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コロナ禍における様々な政府や地方自治体が行う対策で、デジタルを活用したものがなかなか上手くいかなかったですね。
COCOAや定額給付金、ワクチンの予約など「なんでそうなるの?」と思うようなことが連発していました。そのあたりをまとめた「なぜデジタル政府は失敗し続けるのか」(日経コンピュータ著)によると、省庁の縦割などの制度やしくみの本質的な問題に加え、依頼する側にやりたいことを的確に相手に依頼することと、その依頼内容に対する提案や見積の内容を評価するノウハウがなく、「言いなり」「丸投げ」になっていることが大きいようです。
これは一般企業においても同様で、DXを推進する上での大きな足枷になっているのが現実です。「デジタル」というものの本質がわかっていない中で、表面的に取り繕おうとするので上手くいかないのです。
このような問題に対し、解決策は皆が「プログラミングを知ることである」とわかりやすく示した本があります。今回はそれをご紹介しながら、これからの営業に必要な人材について考えていきましょう。
プログラミングとはコンピュータという異文化とのコミュニケーションである
今回ご紹介する本は、「実況!ビジネス力養成講座 プログラミング/システム ~この知識なしではもう生き残れない!~」(岡嶋裕史著:日本経済新聞出版)です。著者は中央大学に新設された国際情報学部の教授で、デジタル技術だけでなく、ビジネスにも多くの知見をお持ちの方のようです。
冒頭でプログラミングについてこのように記載しています。
私はプログラミングはコミュニケーションだと考えています。
(中略)
コンピュータという圧倒的な異文化(数を10進でなく2進で数える、雑な命令ではちんぷんかんぷんで赤子に言い聞かせるようにかんで含めないと、すぐに仕事を間違える)に自分のやりたいことを過不足なく伝える行為だからです。
(中略)
「プログラミングは面倒だな」と感じる要素は、実はプログラミング言語の暗記ではなくて、それを取り巻く「コンピュータという文化の理解」にあることが多いのです。
2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されました。これはプログラミング技術そのものよりも、その前提となるものの考え方である「プログラミング的思考」を学び、コンピュータとコミュニケーションできるようになることを目的としています。
企業が海外進出をはかるためには、その国の言葉ができる人材が必要なだけでなく、その国の文化やものの考え方を理解しなければならないものですが、コンピュータを相手に仕事をするということも同じだと考えるとわかりやすいと思います。
異文化からより良い仕事のやり方を学ぶという姿勢が大切
そして、「システムは作るものから、つなぐものに」という章で、ソフトウェアは自分で書くものでなく、ありものをつないで作ればよいという現在主流になっている考え方について書いています。
これまで、そうしたベストプラクティスを導入するには、高額な費用を負担してコンサルティングを受けるなどしなければなりませんでした。しかし、現在ではソフトウェアがベストプラクティスの集積場になっています。
(中略)
これらのソフトウェアをSaaSなどで導入すれば、手探りでイチから構築するよりずっと速く、ずっと良いものが作れます。仮にそのサービスが提供するやり方が最高のものでなかったとしても、標準化されていることは間違いありません。入力するデータ、出力するデータ、演算のプロセスがみんなと同じものであれば、違う国、違う企業、違う個人と連携して業務を行うのが当たり前になった社会では大きなアドバンテージになります。
SFAにおいても、それぞれの企業でゼロから開発するのでなく、既にあるサービスを使うということが一般的です。それは単にコスト的なことだけでなく、それぞれのサービスの持つ「営業についての思想」や、多くのユーザーの声が反映された機能を使うことで、組織としてベストプラクティスを取り入れることができるというメリットが大きいのです。
「ソフトをカスタマイズして自社に合わせる」は、業務環境の透過的接続や、従業員満足度の向上に一見よさそうですが、実はソフトに合わせて自社を作り替えるほうがよいことも多いです。この「自社組織や自社風土、業務プロセスを作り替えること」がDXの一歩目です。
