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コロナ禍によって加速したデジタルトランスフォーメーションの浸透に伴い、世界的なレベルで人材育成が重要視されています。

日本でもリスキリングが一種のブームになっていることは皆さんもよくご存じでしょう。また海外の企業では、従業員の育成と組織開発を管掌するChief Learning Officer(CLO)という役職が増えているようです。日本企業でCLOと言うとChief Legal Officer(最高法務責任者)を指すのが一般的ですが、育成のCLO職も日本マイクロソフトなどの外資系企業から設置され始めており、日本企業でも少しずつ広がりを見せています。

そんな育成ブームを受けて、今回のトライツブログではB2B営業に限定せず、広く「企業の育成」についての最新データを確認し、それを加速させるためのアイデアを学びたいと思います。人事・研修部門の方だけでなく、営業組織の中でメンバーの育成・スキルアップに取り組んでいる方にも参考になる内容になっていますので、ぜひお読みください。

レポート①「育成ニーズの高まり」

今回ご紹介するのは、オンラインでの学習プラットフォームや研修コンテンツ等を提供しているLinkedIn Learningの最新レポート、「2022 Workplace Learning Report | The Transformation of L&D」。これは研修やOJTなどの職場での学習に焦点を当てた、年刊の調査レポート。6年目に当たる2022年は「育成とキャリア開発(Learning & Development)の大変革」というタイトルで、ここ数年で「育成」に対するニーズと企業における重要性がどのように変化したかを、LinkedInらしいデータを使って示しています。

まずは、育成に対するニーズを、現在保有しているスキルと求められるスキルとの差分である「スキルギャップ」という観点で見ていきます。

  • LinkedInユーザーのデータによると、各職種で2015年から2021年にかけて保有スキルのうち平均25%が変化している。
  • 自組織でスキルギャップが広がっていると考えているL&D(育成・開発)担当者は46%であり、2021年と比べて4pt上昇している。
  • 従業員の保有スキルと事業戦略に必要なスキルにギャップがあると懸念している経営者は49%であり、2021年から9pt上昇している。

日本ではLinkedInに対して、スキルアップやキャリアアップに積極的な人が使うものというイメージがあるので、「そういう人たちがサンプル(標本集団)なら、25%のスキルぐらい変化するんじゃないの?」と思う人もいらっしゃるかもしれません。しかし、米国では総人口3.3億人に対してLinkedInのユーザーは1.8億人。その中でも産業上位のFortune 500と呼ばれる企業の92%が利用しており、先ほどのデータは米国の産業界全体を表したデータなのです。

このように考えるならば、産業界全体でスキルセットがトランプのカードのようにシャッフルされていて、半数近くの企業がスキルギャップに悩んでいるというのも、納得できる話ではあります。

レポート②「育成・開発機能の重要度が上昇」

このスキルギャップを解消するために、従業員の育成(Learning)やキャリア開発(Development)というL&D機能が、組織の中でこれまで以上に重要視されるようになっているというのです。続けて見ていきましょう。

  • 優れた職場環境を定義する要素の第1位は「学び、成長する機会があること」
  • 72%の企業が「L&D部門は組織の中でより戦略的に重要な役割を担うようになっている」と回答。
  • 2021年7~9月には、L&Dのスペシャリストへの需要が前四半期から94%増加した。

このようなL&D機能の重視が、冒頭のCLO(Chief Learning Officer)職の設置増にもつながっているのでしょう。

このデータを見て「L&Dが大事なのはわかったけど、人事部や研修部の話でしょ。営業の自分とは直接関係ないよ」と思っている人もいるかもしれませんが、それは少し違います。新入社員研修や階層別研修、コンプライアンスや最近流行りのMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)研修といった全社共通のL&Dはそれらの部署の仕事ですが、SFA活用研修や提案書作成力強化などの営業に特化したL&Dは、日米どちらの企業であっても営業企画や営業推進、そして現場の各マネージャーの仕事となっています。

つまり、先ほどのデータに示されているようなL&D機能の重要度の高まりは、単に人事部や研修部だけに限定したものではなく、営業メンバー/マネージャーの育成・開発に携わる私たちに対する要請でもあるのです。そのことを踏まえた上で、レポートの終盤にある育成を加速させるためのアドバイスを読むことにしましょう。

レポート③「育成を加速させるためのアドバイス」

LinkedIn Learningのレポートに書かれている、L&Dに取り組む部門/メンバーに対するアドバイスの中には
「他部門との連携強化、部門横断での研修実施」
「定量的な指標を使っての研修効果の測定・評価」
「学習者の声に耳を傾ける」
といった至極当たり前のものもありますが、ついつい忘れてしまいがちだけど重要なアイデアも含まれています。そのうちの2つを以下にご紹介します。

L&Dを経営陣の最優先事項にする

  • 組織全体の戦略と整合させるだけでなく、経営者が個人的に大事にしていることや情熱を抱いていることを理解して、L&Dと関連付けましょう。
  • 経営陣の言葉でL&Dを伝える。素早く把握できるように、優先順位、結果、メリットについて簡潔に伝えましょう。
  • CFO(最高財務責任者)向けに、収益効果をアピールしましょう。
  • 経営陣のうち部門長にL&Dの重要な役割を担ってもらい、経営陣をL&Dパートナーとして育成しましょう。


L&D担当者自身が学び続けよう

  • 2022年に各企業が実施を予定している研修プログラムは、9分野すべてにおいて2021年より大幅に増加しています。
  • 2021年にLinkedIn Learningを利用している他のユーザーと比べて、L&D担当者の学習時間は23%短く、学習量が少なくなっています。

「経営陣を巻き込む」と「担当者自身が学び続ける」。どちらも大事ですが、忙しいとつい忘れてしまいがちなことでもあります。単に実施状況を報告するだけでなく、経営陣を心理的にも機能的にも巻き込みながら進めていく。担当者が自ら学んで最新のトレンドを押さえておく。この2つは営業の育成に携わる私たちにも役立つアドバイスではないでしょうか。

営業のL&D機能の担い手であることを意識し、育成環境を充実させよう

ここまで、LinkedIn Learningの最新レポートを見ながら今の企業においてどれだけ育成機能の重要度が増しているか、そしてそれに応えるためのアドバイスを駆け足で見てきました。このレポートから、営業部門の育成に携わる営業企画・営業推進のメンバーおよび営業マネージャーが学ぶべきポイントを抽出するならば、最初のそれは「自分自身が営業の育成・開発(L&D)機能を担っているのを理解・意識する」だと思います。

そして、自分たちの営業組織に育成・開発に必要なものがすべてそろっているか、目指す成果を上げているかをチェックすることから始めてみてはいかがでしょう。
「営業としての目指す姿は明確に示されているか」
「それを業務/スキルとして具体的に定義し、組織内で共有されているか」
「そのスキルを習得するための研修/OJT等の育成施策はカタチになっているか」
「育成施策を実施し、その結果を評価する指標は整っているか」
「育成施策の運用・評価がシステム活用によって効率化されているか」

これらの項目を使って営業における育成・開発環境の充実度を評価し、足りなかったり見直しが必要なものを見極める。このことが、学んで成長する機会が整備された優れた営業組織を作るための第一歩となるのです。

トライツコンサルティングは、経営者/営業幹部向けにB2B営業/マーケティング/人材育成の最新トレンドについて、その背景から活用方法までご紹介するセミナーを2022年6月9日に開催します。営業人材の育成に役立つ内容が満載ですので、ぜひお申し込みください。お申し込みはこちらから

参考:「2022 Workplace Learning Report | The Transformation of L&D」(LinkedIn Corporation, 2022)