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製品情報や導入事例、価格表やユーザーのクチコミなど、様々な情報を簡単にWebやSNSで手に入れられる現在、顧客企業が自ら主体的に購買活動を進める「顧客中心営業」が当たり前のものになりつつあります。

そして、営業担当者の役割も、以前のような自分が顧客をリードして商談プロセスを進めるというものから、顧客が購買プロセスを進める中で生じる課題や困りごとを解決する「コンサルティング営業」が期待されるようになっています。

ところが、この営業担当者の存在価値を根底からひっくり返しかねない衝撃的なデータが、最近発表されました。購買のWeb化/DIY化が進む現在、営業担当者の存在価値は何なのか、改めて考え直してみましょう。

営業担当者が商談をリードすると、顧客の購買満足度が低下する!

今回ご紹介するデータは、ガートナー社が最近発表した調査レポート「B2B Buyer Survey」。B2Bの購買担当者の満足度、ここでは満足した人の割合を調べた箇所です。まずは、数字を見てください。

・購買担当者が自分で購買プロセスを進めた:65%
 
・営業担当者に購買プロセスを進められた:24%

なんと、営業が商談をリードすると顧客の満足度が低下してしまう傾向がある、ということなのです。ではなぜ顧客の満足度が低下するのか、その理由を続けて見てみましょう。

購買満足度低下の原因は、見せかけの「コンサルティング営業」

営業担当者が顧客の購買活動に関わる際に、過度に単純化された枠組みで情報を提供したり顧客の課題を整理することで、顧客が自分のニーズや課題を完全に理解しないまま購買プロセスを進めてしまうのです。

つまり、型にはまったおざなりなコンサルティング営業をしてしまうことで、顧客の購買プロセスは進むものの、購買全体に対する満足度が低下してしまうのが原因だというのです。極言すると、見せかけのコンサルティング営業を受けるくらいなら、多少の不便があっても自分が主体となって購買プロセスを進める方がまし、ということです。

心理学の大家であるリチャード・デシ博士によると、内発的な動機付け(モチベーション)を高める3つの要素として、「自律性」「有能感」「関係性(支援を受けられる環境)」があるそうです。顧客が主体となって購買プロセスを進める「自律性」が、見せかけのコンサルティング営業という「関係性」を上回ることが多い、ということなのでしょうね。

顧客の満足度向上のカギは購買プロセス中の「内省的な学習経路」

では、顧客満足につなげるためにどうすれば良いのでしょうか。調査レポートでは、顧客満足度が高くなる最大の要因として、「内省的な学習経路」というキーワードを挙げています。一体どういう意味なのか、レポート内で解説している文章を読んでみましょう。

売り手企業は、顧客が自分自身のニーズや課題に対する理解を深められるように、内省的な学習経路を準備する必要があります。(中略)顧客がいったん立ち止まり、自社の課題やニーズについて改めて熟考する。これを手助けするデジタルコンテンツや営業ツールが必要なのです。

顧客がスイスイとスムーズに購買プロセスを進んでくれたら商談期間も短くなりますし、対応する手間も少なくて済みますので、一見すると顧客も売り手企業もお互いにハッピーなようですが、実は購買満足度が下がるので長期的には逆効果。購買プロセスの途中で立ち止まり、「今解決すべき課題は本当にこれでいいのか」「最適なソリューションは本当にこれでいいのか」といったことを顧客が自問自答できるようなコンテンツや、営業ツールを用意しておかなければならない、と言うのです。

この記事に書かれていることを営業担当者側の立場で要約するならば、顧客の学習や自己理解を深めようという姿勢でないなら、顧客に関わらない方がまし、ということ。顧客が自分自身で購買プロセスを進められる現在において、顧客に存在価値を認めてもらい購買の満足度を高められる営業になるためには、顧客の学習や理解を促進させられるコンサルティング営業が不可欠なのです。

と、ここまでのドラフトを作ったところで、トライツの中で「どうまとめるか」について検討を行ったところ、次のようなやりとりがありました。

「営業は頑張ろう」「営業は要らない」どっちの読み方もできる

角川
なるほど、面白いデータだね。この記事は「営業担当者は頑張ろう」「営業担当者は要らない」のどちらにも読むことができるよね。

寺島
確かに読み手次第で、どっちにでも読めますね。今の営業組織を維持したいと考えている企業にとっては「頑張らなきゃダメ」という厄介な話ですし、営業組織を作るのが難しいスタートアップ企業にとっては、デジタルの仕組みさえあれば営業担当者は「いなくても大丈夫」という吉報です。

角川
そうそう。スタートアップ企業だけじゃなくて海外企業にとっても、デジタルの仕組みを用意しておけば日本独自のややこしい商流を回避できる。
ついつい、今の営業組織やそこでの雇用を大前提として「どうにかしなきゃ」と思ってしまうけど、本当に大事なことは顧客視点で満足度を高めること。例えば、過去に工場の機械化が進んだ時も、「雇用を守る」と頑張った会社はあったはず。でも、顧客にとってみれば、安くて品質が安定していればそれで良かったわけだし。そう考えると、既存の営業組織がしっかり整備されている企業であっても、「営業は頑張ろう」という読み方でなくてもいいんじゃないかな。

このデータが投げかけている「これからの営業をどうするか?」という本質的な問題

角川
そう考えると、このデータが今の営業に対して投げかけている問題は、次の2つだと思う。
「これからの営業をどうするのか」という経営者にとっての問題、具体的には
 ・Web化/自動化というハイテク方向にどこまで加速させるのか
 ・顧客の学習を支援するハイタッチなコンサルティング営業をどこまで強化させるのか
「自分の仕事をこれからどうやって確保するのか」という営業担当者にとっての問題、具体的には
 ・ハイテクで通用するような購買のWeb化/DIY化に対応した仕組みやコンテンツ作成者としてのスキルを高めるのか
 ・それともハイタッチで通用するようなコンサルティング営業としてのスキルを高めるのか

寺島
「組織としても個人としても、これからの営業をどうするつもり?」という本質的な問題ですね。

角川
そう。経営者も営業担当者もみんなが本気で、かつ顧客視点で考えないといけない問題だと思う。これまでは営業担当者はそんなことを自分で考えなくてもよかったと思うけど、ジョブ型雇用が浸透してきているし、専門性を身につけて転職してキャリアアップするのも当たり前になってきている。個人でもこういったことを考えなくちゃいけない時代になっている気がするね。

門田
さっきから聞いていたんですけど、このやり取り自体が面白いので、そのままブログにしましょうよ。

ということで、トライツの編集会議の風景をそのままブログにしてみました。今回ご紹介したガートナー社の記事が、これをお読みの皆さんが組織として、また個人として今後の営業をどうするかを改めて考える、そのきっかけになれば嬉しく思います。

参考:「B2B Buyer Survey: Avoid Pitfalls and Realize the Promise of Digital Buying」(Gartner, Inc., June 21, 2022)