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前回のトライツブログでは、海外の調査レポートをもとに、コロナ禍においてB2B購買のオンライン化が進んでいること。そしてそのオンライン購買の場所として企業のWebページの重要性が高まっている一方で、7割近くがユーザーエクスペリエンスの改善を求めていることを確認しました。

そして、この変化と歩調を合わせるように、オンラインでの顧客の購買活動を支援する「バイヤーイネーブルメント」が改めて注目されるようになっており、B2B購買のオンライン化が進むウィズコロナにおいて必要不可欠なテーマになりつつあることも見てきました。

実際にトライツにも「バイヤーイネーブルメントに興味がある」とご相談をいただくことが増えてきました。具体的な事例が知りたいと言われるのですが、なかなか「コレがお手本です」と示せるものがないのが現実だったりします。

そこで、コロナの影響で新規顧客開拓に悩むある企業が、Webサイトの見直しの中でバイヤーイネーブルメントに取り組むとどうなるかをストーリー仕立てでまとめてみました。創作した事例ではありますが、すべてが架空のお話ではありません。つい最近バイヤーイネーブルメントについて取り組んだ経験をベースに業界や取組内容に変更を加えてまとめたものです。

これをお読みいただくと、バイヤーイネーブルメントについてご理解が深まるのではないかと思います。Webサイトをもっと営業に役立てたい、Webで顧客の購買をサポートしたいとお考えの方はぜひお読みください。

閲覧数は増えているが問合せが来ないWebサイトを進化させる

K社は建物の設備工事や維持管理を行っており、関連企業から依頼を受けたり、セミナーや展示会などでの引き合いから商談を発掘していました。しかし、コロナの影響でセミナーや展示会が続々休止となっており、その一方で自社のWebサイトへの閲覧数は増えているものの問合せには至っていない、ということに悩んでいました。

Webサイトを改めて顧客の視点で見直すとともに、社内の営業担当者とも話を重ねて出した結論は、「今のWebサイトでは必要な情報が手に入らないので、顧客の購買プロセスを進められず、検討段階で候補から外れてしまっている」というもの。そこで、「バイヤーイネーブルメント機能を持つWebサイトへの進化」をテーマとするプロジェクトをスタートさせました。

このプロジェクトでは、建物の設備工事や維持管理について悩んでいる顧客がWebを開いたときに、参考になる情報を見つけられるサイトとなるようにその会社のWebサイト全体を見直すことに。そこで取り組んだのが、「ブログによる頻繁な情報発信」「SNSとの連携」、そして今回のテーマである「バイヤーイネーブルメント」の3つです。

取組1「ブログによる頻繁な情報発信」

これまで、その会社のWebサイトでの情報発信は、建物や施主を特定されないように詳細をぼやかした施工事例が不定期で更新されているだけでした。この夏からは、設計担当者・施工担当者・維持管理担当者・営業担当者が持ち回りで週に1つブログ記事を作成し、HPに掲載するようになりました。

業界での新しい規制や法律の解釈、設計・施工のノウハウ、維持管理での一風変わった困りごととその解決策など、「そういう課題ってあるよね」「そうやって解決するんだ」と興味を持ってもらえるような記事づくりに取り組むことになりました。

取組2「SNSとの連携」

また、作成した記事をSNSでも発信するようにしました。顧客の中堅~若手の多くが使っているFacebookとTwitterを選択。そして、あらかじめ決めたキーワードで定期的に投稿を検索し、何かビジネスにつながる可能性がありそうな場合は、公式アカウントから直接連絡する、ということも行うことにしました。

取組3「バイヤーイネーブルメント」

そして、このプロジェクトの目玉であるバイヤーイネーブルメントについては、Gartner社が「A Guide to Buyer Enablement」という記事の中で解説している7つの機能を参考にして見直しを行いました。

分析機能…顧客にデータ分析機能を提供する
助言機能…それぞれの購買活動に対して顧客をコーチングする
診断機能…現状のパフォーマンスを評価、または顧客に必要なオプションを特定する
比較機能…顧客には入手困難な情報を使って他社と比較する
共有機能…顧客社内のステークホルダーと共有できる土台を提供する
実験機能…解決策が顧客の環境でどのように機能するかを模擬実験する
案内機能…顧客の入力内容に応じた具体的な購買タスクの選択肢を提供する

