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約2,500年前に孫子が「敵を知り己を知らば百戦殆(あや)うからず」と言ったとおり、事前の情報収集が大事だというのは今でも変わらない鉄則です。皆さんも商談相手の情報を事前に調べておくことの大事さを、先輩や上司から教えてもらったことでしょう。

この商談前の情報収集ですが、誰もが普段から当たり前にやってはいるものの、ノウハウが個人の中だけに蓄えられがちなので自分以外の人のやり方を知らないもの。一緒に働いている同僚や、他部署の知り合いのやり方を知っているという人は多くないのではないでしょうか。

今回は、この「商談前の情報収集」について参考になる記事をご紹介します。商談に行く前に見込客のどんな情報をどこまで調べておけばいいのか、一緒に見ていきましょう。

優れた営業パーソンならやっている「商談前の情報収集6項目」とは

今回ご紹介する記事は「Great Sellers are Great Researchers. Here Are 6 Tips On What to Look For」。日本語にすると「優れた営業担当者は優れた調査員でもある。商談前に調べるべき6つの項目」というものです。この記事は、B2Bの各業界で優れた結果を出している営業パーソンにインタビューした結果をもとに、商談前に調べておくべき見込客の情報を6つにまとめたもの。

まずは、前半の3項目を見ていきましょう。

1. 見込客の業界と、その業界が進もうとしている方向性を調べる

2. 決算報告書or企業のSNSサイトから、見込客の組織が力を入れている重点テーマを調べる

3. 見込客個人の興味/モチベーションと、その人と自分の共通点

最初の3項目ということでオーソドックスな項目が並んでいますが、ここで注目していただきたいのがその順番。1番目に「見込客の業界」が来ています。

コンサルティング営業に求められる「見込客の業界での深い知見」

コンサルティング営業という言葉が最近はやっています。その内容を簡潔にまとめると、「見込客の業界/事業についての深い知見を持っており、見込客の課題解決とそのための購買の意思決定を支援すること」。つまり、営業担当者には自社製品・サービスの専門知識だけでなく、見込客が属する業界についての専門的な知識や課題解決の経験が求められるようになっているということ。そのため、1番目に見込客の業界についての情報を押さえた上で、そのトレンド上に見込客企業の方針や重点テーマを位置付けていく必要があるのです。

このことを明確に述べているのが次の4項目目です。

4. 見込客の企業と個人の詳細を調べ、情報同士の隠れたつながりを見つける

 4-1. 企業の重点テーマと業界/会社の現状/背景がどうつながっているのか

 4-2. 見込客個人とパーソナルなつながりを作るために大事な情報は何か

この4項目目だけ小項目に分解されていますが、その小項目の1つ目が先ほど解説した内容そのものです。

見込客担当者との信頼関係をテコにより深い情報を得る

ここまでで6項目のうちの4項目を見てきましたので、残り2つの項目も続けて見ることにしましょう。

5. 大規模会議用:自社に好意的な見込客担当者に連絡し、参加者について知っておくべきことは何か、どうすれば見込客 担当者の役に立てるかを尋ねる

6. 見込客担当者のキャリア目標を知り、個人的な動機を探る

ここまで情報収集できているということは、見込客の担当者からはかなりの信頼を寄せられているはずですから、たいていの商談はうまくいきそうな気がしますね。特に5番目の大規模な会議への見込客側の参加者の情報を確認しておいたら、悪気なく虎の尾を踏んでしまわずに済みますし、その結果として相手担当者の社内での評価も上がるので大事なポイントだと思います。

事前の情報収集の目的は「努力のアピール」ではなく「商談の場での『深い』理解」

ここまで、「商談前の情報収集6項目」を見てきました。皆さんのやり方をブラッシュアップするのに、参考になる内容ではないでしょうか。

ちなみに、ここで注意していただきたいのが、せっかく集めた見込客情報の使い方です。営業の方と同行していると、たまに「自分はここまで情報を集めました!」ということを相手にアピールするのに一生懸命で相手の話をしっかり聞けていない、という場面に遭遇することがあります。

商談前に見込客の情報を集めるのは、その努力をアピールして認めてもらうためではなく、商談の中で相手の話を正しく効率的に聞き取り、業界の動向や会社の方針、担当者個人の関心といった文脈に関連づけて『深く』理解できるようにするため。このことを忘れないようにしましょう。

