この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。

皆さんが営業職に就く前に、「営業パーソン」にどのようなイメージを持っていたでしょうか。
映画やドラマでの営業パーソンは、如才なくて人付き合いが上手く、自らの成功や出世に貪欲な性格の持ち主として描かれることが多いように思います。映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」では、巧みな話術で相手を引き込む手練れの営業パーソンをレオナルド・ディカプリオが見事に演じていましたし、最近の日本のTVドラマ「正直不動産」で山下智久さんが演じる主人公は、もともとは巧妙に嘘をついたり調子のいいことを言って成績を上げていた不動産営業という設定でした。

この春から新しく営業職に就いた人の中には、映画やドラマの営業パーソンを見て「自分には向いていないのでは?」「自分みたいな性格でもやっていけるのかな?」と不安に思っている人がいるかもしれません。しかし、購買/営業のデジタル化が進み、コンサルティング的な要素が不可欠とされている現在のB2B営業においては、「社交的で話術に優れていて自身の利益/成功に強いこだわりを持っている」という従来のステレオタイプが、これまで以上に当てはまらなくなってきています。

そこで、今回のトライツブログでは「営業パーソンの人物像をアップデートする」をテーマに、現在のB2B営業に求められる人物について改めて考えてみたいと思います。営業職としての成長や部下育成のヒントになる内容ですので、新しく営業職に就いた方や、そのような方を部下やメンバーにお持ちの方はぜひお読みください。

イメージ①「自身の利益に貪欲」

今回ご紹介する記事は「Debunking Myths Of The Sales Role」で、わかりやすく意訳すると「営業職への間違った認識を修正する」というもの。記事の中で営業パーソンに抱かれがちな3つの典型的なイメージを紹介し、それを修正/アップデートしています。まずは、1つ目のイメージから見ていきましょう。

テレビや映画では、営業パーソンを「商品を押し売りする、貪欲な人物」として描かれがちです。(中略)
しかし、実際の営業は、顧客との永続的な信頼関係と、互いの利益を尊重することが基礎となっています。成功する営業パーソンが最も大事にしているのは、顧客のニーズと課題を把握してその解決に貢献し、顧客が成果を上げること。その結果として、自分にも利益が返ってくることを知っているのです。

営業職についての一番のネガティブな人物イメージが、この「自身の利益を最優先する貪欲さ」というものです。しかし貪欲・強欲の代名詞である「ヴェニスの商人」のシャイロック(金貸し)も、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のビフ・タネン(不動産王)も最後には懲らしめられているように、貪欲な人物が長く成功することは物語でも現実でもあまりないようです。誠実で顧客のことを大事にする性格の持ち主が、現実の営業パーソンなのです。

イメージ②「社交的」

続けて、2つ目のイメージについてです。

営業職が避けられがちなもう1つの理由が、「営業のプロは社交的な性格の持ち主」だというイメージです。(中略)
しかし、課題解決を好み、困難に対してチャレンジしようという考え方を持っているのであれば、性格が社交的か内向き気味かに関係なく、営業職はピッタリの職業となる可能性があります。

これまで大勢の営業パーソンと接してきてつくづく感じるのが、営業としての優秀さと社交性の間にはほとんど関係がない、ということです。もちろん極度の人嫌いという方は例外ですが、たとえ社交的ではなく朴訥とした雰囲気の人であっても、顧客の課題解決に真剣に取り組んだ結果として顧客から厚く信頼されて大きな成果を上げている、というのをしばしば目にします。

この困難へのチャレンジに意欲的だというのも、コンサルティング型営業や課題解決型営業が当たり前のものとなっている現在では不可欠の要素なのです。

イメージ③「デジタルに強い」

最後に、3つ目のイメージについて見てみましょう。

自動化とAIの台頭により、営業パーソンは日々新しい未知の領域で試行錯誤に取り組んでいます。このデジタル営業の光景を見て圧倒される方もいることでしょう。(中略)
しかし、現在の営業パーソンは、正確でタイムリーな情報を提供してくれる革新的なプラットフォームやツールを自由に使うことができます。また、スキルアップのための様々なテクノロジーや、バーチャル研修、コーチングプラットフォームなどの導入もこれまで以上に進んでいます。

日本国内のB2B営業では、「営業パーソンは様々なデジタルツールを使いこなせる人」というイメージはまだあまりないので、この3つ目は海外独自のもののように思われます。今でも「根っからの営業なのでITやデジタルは苦手で・・・」という人がいますが、デジタルツール活用が進んでいるこれからの時代は「ITに強いから営業が向いている」となっているかもしれません。

注意したいのが、記事が重要視しているのはデジタルの熟練度という結果ではなく、それを生み出す原因となる「自ら学び続ける意欲」だということ。様々なツールを用いて自発的に学ぶ意欲さえあれば、急速にデジタル化が進む営業の世界でも後れを取ることなく働き続けられる、というのです。

営業パーソンに対するイメージをアップデートして成長/育成に活用する

このトライツブログでもしばしば書いていますが、B2Bの営業パーソンに求められる役割が大きく変化しています。その結果、社交的に人とのつながりを構築して相手に商品を言葉巧みに提案する、という従来のイメージの営業では不十分になっています。顧客の課題を深く正確に理解して最適な解決策を考える。顧客がWebなどで収集する大量の情報を分かりやすく整理し、顧客社内の意思決定をサポートする。そして、日々進化するデジタルツールを活用して生産性を高め続ける、ということが求められているのです。

記事の最後に「営業パーソンとして成功するために必要なのは、顧客を第一に考える思いやりの心、困難にチャレンジする意欲、そして自ら学び続ける意欲です。」とあります。映画やドラマの登場人物としてのインパクトはかなり薄れてしまいそうですが、これらの3つが現在そしてこれからの営業パーソンの新しい人物像の主な要素となるべきだというこの記事の主張は、B2B営業に起こっている変化の方向性から見ても妥当なものだと思います。

営業パーソンの人物イメージがこのように変わることには、育成上の大きなメリットがあります。それは「巧みに話せて社交的」という従来のものよりもはるかに育成が容易だということです。ロールプレイ等を積み重ねれば話術は向上するでしょうが、内向きな人を社交的にするのは至難の業です。それに比べて、新しいイメージである「顧客のことを第一に考える」「困難にチャレンジする」「自ら学び続ける」は、仕事に取り組む姿勢そのものなので日々実践を積み重ねていくことで習い性となり身についていくものです。また、従来のものよりも「自分には向いていない」と断念してしまう人も少ないように思います。

営業パーソンに対するイメージを最新の適切なものへとアップデートし、営業という仕事に対する誤解がなくなれば、採用や異動でのミスマッチも解消できますし、自身の成長や育成の方向性も明確になるのでいいことづくめです。今回ご紹介した記事を参考に、皆さんの社内で「自社の営業パーソンのあるべき人物像」を議論してみるのもおススメです。皆さんの業界で、そして皆さんの組織の一員として成功するために必要な要素がきっと見つかるはずです。

参考:「Debunking Myths Of The Sales Role」(Hayden Stafford, Seismic., Demand Gen Report, April 19, 2022)