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顧客と出会い、商談化し、そして受注に至る。そのような一連のマーケティング/営業のプロセスをモデル化したものがセールスファネルです。セールスファネルという言葉に馴染みのない方であっても、普段使っているSFAの「営業プロセス」など、自分たちの営業活動や顧客の購買活動の流れを表すモデルを何かしら使っているものです。

前回のトライツブログでこのセールスファネルについて、原形ともいえるAIDAモデルから最近の代表的な7つのモデルまでを幅広くご紹介したところ、お読みになった方から「こんなに種類があるとは思わなかった」「まとめて見比べることがなかったので新鮮だった」などの感想をいただきました。

今回はその続きとして、普段私たちトライツが使用しているセールスファネルのモデルと考え方、個々の営業組織に合わせたカスタマイズの仕方をご紹介します。「出来合いのモデルではフィットしない」「顧客や自分たちのWeb化/リモート化という変化に合わせて、既存のモデルを見直したい」という方には特に参考になる内容ですので、ぜひお読みください。

トライツ独自のセールスファネル「顧客の購買プロセス」

トライツのモデルをご紹介する前に、セールスファネルの基本形を改めて確認しましょう。下の図がセールスファネルのオリジナルとも言えるAIDAモデルです。

これは顧客が購買に至るまでの心理状態を4つの段階で表したもので、最上段のA(Attention:注意・認知)からじょうごの中を下に向かって進んでいき、最終的に一番下のA(Action:購買)に至るというもの。このAIDAモデルを念頭に置いた上で、次のモデルをご覧になってください。

上のモデルは、セミナーなどでご紹介しているトライツ独自の「顧客の購買プロセス・モデル」です。B2Bの顧客である法人が購買に至るまでのプロセスを、ほぼすべての業種・業態で使えるように一般化しています。

上から1つずつプロセスを見ていきましょう。一番上は「ビジョンの明確化」。事業の新たな柱となる新商品を開発・販売する、次世代の経営者候補を育成するなど、目指す姿(ビジョン)を明確にします。

このビジョンを実現するために解決すべき課題を「課題発見」で明確にします。新たに柱となる新商品がどのようなものであるべきかの商品コンセプトを設計する。次世代経営者候補に求められる資質を具体化したり、現在のマネージャー層のスキルや経験を分析・評価したりする、というのがこれに当たります。

次に、明確になった課題への「解決策の探索」を行います。新商品のコンセプトに合致する素材や部品をリストアップする、次世代経営者候補に足りないスキルを補う研修プログラムを調べる、といった作業がこのプロセスです。このプロセスになって初めて、購買するもの(新商品の素材・部品、研修プログラム)が具体的になります。

その後は、リストアップした解決策を「比較・選定」し、新商品の発売や次世代経営者候補向け研修の実施について組織で「意思決定」して、実際の「購買」、つまり新商品の生産・販売や研修プログラムの実施へと進むというもの。この購買プロセスによって、営業・マーケティングの進捗を見ていこうというモデルなのです。

顧客の購買のWeb化によって生まれた「トライツ・モデル」

他の多くのセールスファネルとトライツ・モデルは何が違うのでしょうか。プロセスの数が違う(AIDAは4つで、トライツ・モデルは6つ)という見た目の違いはありますが、それよりも大きな違いは、AIDA等のセールスファネルが顧客の「心理状態」の変化を表しているのに対し、トライツ・モデルは「購買活動」の進捗を表している、ということです。そしてこの違いの背景には、Webの普及による顧客の購買活動の変化があります。

AIDAモデルが生まれた120年前からつい最近まで、顧客はB2C・B2Bを問わず、受け身の存在でした。B2Cであれば、新聞やTVなどのマスメディアを通じて広告を視聴し、それによって「注意・認知」→「興味・関心」→「欲求」と購買意欲が高まって最終的に「購買」に至る。B2Bであれば、展示会やセミナー開催の案内を受け取って来場し、その場で会話した出展者からのフォローによって購買する。このように売り手が一連の流れをコントロールし、顧客はそれに反応するというのが相場でした。そのため、AIDAなどの多くのモデルは、売り手の行動に対して反応する顧客の心理状態で表現されています。