最も重要な情報収集は商談中に顧客と一緒に行う「深い発見」

記事の最後では商談の場での情報収集と『深い』理解の大事さについて、面白いたとえ話を使って解説されています。

商談前の情報収集は、見込客担当者との信頼関係の構築のために非常に重要です。しかし、最も重要な情報収集は、商談の場において、見込客担当者と一緒に「深い発見」をすることです。(中略)

浜辺で一枚の金貨を見つけたら皆さんはどうするでしょうか。多くの人は金貨を拾って、ついている日だと思いながら歩き続けることでしょう。しかし、最善の行動はシャベルを持ってきてその場所を掘り続けることです。なぜなら、金貨が一枚ある場所の近くには、宝箱が埋まっている可能性が高いからです。

つまり、商談の場で課題(金貨)を見つけたら、それに満足して自社商品のプレゼンテーションを始めたり、提案書や見積を用意したりするのではなく、「ほかに何が起きているのか」「なぜその課題が起きているのか」を深く掘り下げて真相(宝箱)を突き止めなければならない、ということ。この「浜辺の金貨」のたとえ話はイメージしやすく、とても面白いと思います。

【トライツ事例】顧客と一緒に「深い発見」をできる手法/ツールを開発

ちなみに、コンサルティング営業力を強化したいというクライアント向けに、トライツが力を入れて手法やツールを開発しているのがまさにこの商談中の「深い発見」です。

たとえば、原料メーカーの営業が完成品メーカーの商品開発のキーマンに会う場面では、完成品メーカーの商品の現在のポジショニングと将来目指したいポジショニングを相手と一緒に整理できる、独自のツールを開発しました。商品の成長段階を4段階に分けて、それぞれの商品が現在どこのポジションにいて、将来どこのポジションを目指したいのか、そのためにクリアすべきハードルが何かを整理できるようにしたのです。

また、企業向けにマーケティング支援サービスを提供している会社での商談の場面では、顧客企業のこれまでの集客データを一緒に見る基本手順を整理しツール化しています。エリア全体と比較して取りこぼしている期間/客層がないか、獲得したかった客層を十分な数だけ獲得できているかを顧客と一緒に分析した上で、次の半年間の顧客の売上目標を達成するために必要なマーケティング施策を組み立てていくのです。

顧客の業界や事業について事前に調べておくのも大事ですが、このように「何が起きているか」「その原因は何か」を顧客と一緒に深く掘り下げて打ち手を考えるという体験こそが、価値のあるコンサルティング営業だと思うのです。

ご紹介した6項目を使って情報収集のやり方をアップデートしよう

インターネットの普及により、私たちはいつでもどこでも簡単に商談相手の情報を無料で調べられるようになりました。

私が新卒でコンサルティング会社に入社した2000年当時は、まだWebページに経営情報を掲載している企業は少なく、3か月ごとに発売される会社四季報を読んだり、有価証券報告書を買うために大手町の政府刊行物センターまで行ったりしなければなりませんでした。また、新聞の過去の記事から検索するためには、各新聞社が出していた高価なCD-ROMを買う必要がありました。

しかし、今ではほぼすべての企業が自社の事業内容や会社の概要をWebページで事細かに公開していますし、上場企業であれば有価証券報告書に決算報告書、CSRレポートや中期経営計画などの経営情報がダウンロードできるようになっています。新聞の過去の記事も、購読している新聞社のものなら無料でいくらでも検索できます。また、自社の商品やサービスについてYouTubeやnoteといったSNSを使って発信する企業も増えてきており、時間さえかければいくらでも情報を集められるようになっています。

そのような状況において、今回ご紹介した6つの情報収集項目は、自分自身の情報収集のやり方に抜け漏れがないかを確かめるだけでなく、部下や後輩がしっかり「コンサルティング営業」のスタイルで情報収集できているかをチェック/アドバイスするための観点としても役に立つ内容だと思います。

ぜひ今回ご紹介した6項目でご自身の情報収集のやり方をチェックするとともに、周りの人と「どの情報源を使ってどんな情報調べているのか」「そこで大事にしているポイントが何か」を情報共有してみてはいかがでしょうか。きっと自分だけでは思いつくことができなかった、新しい観点や手法を知ることができるはずです。

参考:「Great Sellers are Great Researchers. Here Are 6 Tips On What to Look For」(Paul Petrone, LinkedIn Sales Blog, May 10, 2023)