この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。
最近日本でも少しずつセールスイネーブルメント・システムがリリースされてきました。
「セールスイネーブルメント」の元々の意味は、営業活動改善のための一連の取組として、商品チラシや提案書等の営業コンテンツや研修などの各種営業施策をトータルでデザインし、それぞれの施策のパフォーマンスを数値化して管理すること。
しかし、システムを開発している企業によって、セールスイネーブルメントという言葉の使い方はまちまちで、製品仕様書や提案書などのコンテンツの一元管理ツールや、営業のスキル把握&育成管理ツール。顧客データ分析の自動化に、はてはWeb会議や電話の文字起こしツールのことを指している企業もあるようです。
このようにカオスな状態になっていることもあり、営業活動を改善するために役立つコンセプトなのですが、日本ではなかなか注目が集まらない状態が続いています。
そんな中、セールスイネーブルメントの理解を進めてくれるとても良い記事が発表されているのでご紹介します。改めてそれがどのようなもので、具体的に何に取り組んだらよいのか、確認していきましょう。
「戦略構築用ガイド完全版」でセールスイネーブルメントの要素を確認しよう
今回ご紹介するのは「The Ultimate Guide to Creating a B2B Sales Enablement Playbook in 2023」という記事。直訳すると「2023年のB2Bセールスイネーブルメント戦略構築用ガイド完全版」。中身への期待が高まりますね。
記事の中でセールスイネーブルメントが何かを直接定義してはいないのですが、セールスイネーブルメントに取り組むために必要なアクションが箇条書きで表現されています。その中の要素を抜粋・整理したのが以下です。
- 顧客/売上データの活用:理想的な顧客像の特定、営業プロセスの効率最適化
- テクノロジー活用:各種顧客/営業データの統合、AI活用による自動化
- 継続的な学習とスキルアップ:研修プログラムの開発、セールスコーチング
- コンテンツ活用:セールスコンテンツの提供/パーソナライズ、パフォーマンス分析と最適化
- 各種施策の測定と最適化:評価指標の特定と追跡、パフォーマンスダッシュボードの導入、プロセス/コンテンツ/研修の改善
最後の項目で営業プロセスやコンテンツ、研修の最適化が挙げられていますので、その上の項目と重複が発生してしまっています。しかし、それがセールスイネーブルメントでやることを端的に表現できているので、あえてご紹介させていただきました。
セールスイネーブルメントの全体像を整理してみると・・・
先ほどの5項目を私なりに整理した、セールスイネーブルメントの全体像が以下の図です。
SFAなどのシステムにある顧客や営業データを統合し、SFAやBIツール等のダッシュボードを利用してパフォーマンスを評価・測定し、営業プロセスやコンテンツ、研修やコーチングといった育成施策を最適化するというものです。
先ほどの5項目でもセールスイネーブルメントでやるべきことが理解できますが、このように図解することでそれぞれの項目間の関連性がよりわかりやすくなったように思います。
ただ、改めて考えるとSFAの営業活動データを日々のマネジメントに活かすだけでなく、それを分析して研修や営業ツールの改善につなげるというのは、仕事を改善、進化させていく上で当たり前のサイクルです。生産現場などではデータを使った業務改善は常に行われてきました。
しかし、売上至上主義が強い営業現場では、このような改善活動は重視されず、結果オーライが続いてきたと言えます。そこに大きくメスを入れ、継続的に営業業務を改善、進化させようという「考え方」がセールスイネーブルメントなのです。
「会社によって言うことが違う」状態だったのが、最近では本来の意味合いで使われるように
ちなみに「セールスイネーブルメントについて、会社によって言うことが違う」という状態は海外、特にアメリカでも起きていました。「コンテンツ管理」と「営業人材の育成管理」の2つの流派がメインで、そこに「業務自動化」や「データ分析の自動化」などの流派も加わるなど、まさに混沌とした状態がしばらく続いていました。そのため、B2B営業で活用する様々なシステムの鳥観図(カオスマップ)である「SalesTech Landscape」の2021年版では、それまであった「セールスイネーブルメント」という分類名が、利用者に混乱を与えないために削除されるという事態にまでなっていたのです。
しかし、どうやら最近では、先ほどご紹介した記事のように、セールスイネーブルメントを本来の意味合いである「営業活動改善のための一連の取組として、各種営業施策をトータルでデザインし、それぞれの施策のパフォーマンスを数値化して管理すること」だと用いられることが増えてきたように思います。そして2022年版の「SalesTech Landscape」では、営業全体のパフォーマンス測定と活動・施策の改善という意味合いで、「セールスイネーブルメント」の分類が復活しています。
セールスイネーブルメントについて正しく理解し、必要なツールを取捨選択できるようになろう
ここまで、用語の定義の話という些末なことをくどくど書いているのには理由があります。それは、セールスイネーブルメントという「考え方」は営業の生産性向上のために有効で、日本でもしっかり定着してほしいと思っているためです。
セールスイネーブルメントが海外で話題になり始めたのが2014~2015年ごろ。2016年の始めにはトライツブログでも最新トレンドとして紹介し、それ以降継続して最新の動向をご紹介してきました。ただ、その中で先ほど述べたような定義の混乱が起きるなど、アメリカでも決して順調に広まったわけではありませんし、日本ではまだまだ。せっかくの良いコンセプトなので、本来意図されたとおりに使われて、それに合ったシステムが各社から提供される。そのようになってほしいと心から願っています。
しかし、日本での現状は冒頭でお伝えしたように、セールスイネーブルメントの名を冠したシステムは色々あれど、ほとんどの企業が自分たちのシステムの機能の枠内に、セールスイネーブルメントの定義を縮小してしまっている状態です。そのため、利用者である私たちがセールスイネーブルメントの全体像について正しく理解し、自分たちに必要な機能を取捨選択して、適したツールを組み合わせて利用できるようになる必要があるのです。
今回ご紹介した記事で、セールスイネーブルメントの全体像を確認することができたと思います。これから日本でも少しずつでしょうが、さまざまなツールとその取り組み事例が出てくるはずです。その際にはこのトライツブログでご紹介しますので、引き続き日本と世界のセールスイネーブルメントの動向を一緒に確認していきましょう。
参考:「The Ultimate Guide to Creating a B2B Sales Enablement Playbook in 2023」(Javeria, Draup, May 29, 2023)