しかし、Webが普及し、B2CでもB2Bでも顧客は売り手が知らないところで、どんどん自ら情報収集するようになっています。海外では「B2Bの購買担当者の77%は、自分で基本的な調査を終えた後じゃないと営業担当者との電話/面談に応じない」(CBE Global社調べ)という調査結果があるように、現在の顧客は決して受け身の存在ではなく、自ら積極的に購買プロセスを推進するようになっているのです。

このような状況で、売り手があたかも自分にまだ主導権があるかのように商談を進めてしまうと痛い目を見ます。「会っていきなり提案を求められたので、汎用の商品紹介資料をそのまま送ったらそれで最終判断をされてしまった」「担当者に何度も提案書を作り直しては提出しているのに、顧客の部内でそれがまったく共有されていなかった」などということが多発してしまうのです。

Webの普及に伴う購買の変化に合わせて、トライツ・モデルは顧客の心理状態ではなく、顧客の購買活動そのものの進捗でプロセスを表現するようにしました。顧客は自主的にかつ売り手が知らないところでも購買プロセスを進めます。だから営業は自分が何をしているかではなく、顧客がどのプロセスにいるのか、次のプロセスに進むためにどんな支援をすればよいのか、ということをこのモデルによって確かめなければならないと考えているからです。

顧客の購買プロセスに合わせてトライツ・モデルをカスタマイズする

トライツ・モデルはWebを活用して自主的に購買プロセスを進める現在の顧客に合わせたものになっていますが、実際の営業現場で使う際には、カスタマイズ/チューニングをすることが多いです。実際は、それぞれの企業の商品・サービスの顧客に合わせて個別に設計するのですが、ここでは簡単に代表的なパターン例をご紹介します。

顧客の購買活動には、いくつかのパターンがあります。例えば顧客が作る最終商品に自社の素材や部品が使われる「商品開発型」の場合は、顧客の購買プロセスは「商品戦略策定」→「商品コンセプト設計」→「商品詳細設計」→・・・という商品開発プロセスそのものになります。

一方、顧客が量販店のように自社の棚に仕入れた商品を並べて販売する「仕入販売型」の場合は、顧客の購買プロセスはまず達成すべき数字目標に対して、これまでの実績を分析・評価し、取り扱う商品候補の情報を収集・評価して棚割を決定し、その後は売れ行きを見ながら商品を発注・補充するというものになるでしょう。

また、前半で紹介した「次世代経営者候補向けの研修プログラム」の例のように、事業を進める際で発生した課題を解決するために商品・サービスを購入する「課題解決型」の場合は、商品開発型とも仕入販売型とも違うプロセスとなります。「課題解決型」の列の「比較・選定」の段にアルファベットの略語がいくつか並んでいますので、補足説明します。「PoC」はプルーフオブコンセプトの略で解決策が実現可能なものなのかを簡易的に試してみることです。「FS」はフィージビリティスタディの略で、主に市場性・収益性という観点で解決策の実現性を評価すること。続く「ROC」(投資対効果分析)と同様なものだとお考え下さい。

あなたのセールスファネルは正しく現在の顧客や商談を映していますか

前回・今回と2回にわたってセールスファネルについて考えてみました。今や当たり前の存在になっているSFAの中にもセールスファネルは含まれており、私たちは自分たちが使っているモデルを通じて顧客や商談を見ています。そのモデルが実際の顧客の購買活動とずれてしまっていると、顧客の振る舞いや発言などを正しく理解できずに、顧客の購買プロセスを支援するどころかブレーキをかけてしまうことにもつながりかねません。

「今使っているモデルが実態とフィットしていない」「顧客の購買活動のWeb化に合わせて見直したい」という方は、ぜひトライツにご相談ください。一緒に顧客の購買プロセスを改めて調査・分析し、それを後押しする営業活動の進め方を一緒に考えていきましょう。