文化の違う国の人と仕事をする上で、「とにかく日本人に合わせろ!」とするのでなく、相手の文化、思想を取り入れることは大切です。ましてや相手が多くの企業で得た優れた仕事のやり方を身につけているとすれば、それに合わせて自分の仕事を見直すというのは当然のこと。その姿勢は相手がコンピュータであっても必要だということなのだと思います。
しかしながら、自社の既存業務に合わせて大幅なカスタマイズをしてしまい、ベストプラクティスを学ぶ機会をなくしてしまっているケースは少なくありません。
異文化を理解するためには自らコミュニケーションしてみること
そして、これからのデジタル時代に重要なことと、それに向けての具体策を提示しています。
仕事でも家庭生活でも、一番大事なものを人任せにはしないと思うんです。そして情報システムはいまや経営の根幹を成す要素です。他社の手を借りる場合でも、全体を掌握し、管理するのは自社自身でなければなりません。
これについては、皆さん異論はないのではないでしょうか。しかし「全体を掌握し、管理する」ということを実際にやろうとすると、ある程度内容がわからなければなりません。そうでないと「この案件やばそう」など自分で判断ができないからです。
これからビジネスを行っていくに際しては、法律的、会計的な知識と同水準で、システム的、プログラミング的な知識が必要です。
(中略)
そうした「システム勘」をつけるには、日曜大工程度でいいから自分でプログラムを書いてみることが最善です。どんな業務をシステム化すると時間がかかるのか、すごく大変そうに見えてプログラミングが楽なのはどのプロセスか、無理なく知ることができるでしょう。
(中略)
マネジメント層がプログラミングを知ること、エンジニアがビジネスロジックを知ることは、DXを進める上での最重要事項のひとつです。
このように自らプログラミングを行ってみることが最善策であるとしています。確かに異文化を理解するには、その中に自分の身を置き、コミュニケーションをとるのが一番だと思います。相手がコンピュータの場合、それがプログラミングであるということでしょう。
このように考え、改めてこの本全体を見ると、コンピュータという異文化についてわかりやすく解説したものであるとわかります。引用した部分以外にはアルゴリズム、ネットワークやデータベースなどについて具体的に紹介していますが、それらはどれもコンピュータを理解する上で必要なこと。そして、それらを知識として学ぶだけでなく、自らプログラミングをやって、コンピュータとコミュニケーションしてみることが有効であるというのが筆者からの提案だと思います。
自らの業務にメリットのあるテーマで実際にやってみよう
海外進出を成功させるためには、その国の文化や言語を学ぶことが近道・・・というのと同じように、DXを成功させるためには、プログラミングを学ぶことが近道だということについては私も同じ意見です。手を動かして作ってみることがコンピュータを理解するために最も有効な手段だからです。
ちなみにせっかく取り組むのであれば、実際に直接的なメリットが得られることをテーマにやってみることがいいでしょう。例えばコロナ禍になってTeamsが普及しましたが、Teamsを使うためにはOffice365の契約が必要です。そして、そのOffice365にはPowerAppsという簡単に業務アプリが作れるものが含まれています。それを使って自分の仕事に使える業務アプリを作ってみるのです。
実際のプログラミングのやり方については、解説本も出ていますし、YouTubeにはわかりやすく解説した動画も沢山あります。それらを上手く活用しながら、コンピュータという異文化を理解していくことと、同時にコンピュータを使って自分の業務が楽になるというメリットを得ることができれば、DX人材への第一歩を踏み出したと言えるでしょう。
この本のサブタイトルには「この知識なしではもう生き残れない」とありますが、実は知識ではなく、プログラミングという経験なのかもしれません。そこから得られるものがこれからの時代に必要なのだと思います。
トライツコンサルティングでは、並走型のコンサルティングで、DX人材の育成をサポートしています。自ら手を動かし、必要な経験を積み重ねていくプロセスのコーチ役としてサポートすることも可能です。ご興味のある方はいつでもお気軽にご相談ください。