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顧客がWebで情報を集めて、自分で購買活動を進める「購買のDIY化」がB2Bの世界でも当たり前になってきました。それに合わせて、顧客が欲しい情報を簡単に手に入れられるように用意し、購買プロセスを後押しする「バイヤーイネーブルメント」という考え方も、海外を中心に徐々に広まってきています。

しかし、これまではどうもコンセプトばかりが先行していて、具体的にどんな情報やコンテンツを準備したらいいかは具体的になっていませんでした。

そんな中、DIY的に購買するB2B顧客がどんな情報を求めていて、どのWebサイトを訪れているか、についての最新の調査レポートが発表されましたので早速ご紹介します。最新の顧客の購買活動の実態について知りたい方、自社のWebサイト/コンテンツの充実を図りたい方には、かなり重要なデータが多数含まれていますのでぜひお読みください。

今回ご紹介するのはTrustRadius社の2022年版「B2B顧客購買動向調査」

今回ご紹介するデータは、TrustRadius社が毎年発表しているB2B顧客の購買動向調査の2022年版、「2022 B2B Buying Disconnect: The Age of the Self-Serve Buyer」。副題に「セルフサービス(訳注:DIYと同義)購買の時代」とあるように、自分で購買プロセスを進めていくB2B顧客の実態を詳しく掘り下げた調査レポートです。

一点だけ注意していただきたいのが、調査対象が「デジタルツールを購入した企業の購買担当者」だということ。そのため、業界の偏りがありますし、読み替えが必要な箇所も一部ありますが、それでも他の業界でB2B営業に取り組んでいる方にかなり参考になるデータとなっています。

営業担当者は顧客にとってもはや主要な情報源ではない!

ではまず現在のB2B顧客が活用している情報源についてのデータを見ることにしましょう。

今日の購買担当者はレビューサイトやユーザーコミュニティ、アナリストのレポートなど、「信頼できる第三者」の情報源を優先して利用している。
 
2021年から2022年にかけて、Webサイトなど売り手企業が提供する情報源6つのうち5つの利用比率が低下した。
 
特に企業の営業担当者は、2021年には43%で上から4位だったが、2022年には25%に急落しTop5から外れている。
Top5は上から順に、製品デモ、無料トライアル、レビューサイト、売り手企業のWebサイト、ユーザーコミュニティ。

まず補足が必要なのが、レビューサイト、ユーザーコミュニティについてです。米国では「G2」に代表されるデジタルツールのレビューサイトが広く使われており、多くの人がクチコミを投稿し、それを参考に商品を評価・選択しています。日本のB2Bでは同様のものがないので、B2Cで使われているAmazonや旅行サイトのクチコミのようなものをイメージしていただくと良いと思います。

また、最後に出てきた無料トライアルもデジタルツールならではですね。こちらも、原材料系のメーカーならサンプル依頼、機械設備系のメーカーなら無料レンタル、などのように置き換えてお読みください。

このことを踏まえて、DIY的に購買する顧客にとって、企業の営業担当者はもはや情報源として5本の指に入らないという、かなり衝撃的なデータになっています。

顧客は営業担当者を介さずに情報を知りたいし、試してみたいと思っている

それでは、DIY的に購買する顧客はどんな情報/コンテンツを求めているのでしょうか。続けて見ていきます。

購入可能性を高める売り手企業の打ち手の上位3つは、「Webサイトでの価格公開」「無料トライアル版の提供」「Webサイトでの顧客レビューの表示」
※「売り手企業の専門家とのチャット」や、「営業担当者との打合せ/通話」は、下位3つの中に含まれる
 
逆に、購入可能性を下げる打ち手の上位3つは、「価格をWebサイトで公開しない」「何ができるかをはっきり示さない」「無料トライアルやデモを受けるために営業担当者への連絡を求める」
 
購買担当者の81%が自分で価格情報を調べたいと思っており、自分で価格情報を見つけられなかった購買担当者のうち、16%がその企業/製品を候補リストから削除する。

要するに顧客は営業担当者を間に介することなく、「タダで試させろ」「ユーザーのレビュー情報を見せろ」「価格が分かるようにしろ」と言っているということです。

一見すると常識はずれな顧客の要望だが、B2Cの消費者としてはフツーの考え方

これは、今までのB2B営業の常識から考えると、かなり突拍子もない要望です。デモやトライアルの際には営業担当者や技術スタッフが同席し、スムーズに進むように操作したり質問に答えたりするのが当たり前でした。また、見積を手に入れるためには製品のプレゼンテーションや課題ヒアリングなどのステップを踏むのが、これまでのB2B営業/購買のお作法になっていました。

しかし、B2B営業から見ると常識外れに見える要望ですが、普段私たちが消費者として購買するB2Cの世界ではどうでしょうか。ただで試せたり、ユーザーのクチコミ情報を見られたり、価格がすぐに分かったりするのは、至って当たり前のことですし、そのためにいちいち店に電話なりメールなりしなくてはならないとなると、面倒くさくて仕方がないはずです。

このように考えると、B2B購買のDIY化とは、購買の価値観がB2C的に変化することだと言えるのではないでしょうか。つまり、組織として集団で段階的に検討を進めながら購買プロセスを進める、という購買のプロセスは従来通りなのですが、情報収集やデモなどの個別の局面においては、間に人を介することなく必要な情報を即座に手に入れたり、製品を試したりしたいという、B2C的な価値観・進め方が主流になってきているということなのです。

私たち自身のB2Cの購買体験を豊かにし、そこから学ぼう

このようなB2B購買のB2C化は、価格や製品スペックなどの情報や購買プロセスを売り手側でコントロールし、営業担当者をすべての場面に登場させようとする従来のスタイルの企業にとっては脅威になります。その煩わしさに嫌気がさした顧客は、もっと簡単に情報を得られたりタダで試せたりする企業の製品を選ぶようになるでしょう。

普段の生活の中で消費者としてオンライン購買の経験に慣れている人にとっては、この「B2B購買のB2C化」を理解し、それに自社の営業のあり方を対応させるのは、さほどハードルが高いチャレンジではないでしょう。自分自身が消費者としてモノを買うときに、どんな体験に利便性や不便さ/イラつきを感じるのかを思い起こし、その観点で自分たちの商品・サービスの購入プロセスを見直せばそれで良いからです。

その一方で、普段の買い物は家族に任せていて、オンライン購買もほとんどしないという「現代の波平さん」のような方にとっては、B2C的な価値観を持つようになっている現在の顧客のことを理解するのは難しいはずです。もしそのような方は、家族と出掛ける旅行やイベントの申込、仕事で必要な書籍や道具の購入など、オンラインでのB2Cとしての購買体験を増やしてみること、そこで何を便利だと思い、何に戸惑ったのかに注意することから始めてみることをおススメします。

今回ご紹介したTrustRadius社のレポートは、情報収集の仕方や購買の価値観がB2C化している現在のB2B顧客の声を伝えてくれました。そして、私たちが取り扱う商品・サービスをより便利に購買してもらう「バイヤーイネーブルメント」を実現するためには、B2Cの消費者でもある私たちが自身の日常生活での購買体験を豊かにし、そこから学ばなければならない、ということを教えてくれてもいるのです。

参考:「2022 B2B Buying Disconnect: The Age of the Self-Serve Buyer」(Megan Headley, TrustRadius, June 14th, 2022)