これら7つの機能のうち、K社では「助言機能」「診断機能」「実験機能」にフォーカスしました。

「助言機能」は、建物の構造や面積、「省エネ」「長寿命」「BCP」などの目的などを選ぶことでおススメの設備をレコメンドするというもの。これまでは、営業担当者が訪問してヒアリングし、その次の訪問で紹介するということをしていましたが、顧客が自分で目当ての設備について調べられるようにしています。

「診断機能」は、「快適性」「省エネ」「長寿命」「BCP」などの観点から、顧客が自社の建物の「建物力」を診断するというもの。以前は技術担当者と営業担当者が同行して現場調査をし、その後に不定形でレポートを作成していたのですが、Webサイトでセルフサービス化するということで思い切って共通フォーマットにまとめました。この建物力診断と先ほどの設備のレコメンドはリンクしており、建物力を向上するために使える設備もまとめて見ることができます。

そして最後の「実験機能」は、屋上やボイラー室、エントランス、植栽などの建物のエリアごとの維持管理・点検の様子を動画で見られるようにしました。維持管理や点検の場合、仕様書に落とし込みにくい専門家としての気配りや一手間というものがあります。それをクドクドと言葉で説明するのではなく、動画で見てもらおうというものです。

このように、これまで営業担当者や技術者が対面の営業で実施していたことを、Webサイト上で顧客が自分でできるように素材を集めて機能化しています。また、訪問者がどのページのどの機能を使ったのかを継続して追跡できるように、簡単なMAシステムも導入することにしました。

バイヤーイネーブルメントの企画に不可欠な「顧客の声」と「営業の工夫」

冒頭に「すべてが架空のお話ではない」書かせていただきましたが、このストーリーの基となった経験の中で、私が改めて認識し、皆さんにも共有したいと思っていることがあります。それは「顧客の声を聴くこと」と「営業担当者の工夫を知ること」の重要性です。

会社に出てくる回数が減り、対面でのコミュニケーションが減っている現在、顧客の購買担当者は決して親切とは言えない企業のWebサイトを見ながら情報収集を進めています。そして、普段なら営業担当者を呼んで得ていた情報も得にくくなっていますし、複数の選択肢の中から何を選んだら良いかなどのアドバイスも貰いづらくなっています。そのようなリモートワーク環境下での顧客の購買プロセスの課題を知るために、この企業で実施した顧客ヒアリングは大変参考になりました。

また、そのヒアリングの結果明らかになった購買プロセス上の課題に対して、これまで営業担当者は様々な工夫をしていることも分かりました。Excelで簡単なシミュレーションツールを作っていることもありましたし、建物力診断のように職人の知恵として体系化されていないノウハウもたくさんありました。これらの工夫について、営業担当者の方々にWeb会議でインタビューしたことから、具体的なバイヤーイネーブルメントのアイデアが出てきたのです。

顧客のオンライン購買における悩みを聴くことから始めよう

コロナによって私たちの環境は大きく変わりました。まだ多くの企業で足踏み状態だったリモートワークは当たり前の働き方になりましたし、印鑑レスの仕事の仕方に取り組む企業も出てきています。同様に、B2B購買のオンライン化もこれまでにないペースで浸透しつつあります。しかし、Web会議やチャットツール、在宅勤務のための手当などリモートワークのための環境は揃ってきているものの、オンラインで購買する人にとって購買しやすい環境、つまり各企業のWebサイトのバイヤーイネーブルメント化は進んでいないように思えます。

それでは、バイヤーイネーブルメントに取り組むとして、どこから始めたら良いのか。今回業界を置き換えてご紹介した取組事例での経験から、私は「顧客の声を聴くこと」から始めるべきだと考えます。顧客はオンライン購買をどのように進めているのか、どこから情報を集めていて、何に不満・不便を感じているのか。顧客が社内で検討するときに何が問題になっているのか。こういった購買プロセス上の課題を知ることで、バイヤーイネーブルメントとして何をすべきかが自ずと明らかになります。ウィズコロナになってからほぼ半年、この半年の間に顧客の話をじっくりと聴けているでしょうか。購買活動における悩みを把握できているでしょうか。バイヤーイネーブルメントの取組は、まさにそこから始まるのです。

トライツコンサルティングは、Webページの全体構成の見直しや、7つの機能を持つコンテンツ作成などでバイヤーイネーブルメントの実現を支援しています。「顧客にとってストレスなく購買体験ができるWebページに変えたい」「Webからの売上を伸ばしたい」という方はぜひご相談ください。