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私たちは周りで起こっていることを、自分が持っているモデルやフレームワークを通じて理解します。子どもの頃に見た戦隊モノやウルトラマン、仮面ライダーだと「正義と悪」。ドラゴンボールやワンピースなどのアニメは「仲間とライバル」。このようなモデルやフレームワークがあることで、テレビや映画の中で繰り広げられている内容を効率的に処理し、理解することが可能になります。

これと同じように、私たちはB2B営業の商談や顧客について、セールスファネルという「じょうご」の形をした逆三角形のモデルを使って理解しています。ファネルとは「じょうご」「漏斗」の意味。セールスファネルは、まだ受注するかどうかよく分からない見込客の購買意欲が徐々に高まりながらじょうごの中を進んでいき、最終的に「購買」や「ロイヤル顧客化」となってじょうごの底に到達します。特に最近ではSFAの普及に伴って、セールスファネルを使って営業活動を報告・分析する機会も増えたのではないでしょうか。

今回および次回のトライツブログでは、このセールスファネルについて改めて考えてみたいと思います。「出来合いのモデルを使っていてしっくりきていない」「以前からのモデルを使っているが、このままでよいのか不安」「顧客も自分たちもWeb化/リモート化が進んでいるので、モデルを見直したい」という方々は、ぜひお読みください。

実は120年以上の歴史があるセールスファネル

セールスファネルの原点だと言われているのがAIDAモデルです。これは、最上段のA(Attention:注意・認知)から始まり、一番下のA(Action:購買)のAに至る4つの購買段階を表したもの。このAIDAモデルの歴史は古く、米国の広告の専門家エリアス・セント・エルモ・ルイス氏が今から120年以上前の1898年に作成したと言われています。

このAIDAモデル以降、様々なセールスファネルが発明・考案されてきましたが、その中でも代表的なものを一挙に紹介してくれているのが、CRMなどのB2B営業向けセールステックを開発・販売しているCIENCE社のブログ記事「The Definitive Guide to Building a B2B Sales Funnel」です。この記事はDefinitive(決定版)とタイトルにある通り、セールスファネルの作成・活用方法やその際の課題などがしっかりとまとめられているのですが、中でも最大の特徴が先ほどご紹介したAIDA以外に7つものセールスファネルを整理しているところ。早速見ていきましょう。

セールスファネル①Forresterモデル

1つ目に紹介されているのが、B2B営業・マーケティング分野が充実している調査会社Forrester社が開発したモデルです。このモデルは内側と外側の2つのサイクルからなり、内側のサイクルは顧客側から見たマーケティングプロセスを、外側のサイクルは営業側から見た顧客のライフサイクルを表しています。

Forresterモデルは2つの意味でAIDAモデルから進化していると私は考えます。

1つはプロセスの初期段階が、Webを使って検索・調査する現代向けにアレンジされていること。営業側から見て最初は匿名の状態で自社のWebサイトにアクセスしていた顧客が、メルマガ等の登録により「名前付き顧客」になり、ホワイトペーパーのダウンロードなどによって「問合せ顧客」になる、というモデルはWeb時代にマッチしていると言えるでしょう。

また、「購買」以降に目指すべきプロセスとして「関係構築」(Engage)を加えているのも大きな進化点です。

セールスファネル②マッキンゼー・モデル

言わずと知れたコンサルティング会社マッキンゼー社が、2009年に開発したのが下のモデルです。

こちらも、購買の次のプロセスに「ロイヤル」(Loyalty)が加えられているのが特徴です。

セールスファネル③ハインツ・モデル

次のモデルは、世界最大のケチャップ・メーカーであるだけでなく、様々な食品ブランドを傘下に持つハインツ・グループのマーケティング部門が開発したもの。B2C向けのモデルではありますが、SNSなどの活用が進んでいる現在のB2B営業・マーケティングにおいても参考になるモデルです。

この蝶ネクタイ型のモデルの最大の特徴は、購買以降のプロセスが具体化されていることです。「購買」以降に「ロイヤル」へと進むためには「価値認識」されることが必要、「ロイヤル」の先にはブランドの価値を周囲にクチコミで広めてくれる「伝道」(Evangelism)がある、などと興味深いモデルになっています。

