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B2B営業・マーケティングにおいてもWebの存在感が増す昨今、FacebookやTwitter、LinkedInなどのSNSを活用する企業が増えてきています。例えば、B2Bのビジネスが主体である島津製作所やデンソー、AGCなど歴史ある大手日本企業がページを開設し、商品情報や企業のブランディングにつながる情報を定期的に投稿しています。

しかし、企業としての情報発信は盛んになってきているものの、海外のように個人としてビジネスの情報発信を行うことはまだ一般的にはなっておらず、営業を企画したりマネジメントしたりする立場として、また一人の営業パーソンとしてどのようにSNSと向き合っていけばいいか悩んでいるという方も多いのではないかと思います。

そこで、今回のトライツブログではSNSを使ったマーケティングの1つ「従業員アドボカシー」と、そこから得られるこれからの営業担当者の育成・プロデュース方法のヒントについて見ていきたいと思います。SNSマーケティングに興味をお持ちの方、営業担当者の育成や顧客への売り出し方についてお悩みの方は、ぜひお読みください。

近年注目が集まっているマーケティング手法「従業員アドボカシー」

「アドボカシー(advocacy)」という単語を調べると、日本語訳で「弁護」「擁護」と出てきます。この言葉は以前から政治用語として使われており、政府・自治体の政策に影響を与えたり、社会問題について訴えかけたりするために、行政や大衆に意見や情報を発信して支持者を集める活動全般のことを指しています。アメリカのニュースや映画などでよく出てくるロビー活動もアドボカシーの一種です。

「従業員アドボカシー」とは、このアドボカシーをマーケティング目的で行おうと言うもの。従業員が個人のSNSの中で、自社の商品・サービスや事業そのものについての情報を発信し、ブランドや商品の認知を高めたり、自社のファンとなる人たちを増やそうというマーケティング手法です。FacebookなどのSNSが普及し、B2B企業での活用が本格化し始めた2015年ごろからB2Bのマーケティング手法の1つとして注目されています。2017年の「コトラーのマーケティング4.0」の中にも「アドボカシー」=「推奨」という和訳で重要性が取り上げられています。

この従業員アドボカシーについて、SNSとどう向き合うかのヒントとなる記事が最近発表されました。B2Bを対象としたSNSマーケティング・コンサル会社SociabbleのCEOであるBenard氏による「Unlock the Power of Employee Advocacy in B2B Marketing」(B2Bマーケティングに従業員アドボカシーの力を解き放て)です。この記事の中で、Benard氏は従業員アドボカシーに取り組む価値と、これを成功させるために組織として取り組むべき4つのアクションを紹介しています。早速見ていきましょう。

調査レポート①従業員アドボカシーに取り組む価値

営業担当者本人による従業員アドボカシーは効果的な手法です。SNSを使うことで、自社のビジネスに関係する見込客と直接つながり、伝えたいコンテンツを共有でき、専門知識を提供でき、関係構築することが可能となります。従業員アドボカシーについての調査データによると、企業のブランディングを信用している顧客は33%しかいませんが、知り合いからの推奨は90%の顧客が信頼しています。また、正式な従業員アドボカシーに取り組むことでWeb上での認知度が高まると、79%の企業が回答しています。

「組織からではなく個人から買う」などと言われるように、組織ではなく顔の見える個人が信頼される現代において、SNSを使った従業員アドボカシーは効果的な施策であることは間違いないようです。続けて、成功のための4つのアクションを一気にまとめてご紹介します。

調査レポート②従業員アドボカシー成功のための4つのアクション

1. 従業員一人ひとりが自身のブランドストーリーを構築できるように支援する
専門家としての経歴を作成し、自分の言葉で自由に専門知識を語れるようにすることで、発言の信憑性が高まります。

2. CSRで社会に提供しようとしている価値を従業員に伝える
ビジネス目標だけでなく、社会に対してどのような価値を提供しようとしているのかを伝えます。従業員が誇りに思い、シェアしたくなり、そして顧客が喜んで聞きたくなるような情報を伝え、SNS上で発信してもらうのです。CSRに対する会社としての考えを広めることで、他社との大きな差別化につながります。

3. 自由にかつ簡単に投稿・シェアできる環境を用意する
従業員が複数のSNS上にコンテンツを簡単に投稿・シェアできる、統合型のプラットフォームを用意しましょう。

4.(最も重要なこととして)コンテンツ作成・配信を支援する
上記の3つのアクションはいずれも有効ですが、すべてはコンテンツという最重要な要素があってこそのことです。B2Bマーケティングにおいて、従業員が自分の得意分野で専門家としての評判を確立するためには、専門性が高く説得力のあるコンテンツの存在が欠かせません。(中略)質の高いコンテンツをライブラリに保存しておき、従業員がいつでもアクセスできるようにしましょう。そして、毎週のコンテンツ配信の予定をスケジュール化し、(中略)テキストだけでなくショートビデオやインタビュー、ポッドキャストなど、提供するコンテンツを多様化します。

