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世の中にたくさん研修会社はありますが、自社の営業に合わせた研修を提供しようとすると、どうしても社内の営業企画や営業現場が自ら研修を設計するか、陣頭指揮をとって委託先をマネジメントせざるを得ません。 

とはいえ、営業企画や営業マネージャーの方にとっては研修設計はあまりなじみのないもの。そのため、過去に行ったものを参考にしたり、見よう見まねでどうにかこうにか進めているという方が少なくないようです。 

そこで今回は、営業研修に携わる営業企画や営業マネージャーの方向けに、研修設計の基本モデル「ADDIE(アディ―)」をご紹介します。どのような手順で研修を設計すれば大事な要素の抜け漏れがなくなり、より喜ばれる研修を提供できるようになるのか、一緒に見ていきましょう。 

PDCAの教育コンテンツ版「ADDIEモデル」とは 

もともとこのADDIEと言うのは、学習効果の高い教育を設計・提供しようという「インストラクショナルデザイン」という分野で生まれたコンセプト。PDCAの教育コンテンツ版のようなものだと思ってください。 

PDCAと同じように、このADDIEは研修設計の5つのプロセスを表す単語の頭文字をつなげたもの。5つのプロセスは以下のとおりです。 

A:分析(Analyze) 
D:設計(Design) 
D:開発(Development) 
I:実施(Implement) 
E:評価(Evaluate) 

これからそれぞれのプロセスについて解説していきますが、Training & Development for Dummies」という本を参考にしています。本のタイトルを訳すと「馬鹿でもわかる研修とキャリア開発」なので、薄っぺらい入門書のように思われるかもしれませんが、実は450ページ近くの大作。 

この本の著者であるエレーヌ・ビーチ氏は、全米最大の人材育成の研究機関であるATD(Association for Talent Development)を代表して、「ATD’s Handbook for Training and Talent Development 」という書籍を書いているのですが、こちらもハンドブックと銘打ってはいるものの1,000ページ近くの分厚い本。こちらと比べると、先ほどの「馬鹿でもわかる~」は400ページ以上ありますが、相対的に簡潔かつあってもにすればコンパクトにまとまっている初心者向けの書籍だということなのだと思います。 

ADDIEモデル①分析(Analyze) 

1つめは「分析」。このプロセスでは、インタビューやアンケート、観察、データ分析などを通じて研修に対するニーズの有無や内容を明確にします。 

その中でも特に強調されているのは、その課題の解決策として本当に研修が最適なのかをきちんと考えようということ。「金槌を持っている人にはすべてが釘に見える」という有名な言い回しがありますが、本当はプロセス改善やツールの導入が最適なはずなのに、なんでもかんでも研修で解決しようとしてはいけないという戒めです。 

ADDIEモデル②設計(Design) 

2つめのプロセスは「設計」。どのような能力やスキルをどこまで高める必要があるかについての「能力開発目標」と、研修の中でそれをどこまで目指すのかという「研修目標」をそれぞれ明確にします。 

この目標設定のフレームとしてABCDというものが本の中で記載されていましたので、紹介します。 

A:受講者(Audience)誰が

B:望む行動(Behavior)何

C:条件(Condition)いつまでに/どのような状況下で

D:レベル(Degree)どこまでできるようになっていればいいか

本の中ではこのABCDをさらにシンプルにした構文として「Who will do what, by when, and how well」(誰が、いつまでに、何を、どこまでできるようになっていればいいか)というものも紹介されていますので、使いやすい方を選んでください。 

ADDIEモデル③開発(Development) 

3つめのプロセスは「開発」。ここでは、目標達成に必要な知識/スキル/マインドセットをさらに細かく分解し、それを習得するために必要な研修内容を考えて、スライドやツールといったコンテンツの作成・準備を行います。 

この開発の基本的な進め方は以下の7つです。 

1. 「設計」した目標をすべて列挙する

2. 目標を細かく分解する

3. 分解した目標を、合理的な順番になるように並べ替える

4. それぞれの目標に対して、必要なコンテンツ(教材、ツールなど)を決める

5. 講義/グループディスカッション/ロールプレイ/実践などの中から、最適な学習手法を選択する

6. 動画やハンドアウト資料、ロールプレイ用の資料、受講者が使うペンなどの補助ツールを用意する

7. テストしてみて変更や改善が必要でないかを判断する

私が実際に研修設計のお手伝いをしていて、特に重要だと思うのが7番目の「テストしてみて変更や改善が必要でないかを判断する」です。 

例えば、受講生にワークをしてもらおうとするときに、「それまでのインプット内容で本当にワークをできるようになっているのか」「記入例や作成例などを示す必要があるか」「ワークの時間は十分か」といったことはテストをしてみないとわかりません。設計したものの事前テストは、忙しいときにはついやらずにすませたくなってしまいますが、どれほど忙しくても必ずやるべきだと私は思います。 

ADDIEモデル④実施(Implement)&⑤評価(Evaluate) 

4つめのプロセス「実践」で、設計・開発した研修を実施します。そして、5つめのプロセス「評価」では、実施した研修を評価します。「研修の投資対効果」という言葉が使われることがありますが、この「評価」プロセスに該当します。 

「評価」において、本の中で強調されているのが単なる満足度調査で終わらせてはいけないということ。本の中では満足度調査などの「研修に対する反応」だけでなく、「学習内容の理解の度合」や「行動変容の度合」「業績改善の度合」も加えた4つの観点で評価することを強く推奨しています。 

以上、研修版のPDCAである「ADDIE」についてご紹介してきました。分析、設計、開発、実施、評価という単語だけだといたって普通のように見えますが、その中身まで見ていくと実際の研修設計に活かせるポイントがいろいろ見つかったのではないかと思います。 

ADDIEモデルを使って自社に最適な研修を自分たちで設計しよう 

人的資本管理という言葉が一般的になり、教育研修にかける費用や時間を公表する企業も増えてきています。そして、営業の世界では顧客の購買活動の変化が進んでいますし、多くの競合企業がソリューション営業やコンサルティング営業など、高付加価値型の営業モデルを取り入れるようにもなり、営業研修に対するニーズがより一層高まっているように感じます。 

しかしその一方で、自社の営業に本当に適した研修は、外部研修機関の既存のコンテンツではまかないきれませんし、営業の現場から離れた人事部だけで作るわけにもいきません。今の顧客やマーケットの状況を詳しく知っている営業組織や営業企画などの部署が主体的に関わらないと、適切に設計できないのです。 

ぜひ今回ご紹介したADDIEモデルを営業研修を設計する際に参考にしていただければと思います。とはいえ、自社内だけで進めるのが不安な場合は、ぜひトライツコンサルティングにご相談ください。皆さんの営業に最適な研修を一緒に設計させていただきます。 

参考:「Training & Development for Dummies, 2nd Edition」(Elaine Biech, Association for Talent Development, John Wiley & Sons, Inc., 2022