールを使用しており、そのうちの25%がAIベースのツールを使用しています。

6. サプライヤー分析
最適なサプライヤーを見つけることは購買・調達の成功のために不可欠ですが、全ての候補企業を分析するのは困難です。そこにAIを活用することで、自社にとって最適なサプライヤーを特定する業務を自動化できます。(中略)例えば、AIは市場価値に基づいて候補企業を迅速にランク付けし、市場で高い業績を上げている企業を浮き彫りにできます。これらをほかのデータと組み合わせることで、自社のニーズに最適なサプライヤーと自信をもって契約できるのです。

4番目の「市場変化および価格のモニタリング」や5番目の「サプライチェーン分析」は、石油や鉄などの原料、半導体やセンサーなどの部品を定常的に購入しているような企業にとっては便利なソリューションです。過去の価格データやWebから集めた市況の情報を統合して今後の価格や商品の需給データを予測するという機能があり、どのタイミングでどれくらい購入すれば効率的かつ安定的に原料や部品を仕入れられるかを判断する参考になります。

また、6番目の「サプライヤー分析」では、「価格」や「利用企業の評判」「所在地」などの自分たちが重視したい項目に沿ってWebなどの情報を自動で収集し、候補となる企業を優先順位をつけて選定するという機能を持っています。これによって、延々とWeb検索を続けたり、あちこちの展示会やセミナーに足を運んだりといった手間を省くことができます。

実際にこのような機能を持つツールとして、IBM Watson Supply ChainやSAP Ariba、Coupa AIをはじめとする各社の調達系AIツールが日本でも登場しています。ただ、国内での導入成功事例はまだ多くないようですので、日本での普及状況を今後定期的にチェックする必要はあると思います。

ここまでの6項目を見ていただいて、いかがでしたでしょうか。前半の3つに関しては比較的容易にイメージできると思いますが、後半に関しては予測するとか、優先順位を付けるというようなかなり高度なことをやってくれるので、購買・調達部門でもAI活用の可能性が広がっていることがお分かりいただけたのではないでしょうか。

これからの営業の情報発信のターゲットにAIを追加しよう

また、私がこの6項目、特に6番目の「サプライヤー分析」の内容を読んで痛感したのが、「AIに見つけてもらえないと、そもそものスタートラインにすら立てない」ということです。

リアルの展示会やセミナーだけに力を入れるのではなく、AIが自分たちのことを見つけてくれるよう、自社のWebサイトや顧客が情報収集のために閲覧するであろうWebメディアで露出したり、比較サイトでのクチコミに情報が出ていないと、AIは自分たちの商品・サービスを認識してくれず顧客の調達担当者にレコメンドしてくれません。

また、Webサイトに掲載する際も、商品カタログをスキャンした画像を上げるのではなく、AIが学習しやすいようにテキストデータの体裁で情報を出すなどの工夫も必要になるでしょう。生身の購買担当者だけでなく、その水先案内人であるAIをターゲットとし、AIがどこでどのように学習するかを意識して情報発信しなければならないのです。

これまでもGoogleなどの検索エンジンで上位に来るようにSEO対策がなされてきましたが、これからはAIに見つけてもらう対策が必要になるということだと思います。

「顧客のAI活用」という次なる変化に備えよう

ここ数年の間に多くの顧客はWebで自ら情報収集するようになり、オンラインとオフラインのセミナーやイベントを使いこなすようになり、リモートでも仕事をするようになりました。このような大きな変化に対応して、日本も含めて世界中の営業部門がリモートでも商談できるようになり、Webでの情報発信を強化しています。

そして、今回ご紹介した記事からは、次の顧客の大きな変化として「AI活用」が現実のものとなりつつある様子がうかがえます。AIを使って様々な情報を集めて分析し、自動で適したサプライヤーや商品・サービスをレコメンドしてもらう。そのような顧客(とAI)に選んでもらえるようになるため、私たち営業部門にも次の変化が必要になるのももう目前なのかもしれません。

「顧客のAI活用」については、このトライツブログでも継続してウオッチし変化があればご紹介したいと思います。どうぞご期待ください。

参考:「How Is AI Changing Procurement Contract Negotiations?」(Emily Newton, Sales & Marketing Management magazine, August 14, 2023)