4つのアクションを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。私がこれを見て感じたのは「従業員アドボカシーに取り組むには従業員への徹底的なサポートが必要である」と言うことです。

従業員アドボカシーに取り組む企業へのアドバイスとして、上の4つのアクションのうちの3つ目「投稿・シェアできる環境の用意」や4つ目「コンテンツ作成・配信の支援」については以前から言われていました。FacebookやLinkedInなどの複数のSNSに効率的に投稿・シェアできる統合型のプラットフォームがあれば、手間が省けて情報発信の頻度が上がるでしょうし、自分でイチからコンテンツを作るのではなく自社オリジナルの優れたコンテンツが用意されていれば、専門家としての信憑性も高まります。

しかし、この記事の特徴は、4つのアクションのうちの1つ目「従業員一人ひとりのブランドストーリー構築支援」や2つ目「社会に提供しようとしている価値の発信」という、社会から好ましいと思われる専門家となってもらうために従業員を徹底的にプロデュースすべきである、という強い姿勢にあると思います。従業員一人ひとりが独自の専門分野を持ったスペシャリストとして振舞えるようにキャラクターを設計し、単に自社の利益を追求するだけでなく社会に貢献する大義まで持たせる。確かに、ここまで徹底して育成・演出されていれば、その人の発信に価値を感じるでしょうし、何かあれば相談したくなるというのは自然なことでしょう。

ビジネス用途で使えるSNSが育っていない日本

B2B営業・マーケティングにおけるSNS活用は欧米だけでなく世界中で進んでいます。そこで主に使われているのは、ビジネスに特化したSNSであるLinkedInと、ビジネス/プライベートの両方で使われ、世界最大のユーザー数を誇るFacebookの2つです。

しかし、日本国内でのSNSの使われ方は世界標準とは大きく異なります。

Facebookは個人のタイムラインを営利目的に使ってはいけないということもあってか、仕事の話ばかり投稿するのは好まれない傾向にあるようです。ちなみにFacebookにはFacebookページという個人アカウントとは別にビジネスの情報を自由に発信できるページを持つことができるのですが、一般的なビジネスパーソンがこれを作ってビジネスの情報発信を行うこともまれです(私も持っていません)。そして、LinkedInについては、登録はしているもののほとんど投稿していない方や、仕事や転職に役立つ情報収集のためのツールと割り切って使っている人が多いのではないでしょうか。

つまり、従業員アドボカシーを自然に行えて、見込客の獲得などの成果につながるような「ビジネス用途で使えるSNS」というプラットフォームが、日本では十分に育っていないということなのです。

SNSマーケティングだけでなく、営業全般で求められる専門家としてのプロデュース

それでは、日本で働いている私たちにとって、SNSを使ったマーケティングは縁のないもので、従業員アドボカシーなどは考える必要のないものなのでしょうか。

確かに、現在(2021年)の日本でのSNSの使われ方を見ていると、従業員一人ひとりが自分の持っている専門的な知識をSNSに高頻度で発信し続けるのは違和感があるかもしれませんが、まだSNSをB2B営業・マーケティングで活用するビジネスパーソンが少ない今だからこそ、取り組むべきとも言えます。以前のトライツブログでもご紹介したように、営業担当者には顧客がより良い購買の意思決定を行い、購入した商品・サービスを使って顧客が成果を上げることを支援する「コンサルティング営業」としての役割が求められるようになっています。そのため、営業担当者一人ひとりが優れた専門家となるようスキルを強化し、顧客から期待されるようプロデュースする必要が高まっているのです。

残念ながら日本ではまだSNSのビジネス用途という環境は十分に出来上がってはいません。しかし、従業員アドボカシーの要素である「営業担当者一人ひとりをコンサルティング営業ができる専門家として打ち出すこと」は、高度な専門知識を持つ営業が求められている現在において重要な課題であり、今回ご紹介した「従業員アドボカシー成功のための4つのアクション」を参考に取組を始めて欲しいと考えています。

あなたにとって、SNSとはどんなイメージでしょうか?

□家族や友人との単なる連絡ツール
□炎上したり拡散されたり怖いからできれば避けたいもの
□若者やコンピューター好きの人のおもちゃ
□自分には関係のないもの
□仕事には使ってはいけないもの

このように捉えていては「従業員アドボカシー」から得られる恩恵を得ることはできません。必要以上に恐れたり、勝手に使い道を制限したりせず、効果的に活用する方法を模索してはいかがでしょうか。

参考:
Unlock the Power of Employee Advocacy in B2B Marketing」(Jean-Louis Benard, Sociabble, Inc., September 1, 2021)