また、左端の「組織化」(Community)が「認知」の手前にあるのも、ソーシャル・マーケティングに通じると言えるでしょう。

セールスファネル④コンバージョン・ファネル

4つ目のモデルは一見すると普通のセールスファネルですが、様々な工夫が凝らされています。

1つ目の工夫は、「認知前」の段階が最上段に追加されていること。2つ目の工夫は、購買(再購買)が開始される引き金(「購買意識化」)が明示されていること。そして3つ目の工夫は「調査・接近」から「購買」までの過程が具体的に表現されていることです。こちらもWebによる購買に対応でき、参考になるモデルだと思います。

セールスファネル⑤JBメディアグループ・モデル

5つ目のモデルは、デジタルにも強い米国の広告代理店、JBメディアグループによるものです。

このモデルの特徴は顧客の段階ではなく、営業の段階として各プロセスが表現されていることと。また、最上段が「アクセス獲得」となっており、完全にデジタルマーケティングを意識した内容になっています。

セールスファネル⑥RAINグループの購買プロセス

6つ目のモデル、研修主体の営業コンサルティング企業RAINグループのモデルです。

このモデルの特徴は、企業の購買プロセスがより現実的かつ具体的に定義されていること、そして各購買プロセスに対応する営業プロセスが表現されていることです。多くのモデルで最初のプロセスになっている「認知」や「認知前」ではなく、「問題発生」から購買プロセスが開始したり、購買後のプロセスが「ロイヤル」や「伝道」ではなく「成果創出」になっていたりと、日本のB2B営業でもそのまま使えそうなモデルになっています。

セールスファネル⑦CIENCEのセールスファネル

最後に紹介するのが、この記事を作成したCIENCE社のモデルです。

上から3つ目までのプロセスは顧客の言葉で表現されているのに、その次のプロセス「説得」が営業主体の表現となっていたり、購買実施のプロセスが「連携」と表現されていてわかりにくかったりと、アラが目に付くところはありますが、マーケティングが担当するプロセス(「リード発掘」)と、営業組織が担当するプロセス(「商談」)が分けられているなど、こちらも工夫が施されているモデルになっています。

7つのモデルを参考に自分たちのセールスファネルを見直してみよう

7種類のセールスファネルを一気に見ていただきましたが、いかがでしたでしょうか。「じょうご」型という基本構造は同じであるものの、それぞれ独自の工夫や特徴がありました。

ここで、簡単にAIDAモデルからのセールスファネルの進化の方向性を確認してみましょう。上にご紹介した7つのモデルに見られる進化の方向性は、以下の4つです。
・プロセスの開始点:「認知」の前の段階から営業・マーケティングの対象とする
・プロセスのゴール:「購買」のさらに先の「ロイヤル」「再購買」などを目指すゴールとする
・顧客の購買プロセス:顧客の購買プロセスを具体的で計測可能なプロセスとして表現する
・Web時代への対応:Webを活用する現在の購買活動に対応したプロセスにする

これらの進化を加えたことによって、インターネットはおろか、TVもラジオもない120年前に作られたAIDAモデルが、現在でも有効なものとして私たちのSFAなどに活用されています。そのように考えると、このセールスファネルというものは本当によくできたモデルだとつくづく感じるのです。

この記事をお読みの皆さんも、現在ご自身が使っているセールスファネルを思い浮かべながら、先ほどの4つの進化の方向性について改めて考えてみてください。何か閃いたものがあるなら、皆さんのセールスファネルを改善するチャンスです。上にご紹介した7つのモデルを見返しながら、使えそうなアイデアがあればぜひ参考にしていただきたいですし、思い切ってご自分で考えてみても良いと思います。

次回はトライツの考えるセールスファネルをご紹介します

次回のトライツブログでは、トライツが考えるB2B営業向けのセールスファネルとその考え方、皆さんの営業組織で使えるようにするためのカスタマイズの仕方をご紹介します。「7つのモデルを見てみたけど、どれもしっくりこない」「既存のモデルをどうカスタマイズしたらよいのかわからない」という方に参考にしていただける内容ですので、どうぞご期待ください。

参考:「The Definitive Guide to Building a B2B Sales Funnel」(CIENCE, April 19, 2021)