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タレントの照英さんが「それが営業だ!」と叫ぶベルフェイスのCMを覚えていらっしゃいますか。
新規顧客発掘のための飛び込み営業や、既存顧客にチラシなどを持っていくなどのために、20年ほど前まではまさにあのCMのように営業担当者が足しげく顧客のところに通っていました。その頃はまだWebも発達しておらず、「DMを送り付けるのは失礼だ。手で持っていけ」という考え方も強かったため、顧客の主な情報収集のチャネルは各企業の営業担当者のみという業界も少なくありませんでした。
それに対し、現在の顧客は情報収集において様々なチャネルを活用しています。
思いつくだけでも、キーワードを検索して各企業のWebページを見る、FacebookなどのSNSに表示される記事や広告を読む、メールマガジンを読む、展示会やセミナーなどのイベントに参加する、懇意にしている営業担当者と話をするなど、20年前と比べると明らかに情報収集のチャネルは多様化しています。そして、コロナの影響でリモートワークが広がったことにより、従来はリアルでおこなわれた展示会やセミナーがWeb化するなど、既存チャネルのWeb化という変化も起きています。
このような、情報収集チャネルの多様化によって、「セグメンテーション」というマーケティング戦略づくりの基本的なフレームワークにも変化が起きようとしています。今回のトライツブログでは、「多様化するチャネルとB2Bのセグメンテーション」について考えてみたいと思います。現在の潮流に合わせて、これまで学んだマーケティング戦略をアップデートしましょう。
B2Bでのセグメンテーションとその一般的な基準
セグメンテーションとは、それぞれの顧客に対して最適な商品・サービスを提供したり、最適なコミュニケーションを取るために、顧客を客観的な基準で分類することです。
私が以前に石油系クレジットカードのマーケティングに携わっていた頃、新規カードの入会促進をしてもらうために、ガソリンスタンドを運営している全国の石油小売会社のセグメンテーションをしたことがありました。その時に設定した基準は、たまたま立ち寄ったドライバーではなく地元のドライバーを勧誘できるように、郊外に立地していること、営業熱心な小売会社に重点的にフォローしたかったので、元売のカード以外に自社でのポイントカードを発行していること、といったものでした。
この記事をお読みの皆さんの会社でも、年商や従業員数などの事業規模、事業内容・業態、収益性、立地などの基準を使って何らかのセグメンテーションをしているのではないでしょうか。
B2Bでのセグメンテーションの基準として、一般的に使われているのは以下の4つの切り口です。
1.企業属性:事業規模、業態、購買関係部署/キーマン
2.立地
3.購買行動:Webサイト等へのアクセス状況、自社イベントへの参加状況、商談の頻度・ボリューム、受注割合
4.心理特性:企業/個人としての価値観・好み(慎重さ、革新性、など)
さらに5番目の切り口として、「顧客価値」(注:売り手にとっての収益性)を挙げているところもあります。
「情報収集チャネル選択」という新基準の登場
しかし最近では、新しく「情報収集チャネル選択」という基準を加えようとしている企業が出てきています。世界中のマーケッター向けにナレッジデータベースとコンサルティングサービスを提供しているSmartInsights社の、セグメンテーションに関する記事「Customer segmentation and targeting」では以下5つの切り口が提案されています。
1.顧客属性
2.現在および将来の顧客価値
3.顧客の購買行動
4.顧客の(情報収集)チャネル選択(複数チャネルにおける行動)
5.心理特性を含む顧客のペルソナ
ここで注目していただきたいのが、「4.顧客のチャネル選択」。多岐に広がる情報収集チャネルの中からそれぞれの買い手がどのようなチャネルを好んで使っているか、という切り口です。
もっぱらWebで情報収集するタイプ、業界新聞や業界雑誌などの活字を読むタイプ、展示会やセミナー/学会などのイベントに頻繁に出掛けるタイプ、社内外の人脈と定期的に連絡を取り合うタイプ、これらすべてのチャネルをフル活用して情報収集するタイプ。このようなチャネル選択のタイプをセグメントの基準に付け加えることで、それぞれの顧客とより適切にコミュニケーションを取れるようになる、ということです。
当たり前になった「情報収集チャネル利用の多様化」
チャネル選択がセグメンテーションの新基準として取り上げられるようになってきた理由が、冒頭でも述べた「買い手の情報収集チャネル利用の多様化」です。今思い返してみれば、石油系クレジットカードのマーケティングに携わっていたころは、それに関わる多くの人がほぼ同じチャネルを使って情報収集をしていました。燃料油脂新聞や油業報知新聞といった業界紙を読み、全石連という団体が開催している展示会に毎年出席し、さらに石油元売/小売各社の知り合いと個人的に情報交換をしたり、という活動をほとんどの人が同じようにやっていました。
しかし現在では、人によって情報収集するチャネルの使い方はまったく異なります。いろんな業界で購買やマーケティングに携わっている人と話をする機会がありますが、業界紙を読まない人はざらにいますし、展示会にほとんど出向かない人もいて、それが咎められることもありません。以前のように、程度の濃淡こそあれどほぼみんなが同じチャネルの情報に触れているということがなくなっているため、情報収集チャネル選択という基準でセグメントを分けていないと、そもそも買い手にマーケティング情報を伝えることすら難しくなっているのです。
「情報収集チャネル選択」を加えてセグメンテーションを見直してみよう
新型コロナの影響により、これまでのマーケティング戦略を大幅に見直さざるを得なかった組織が多いことでしょう。対面での商談やリアルのイベントが中止/縮小されたことにより、Web中心のマーケティングへと大きく舵を切った企業も多いのではないでしょうか。
そのように昨今の状況変化に応じてマーケティング戦略を見直す際、今回ご紹介した「情報収集チャネル選択」というセグメンテーション基準を加えることが有効だと私は思います。「企業属性」や「購買行動」「心理特性」などの既存の基準を使って適切な商品・サービスを絞り込み、「情報収集チャネル選択」に応じてそれら商品・サービスに関するメッセージを伝えるチャネルを最適化するのです。
そして、もう1つ大事なのはこの「情報収集チャネル選択」データを実際の顧客の行動、例えば自社Webサイトへの訪問状況や、メールマガジンの開封状況、営業担当者との商談頻度などから、常に最新のものにアップデートすることです。この半年間で人々の行動習慣が大きく変化しています。以前はWebをほとんど使っていなかったのに、最近ではSNSも含めてWebで積極的に情報収集している、という人も多いでしょう。実際のチャネル選択の結果をもとに、定期的にメンテナンスすることが欠かせません。
これからも最新データ・トレンドをもとに営業・マーケティングをアップデートします
今や大学で教える学問にもなっているマーケティング理論は、実務の変化に合わせて常に変化しています。モバイルやSNS、動画の浸透により使用するツールが増え、Microsoft365などのサブスクリプション型サービスの登場により、カスタマーサクセスという新しい概念が生まれています。これらと同じように、顧客が利用する情報収集チャネルの多様化により、それらを連携・統合するオムニチャネルという考え方が生まれたり、今回ご紹介したように「情報収集チャネル選択」がセグメンテーションの基準として加わろうとしているのです。
トライツブログでは今後もB2B営業・マーケティングに関する最新のデータやトレンドをフォローし、従来の考え方や枠組みをアップデートしてコンサルティングサービスに反映させています。買い手が自分の好みに合わせて情報収集チャネルを選んで利用している現在のB2B営業・マーケティングについて、お悩みの方はぜひご相談ください。
参考:「Customer segmentation and targeting」(CustomerInsights, 2020)