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前々回のトライツブログ「情報収集チャネルの多様化がもたらす『顧客セグメンテーション』の新基準」では、コロナ禍によってさらに加速している情報収集チャネルのWeb化と多様化に伴って、B2Bでの顧客セグメンテーションの基準に「情報収集チャネルの選択」というものが新しく加わりつつある、という内容をご紹介しました。

これまでB2Bにおける顧客の主な情報収集チャネルは、営業担当者でした。従って、この営業担当者との関係性は顧客をセグメントする上で重要な要素だったのです。しかし、Webの普及によってメルマガやウェビナー、ビデオ、チャットなどの新しいものが加わってきました。

そして、「みんながWebを使って情報収集するようになっているので、Webで情報発信しよう」という単純な話ではなく、人によっては仕事の情報収集ではWebをほとんど見ないという人もいますし、逆にほぼWebだけで情報収集を済ませる人や、Webとそれ以外を組み合わせている人もいるというように「多様化」が進んでいるのが現状です。

従って、新規の顧客開拓からナーチャリング(顧客育成)まではMAを使って、デジタルで。HOTな顧客は営業がアナログで商談・・・というように単純な役割分担のやり方は、顧客数の多いB2Cならともかく、限られた顧客、市場を相手にするB2Bにおいては上手くいかないことが少なくありません。もっと個々の顧客の情報収集チャネルに対する「好み」を見て、それに合わせて対応していく必要があるのです。

ただし、全てを「個別対応」にしてしまうと個人に依存してしまうことになってしまうので、組織としての基本的な考え方が必要になります。それが今回のテーマである「情報収集チャネルによる顧客セグメンテーション」です。

具体的なセグメント方法についてのトライツの考え方と、それを活用する上でのポイントについてご紹介します。顧客の情報収集チャネル選択の具体例を知りたい方や、顧客セグメンテーションを時代に合わせてアップデートしたいという方は、ぜひお読みください。

セグメンテーション・分類には分かりやすさと説得力が大事

少し話が逸れますが、私が新入社員の頃に受けた研修では、自分と相手の行動の傾向を4つに分類する「ソーシャル・スタイル診断」という考え方が使われていました。「自己主張の強弱」と「感情表現の高低」という2つの軸を組み合わせて、アナリティカル(分析型)、ドライビング(前進型・実行型)、エミアブル(温和型)、エクスプレッシブ(直感型)の4つに相手を分類し、その分類に応じて対応の仕方を変えよう、というものです。その研修を受けた際は、自己主張が弱めで感情表現が低めのアナリティカル(分析型)だと診断された気がします。

このソーシャル・スタイル診断は2軸で分類するので、4つの型のどれかに必ず当てはまりますし、何より分かりやすく、「言われれば確かに自分はそういうタイプだ」と思わせる説得力があります。

話は戻って、B2Bの購買担当者の情報収集チャネルは多様化しています。もっぱらWebで情報収集するタイプ、業界新聞や業界雑誌を読むタイプ、展示会やセミナーなどのイベントに頻繁に出掛けるタイプ、社内外の人脈と定期的に連絡を取り合うタイプ、これらすべてのチャネルをフル活用するタイプ。このような情報収集チャネルの選択の仕方について、先ほどの「ソーシャル・スタイル診断」のような分かりやすく説得力のある分類はまだ明らかになっていないようです。

情報収集チャネル選択の分類事例に見る難しさ

このテーマで最近発表された意欲的な事例が、メドピア株式会社・株式会社Emotion Techによる「共同NPS®調査」というものです。これは、製薬企業・MRの顧客である医師を、重視している情報収集チャネルによって分類・類型化したもの。この調査結果によると、医師の情報収集チャネル選択は「専門情報重視派」「対面重視派」「メール重視派」の3つに分類でき、専門情報重視派はさらに「Web重視派」「(リアルな)講演会重視派」に分けられるということだそうです。

明確な前例がない中において、3,438件という大規模なデータをもとに分類を作成したこの調査結果は大きな意義のあるものですが、2つの課題が残っています。1つ目の課題は、回答結果のうち半数近くの1,576件が分類不能となってしまっていること。そして2つ目の課題は、各分類の構成比に大きな偏りが生じていることです。先ほどの分類を構成比が大きい順に並べると、「対面重視派」30%、「Web重視派」12%、「(リアルな)講演会重視派」11%、「メール重視派」1%となっており、メール重視派が極端に少なくなっています。このように、情報収集チャネル選択の分類というのは、実はとても難しいテーマなのです。

トライツが考える情報収集チャネル選択の4分類

これに対し、トライツでは「好きなコミュニケーションスタイル」と「デジタルの利用度」という2つの軸を組み合わせて、情報収集チャネル選択を分類しています。

「好きなコミュニケーションスタイル」は、人との会話のような「双方向」(インタラクティブ)なやり取りを好むタイプと、Webや文献資料などを使って調査するだけの「一方通行」を好むタイプに分けられます。これに、WebやSNSなどのデジタルチャネルの利用度の「高い」「低い」を組み合わせることで、すべての顧客キーマンを以下の図のように4つに分類することができます。

