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2020年の3月ごろから本格化したコロナも2年半が過ぎ、日本でもウィズコロナ、アフターコロナに向けて色々と動きが出てきました。発生届の対象者の絞込み、イベントでの声出し観戦や収容人数の緩和、入国時の水際対策の軽減など、ワクチン接種や治療薬などを確保し広めることで、日常生活を取り戻しつつあります。

それに合わせて、私たちの仕事の仕方もアフターコロナに向かって進んでいくことでしょう。

そこで今回のトライツブログでは、一足先にアフターコロナを迎えている海外のB2B営業の様子を見ていきたいと思います。世界のB2B営業は2年半のパンデミックの時代をどのように過ごしたのか、そこに私たちが学ぶべきものがあるか、見てみましょう。

調査結果①:半数近くが「コロナ禍前よりも営業が難しくなった」と回答

今回ご紹介するのは、英国ロンドンでB2B営業向けに会話分析システムを開発・提供しているJiminny社が、今年(2022年)の7~8月に実施した調査レポート「The Adaptability of B2B Sales Teams in Uncertain Times」(不確実な時代におけるB2B営業組織の適応力)。英米と北欧4か国(デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン)のB2B営業関係者を対象に実施したものです。

レポートでは最初に、コロナ禍によってB2B営業の仕事にどのような影響があったのかを明らかにしています。

1.半数近く(48%)の回答者が、コロナ禍以前と比べて営業の仕事が「難しくなった」と回答。回答者の多くがその原因としてリモート/バーチャルオフィス化を挙げている

2.「簡単になった」と回答したのは17%のみ。ただし、この回答者の多くが「適応力」をその要因としている

3.最も回答数が多かった(39%)営業の課題は「モチベーションの維持」

これを見ると、洋の東西を問わず、コロナ初期のロックダウンによるリモートワークの半ば強制的な導入に当惑し、対応に苦労した様子がうかがえます。

調査結果②:その一方で7割が「仕事に満足している」と回答

しかし、半数近くの回答者が「営業の仕事が難しくなった」と答えているのにも関わらず、このレポートからは悲壮感や閉塞感といったものが伝わってきません。その理由が以下の3つのデータです。

4.回答者の77%が、コロナ禍になってから「営業が組織トップからより評価されるようになった」と回答

5.回答者の82%が、「自社は営業チームをサポートしてくれている」と回答

6.回答者の73%が、自分の役割/業務に「満足している」と回答

約8割の回答者が、自分たちの仕事が以前よりも評価されるようになったと回答しています。また、引用が煩雑になるので省きますが、リモートに適応するための新規テクノロジーの導入や研修トレーニング、コーチング等の実施率も高く、会社が営業組織をサポートしてくれていることが分かった結果、仕事が難しくなったりモチベーションの維持に課題があったりはしたものの、多くの営業担当者が満足した状態で仕事をできているというのです。

調査結果③:6割の組織でリモート/ハイブリッド勤務が継続

そして最後に、私たちにとって身近なテーマであるリモートワークが継続されるかどうかについては、以下のようなデータが出ています。

7.回答者の57%が、コロナ禍をきっかけにリモートワークの制度を導入したと回答(米国は63%と高いが、北欧が44%と低い)

8.現在も59%が、2022年7~8月現在でもフルリモート~ハイブリッド(リモートと出社の組み合わせ)で働いている

日常生活がほぼもとに戻っている欧米および北欧諸国でのリモート/ハイブリッド勤務の割合が約6割というのはかなり高く、過半数のB2B営業組織でアフターコロナの今でも働き方の1形態として定着していると言えそうです。

ビル・ゲイツ氏による近著「パンデミックなき未来へ」の中で、コロナ禍でのWeb会議が広まって定着している様子について、「デジタルの手段を一度知った人は、たいていそれを使い続ける」と書いています。リモート/ハイブリッド勤務は、その割合をどうするかは各社が引き続き考えなければなりませんが、私たちの顧客を含む多くの企業が今後も使い続けることでしょう。

B2B営業組織はコロナ禍をタフに逞しく乗り越えようとしている

今回ご紹介したJiminny社の調査レポートからは、突然のパンデミックとリモートワーク導入に当惑したものの、満足感をもって仕事に取り組んでいる、タフで逞しいB2B営業組織の様子がうかがえます。そして、この中の2割ほどの営業組織は、パンデミックによる環境変化にうまく適応したことでコロナ以前よりも営業活動が簡単になったと回答しており、うまく適応して強くなった組織とそうでない組織との二極化が進んでいることもわかります。

では、このような調査を日本のB2B営業組織を対象に実施したらどうなるでしょう。どれくらいの割合の人が「満足している」と答えるでしょうか。

コロナが始まってから2年半、ロックダウンや行動制限などいろいろな打ち手が取られてきました。そしてその都度「客観的なデータで示そう」「結果を検証して次につなげよう」という声が上がっていましたが、スポーツやイベントでの声出し観戦エリアと静かに観戦するエリアとでの比較実験、感染対策を万全にした上での団体旅行の実験など、部分的には色々実施されてはいるものの、日本全体としてまだまだ十分にデータで検証できているとは言えないようです。

今回ご紹介したデータのように業種や範囲を絞り、私たちB2B営業組織の対応がどうだったかを総括するような調査が日本でも実施されてほしいものだと切に思います。

日常が戻ってくる今だからこそ、2年半のコロナ対応の総括をしよう

この2年半の間、不確実な時代に適応して先に進んでいくためには、「新しくて使いやすいテクノロジーを活用する」「必要なトレーニングやコーチングを準備/提供する」のが大事だということを私たちは学んできました。デジタル活用や人材育成に本腰を入れ、一気に業績を伸ばした企業も多くあります。しかし、その一方でこれらの投資に出遅れてしまったために業績が苦しい企業も残念ながらあります。

コロナ禍の初期のころから、ウィズコロナ/アフターコロナでの業績回復は全企業一律とはならず、急回復する企業群と長期にわたって停滞する企業群とに二極化する「K字型回復」になると予想されていました。そして、地域/国や業種/業界によって回復に差がつくK字型が実際のものになっています。早期の経済正常化を推し進めた欧米は高い成長率を記録しましたが、つい最近まで緊急事態宣言が出されていた南米諸国では回復が遅れています。また、比較的好調な機械メーカーや化学品メーカーに対し、まだまだ厳しい小売/外食など、業種によっても業況はまだら模様です。

そして、これからウィズコロナ/アフターコロナを迎える日本では、テクノロジー活用/DX推進やリスキリング等の人的資本への投資についても、継続強化する企業と、コロナ対策の軽減/緩和に伴って優先順位を下げたり2年半前の状態に戻したりする企業との二極化が起きつつあるようです。そしてこれが原因となって、同一地域・同一業種の中でも業績の回復/成長度合が二手に分かれる「K字型回復」となるのではないかと危惧しています。

今回ご紹介したレポートにならって、この2年半のデジタル活用や人材育成への取組が十分だったか、そして自分たちの営業組織に適応力が身についたのかを振り返ってみる。そして、今後も様々な要因によって継続するであろう不確実な時代に適応するために、自社はデジタル活用や人材育成を継続させるつもりがあるかを改めて考えてみる。日常が戻ってこようとしているこのタイミングだからこそ、この2年半の総括が必要なのではないでしょうか。

参考:「The Adaptability of B2B Sales Teams in Uncertain Times」(Jiminny, 2022)