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ここ2か月ほど、2022年9月に米国アトランタで開催されたB2B営業カンファレンス「OUTBOUND 2022」の講演内容を紹介してきました。私が参加した講演は全部で32セッション。そして32もあると、その中には日本ではまず聞くことがないような変わったテーマの講演も色々と出てきます。

今回はその中でも特に変わったテーマ「既存顧客の問題対応に時間を奪われるのはもうやめよう」をご紹介します。既存顧客からの問合せや要望への対応に時間を取られてしまい、新規顧客の開拓やメンバー育成、自身の学習などに十分な時間を割けない、という方は日本でも多いのではないでしょうか。

営業担当者が既存顧客対応で疲弊してしまうのを防ぎ、自分の時間を取り戻せるようになるためにはどうしたらよいのか、一緒に見ていきましょう。

既存顧客への対応から自分の時間を取り戻すための3つのポイント

今回ご紹介する講演タイトルは「Stop Being Your Accounts’ Chief Problem Solver」。「既存顧客の問題対応に時間を奪われるのはもうやめにして、本来の営業活動ができるように貴方の時間を取り戻そう!」というのが、講演者であるブラッド・アダムス氏のメインメッセージ。では、どうすれば営業担当者は自分の時間を取り戻すことができるのか。アダムス氏の講演をギュッとまとめると、ポイントは以下の3つです。

1. 対応レベルに応じて顧客をセグメンテーションしよう
人がついてしっかりサポートする顧客、Webページなどで自己解決してもらう顧客など、顧客対応のレベルとそれに該当する顧客セグメントを明確に分けよう。

2. サポート対応の範囲について、顧客に正しい期待を持たせよう
新しい顧客に対しては商品・サービスの説明と同時に、どの範囲ならサポート対応可能なのか、テーマ別の連絡先と標準回答時間がどれくらいなのか、といったことをちゃんと伝える導入研修(のようなもの)を実施しよう。

3. チームで対応しよう
営業担当者が一人で抱えて対応するのではなく、顧客対応チームと共有しチームで解決しよう。
ただし、チームに丸投げするのではなくCCに入れてもらうなどして、自分が状況を把握できるように&顧客から一緒に対応してもらっていると思われるようにしよう。

講演タイトルから「既存顧客への対応なんかやめてしまえ」という内容を想像していた方もいらっしゃったかもしれませんが、実際はそうではなく「適切な相手に、適切な対応を、組織的/効率的にやろう」というお話。言われれば至極もっともではあるのですが、なかなか実現できていない組織が多い内容だと思います。

「導入研修」で顧客の期待をコントロールしよう

顧客対応に苦労している営業の様子を見ていると、2つ目の「新しい顧客への導入研修」は特にできていないところが多いようです。ついつい商談していたころからの関係性のまま営業担当がすべての問合せの一次窓口となり、業務の忙しさや問合せ内容の複雑さのために自分の中で溜め込んでしまう。その結果として、既存顧客への対応がストレス源となったり、対応遅れによるクレームの原因になってしまったり・・・・。

このようなことが起きないように、新しく既存顧客になった企業に対して、どのように要望を伝えどこに問合せをするのが良いのかをちゃんと教えよう、というのは面白いアイデアだと思います。なかなか営業担当者が自分からは切り出しにくい内容でもありますので、これを導入研修のように標準化してしくみで解決しようという発想も実にアメリカ的だと感じました。

よく「営業の仕事は顧客の期待を適切な内容/高さにコントロールすることだ」と言われます。既存顧客対応でも顧客が抱いている期待とそれに基づく要望に振り回されるのではなく、期待される内容とその高さが現実的なものになるようにきちんとコントロールしようというのは、多くの営業組織にとって参考になるのではないでしょうか。

OUTBOUNDのような価値ある講演を聞く機会がほとんどない日本の営業

これまでおよそ2か月にわたってご紹介してきた「OUTBOUND 2022」のカンファレンスレポートですが、いったん今回をもって中休みとし、来週からはまた国内/海外のB2B営業・マーケティングの最新トレンドや事例などをご紹介していきます。

改めてこのカンファレンス全体を振り返ってみると、今回ご紹介した講演も含めて興味深いテーマの話を次から次へと聞くことができ、このようなイベントに気軽に参加できる米国の営業担当者/マネージャーがいかに恵まれているかを実感しました。そして同時に、このような情報に触れる機会がそもそも少ない日本の営業担当者/マネージャーについて「このままで大丈夫なのだろうか」と不安にもなってしまいました。

今回参加したOUTBOUNDの基本的な受講料は約600ドルで、2022年11月現在の為替レートだとおよそ9万円。会社として9万円の研修費プラス旅費を支払えば、米国の営業担当者/マネージャーはこれまでに紹介してきたようなためになる講演を30以上も聞くことができます。

しかし、日本では多くの営業向けセミナーは無料ではあるものの、SFAやBIツールといったデジタルツールのプロモーションをしたい企業が主催/協賛しているものがほとんど。そのため、日本の営業担当者/マネージャーが聞ける内容は、デジタルツールの効果的な活用法や組織としてのDXの進め方などに偏ってしまいがちで、今回ご紹介したようなテーマの講演はまず聞くことができません。

「自ら学ぶ」ことの大切さについて改めて考えよう

このような状況を変えるためには、やっぱり私たちが「多少の費用を払っても、価値のある情報を他者から学んで仕事に取り入れよう」と個人および組織として考えるようにならないといけないのだと思います。価値のある情報が話されることを大前提として、それに対してちゃんと対価を支払い、元を取るために個人/組織として学んだことを試してみるということです。

残念なことにリーマンショック以降のコスト削減からくる研修の機会の減少と、Webの普及で簡単に情報収集できるようになったことで、学ぶことにお金を使うという習慣がなくなってしまいました。

しかし、昨今のリスキリングが注目されるという状況は「学ぶ」ことの大切さについて考える機会になっていると思います。OUTBOUNDのようなイベントはまだ日本にはありませんが、弊社角川が講師をやっている日経ビジネススクールなど、特定の商材に紐づかない社外研修もありますし、誰かが決めたカリキュラムを受けるだけでなく、自分で探した書籍や外部の研修にお金を払って(自腹か経費かはともかく)参加してみてはいかがでしょうか。

米国でのカンファレンスの様子を振り返り、日本におけるリスキリングブームも、与えられるだけものでなく、自分で必要だと考えるスキルを得るということが習慣化するかどうかが大事なのではないかと感じました。

参考:「Stop Being Your Accounts’ Chief Problem Solver」(Brad Adams, Sales Gravy Inc., 21 September 2022)