左上の「マルチチャネル型」は、営業担当者や同業の知人との会話など双方向のコミュニケーションとWebの両方を使って情報収集を行うタイプです。展示会やセミナー、メールマガジンや雑誌など様々なチャネルを駆使して積極的に情報収集をしている、いわゆるアンテナが高い人のことです。

右上の「対話重視型」は、営業担当者や同業の知人などとの対話をメインとして情報収集しているタイプです。Webセミナーやメールマガジンなどのデジタルチャネルの利用度は低い一方で、直接対面しての打合せを好むので、営業担当者からすると会いやすく、ついつい余計に訪問してしまいやすいタイプだとも言えます。

左下の「ネット自己完結型」は、WebやSNSなどをメインとして情報収集しているタイプです。デジタルを使って情報収集しているものの、基本的には一方通行で自己完結を好むので、こちらからはなかなかその存在が見えにくいタイプでもあります。

右下の「資料重視型」は、業界の専門紙や学会誌、書籍などの紙媒体を中心とする資料をメインに情報収集しているタイプです。研究開発に力がありアカデミックに近い業界や企業では、このタイプの方がけっこういます。

この4つの分類はあくまでもサンプルですし、個別の業界によって縦横の軸や分類名についての微調整は必要となりますが、大筋として多くの業界で当てはまる分類になっているようです。

セグメンテーションを成果につなげるために大事な4つのプロセス

ただ、この4分類が分かっていても、それだけで顧客のセグメントがうまくいってマーケティング・営業の成果が上がるというものではありません。大事なのは、
1. 客観的な基準・手法で顧客の情報収集チャネル選択を調査し
2. それをもとに顧客を診断・分類し
3. それぞれのタイプに応じたチャネルの使い分けやコミュニケーションの基本方針を明確にし
4. 実際の顧客の反応に基づいてチャネルの使い方やコミュニケーションの取り方を個別にチューニングする

という一連のプロセスに基づいて、この分類を活用することです。

ある企業で情報収集チャネル選択を用いた営業計画づくりをサポートしたプロジェクトでは、3番の「タイプ別のチャネル活用の基本方針の明確化」に、特に力を入れました。双方向ではなく一方通行のコミュニケーションを好む顧客に対して、メールマガジンやセミナーなどの一方通行の情報提供からコミュニケーションを取り始めて、どうすればスムーズに双方向である商談の場をセッティングできるか。営業担当者との対面での会話を好む顧客とのコミュニケーションを効率化するために、いかにWebセミナーや自社Webサイトを使ったデジタルでの情報収集に慣れてもらうか。これらのことを実現できるような一連のコミュニケーションの手順を、具体的に設計したのです。

ただセグメンテーションするのではなく、セグメントごとの対応方針を明確にする。マーケティングとして当たり前のことではあるのですが、この肝心なところを現場に丸投げしてしまうのではなく、真似してすぐに使えるような基本形を現場に示すことが大事だということに、改めて気づかされたプロジェクトでした。

セグメンテーションのプロセスを進めるために必要な環境を用意しよう

顧客の情報収集チャネルにおいて、Webはより重要な位置づけを占めるようになっており、同時にそのチャネル選択はより多様化しています。そのため、顧客の情報収集の好みを理解してそれに対応しなければ、顧客とコミュニケーションを取ることすら難しくなっています。

そのような中、今回ご紹介した情報収集チャネル選択の具体的なセグメント例は、多くのB2B営業・マーケティングにおいて参考にしていただける内容になっているのではないかと思います。が、ここで大事なのは、「客観的に調査」「分類」「タイプ別の対応方針の明確化」「反応に基づいてチューニング」という一連の流れに従って運用することですし、それが可能となる環境を営業企画やマネージャーが組織として用意することです。

「世の中でデジタルだDXだと言われているけど、うちの業界は例外」「うちの顧客はデジタルに疎い」などと決めつけずに、顧客が情報収集チャネルとしてどのようなものを活用しているかを客観的に調査・評価できるツールを準備する。顧客とのコミュニケーションチャネルの設計を現場の営業に丸投げするのではなく、真似して使える基本形を用意して現場に理解させる。顧客の反応に基づいてチューニングできるよう、顧客の各チャネルへの反応を追跡して把握できるしくみ(MAツールなど)を導入・活用する。

これまで往々にして「相手に合わせて適切なミュニケーションチャネルを考えてやり取りする」ということは、営業担当者の仕事でした。しかし、コミュニケーションチャネルが多様化・Web化している現在では、これを上手くやるためには組織としての環境整備が欠かせなくなっているのです。ここに気付けるかどうかがこれからのマーケティングの成否を分かつ。そのように私は考えます。

トライツコンサルティングでは、顧客の情報収集チャネル選択の多様化・Web化に合わせた、マーケティング・営業のしくみづくりとその教育をサポートしています。「顧客のセグメンテーションを今の時代に合わせたい」「もっと効果的に顧客とコミュニケーションを取れる営業担当者を育成したい」という方はご相談ください。