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これまでトライツブログでは、営業DX(デジタルトランスフォーメーション)の実現のために、SFAやMAなどB2B営業/マーケティングで使用するデジタルツールのデータ分析・活用の重要性について、ご紹介してきました。

しかし、多くのB2B営業組織には、統計学や機械学習などの知識・スキルを持ったデータサイエンス人材がそもそもおらず、「Excelのピボットテーブルを使った集計くらいならできるけど、分析までは…」となっているようですし、そのような人材をどこまで力を入れて採用・育成するのかも不明確なところがほとんどだと思います。

そこで、B2B営業に必要なデータ分析のスキルが何で、それをどうやって育成するかを考えてみたいと思います。「難しい」「専門知識が必要」と思われがちなデータサイエンス人材の育成を、営業現場でどのように行えば良いのでしょうか。

データサイエンス人材の育成が各所で行われているものの…

現在日本では産官学で、データサイエンス人材の育成が重要な課題となっています。

ご存知のように滋賀大学や横浜市立大学、武蔵野大学ではデータサイエンス学部が創設され、最近でも一橋大学、立正大学、大阪工業大学などで、データサイエンスを学べる学部・学科・専攻の新設が検討されているというニュースがありました。

政府もデータサイエンスなどの高度人材育成のために、内閣府が「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度検討会議」を開いており、2020年の4月以降の運用開始を予定しています。

また、企業でもデータサイエンティスト育成プログラムを開いたり、独自に認定制度を設ける企業が増えていますし、2019年にはNECや日立、清水建設などの大手企業が「社内のデータサイエンティスト育成の強化」に取り組むというニュースが続々と発表されました。

このように日本全体で大きな潮流となっているデータサイエンス人材の育成ですが、「取組を始めた」というニュースは数多く見聞きするものの、「上手く行った」という話はあまり表に出てこないようです。ということは、どこかにボトルネックがあると考えるのが妥当でしょう。では、今の育成方法のどこにボトルネックがあるのでしょうか。

データサイエンス人材に必要な2つの知識と、その育成のための2つのルート

データサイエンス人材としてB2B営業などビジネスの場で活躍するには、統計学や機械学習などの技術的な専門知識と、その分析結果をもとにどう戦略や業務を改善するのか考えるのに必要な業務知識の2つが必要です。一般社団法人データサイエンティスト協会では、技術的な専門知識を「データサイエンス力」と「データエンジニアリング力」、業務に応用していく知識を「ビジネス力」と呼び、合計で36のスキルカテゴリに分解しています。

このように技術専門知識と業務知識の2つが必要になるため、データサイエンス人材の育成ルートとしては
A. 大学などで技術専門知識を身に付けた人に、業務知識を学ばせる
B. 職場で業務知識を身に付けた人に、技術専門知識を教える
の2つがあるのですが、どうも活躍しているデータサイエンティストの話をビジネスイベントや学会などの場で聞いていると、圧倒的にAのルートで育成された人が多いように私は感じます。「文系出身」「統計の知識はゼロからスタート」という人もいなくはないのですが、本当に稀な存在なのです。

今主流の育成ルートではハードルが高すぎる!

しかし、現在多くの企業で行われている育成のやり方は、ハードルの高い「職場で業務知識を身に付けた人に、技術専門知識を教える」というBルートであり、どうやらそこにボトルネックがありそうなのです。では、ここで技術専門知識としてどのようなものが教えられようとしているのか、データサイエンティスト協会が「見習いレベル」と呼んでいる、最低限の基礎の基礎のスキルチェック項目を4つほど見てみましょう。【】内の文字はスキルカテゴリを表します。

①代表的な確率分布の特徴を5つ以上説明できる【統計数理基礎】
②平均値、分散、平均値の差の検定手法を知っている【検定/判断】
③数十万レコードを持つデータベースのバックアップ・アーカイブ作成など定常運用ができる【環境構築】
④JSON、XMLなど標準的なフォーマットのデータを受け渡すために、APIを使用したプログラムを設計・実装できる【プログラミング】

目を通してみて「うんざり」「書いてある用語自体が分からない」「自分にできると思えない」と感じている方が多いと思うのですが、それが多くのビジネスマンにとって正常な反応でしょうし、これを理解・実行できる人を職場の中で育てようというのはかなり無理があると言わざるを得ません。特にデータサイエンスを専門とするわけでなく、営業企画などの普段の業務のレベルアップのためにデータサイエンスを学ぼうという人にとっては、あまりにハードルが高すぎるように感じます。

それでは、B2Bの営業組織がBルートで無理なくデータサイエンス人材を育成するために、どのよう進めていけば良いのでしょうか。これまで自分が所属していたコンサルティング会社やクライアント企業向けにデータ分析の勉強会を何度か実施してきた経験から、2つのポイントがあると私は思っています。

データサイエンス人材育成のポイントその1「積み上げ型の理解を前提としない」

1つ目のポイントは「積み上げ型の理解を前提としない」というものです。統計学を正しく理解しようとすると、1つ1つ知識を積み上げていくことが必要です。例えば、先ほど見たスキルチェック項目のうち、①の「代表的な確率分布」を理解していないと、②の「平均値、分散、平均値の差」という統計量がどの確率分布に当てはまるかが分からず、結果としてどの検定手法を用いたら良いかが分からない、という関係性になっています。

この積み上げ型を前提にして育成しようとすると、つまづいたり理解があやふやな個所が発生したらそこから先へは進めません。学術的には不誠実だと言われるかもしれませんが、元データの種類とやりたい分析を決めたらどの検定手法を用いたら良いかが一目で分かる早見表をつくるというように、積み上げ型ではなく分析や検定の手法をパターンとしてインプットするというのが、現実的かつ受け入れられやすいアプローチだと私は思います。

データサイエンス人材育成のポイントその2「特殊なツールの活用を前提としない」

2つ目のポイントは「特殊な分析ツールの活用を前提としない」ことです。先ほどのスキルチェック項目の③と④は、「データ分析のためにはデータベースソフトが必要であり、プログラミング言語の利用が不可欠だ」という前提に立っています。しかし、営業企画のメンバーや営業部門のスタッフでOracleなどのデータベースソフトを日常使いし、SQLやR/Pythonといった言語でプログラミングをしている人はほぼ皆無でしょう。

ただでさえ普段やり慣れていないデータ分析をしようとしているのに、そのための環境からして特殊でかつ扱いづらいとなるとどうしてもハードルが上がってしまいます。ですので、できる限り普段の業務と同じような環境でデータ分析ができるようにするのが重要です。いつも使っているOfficeソフト(Excel)上で操作でき、プログラミング言語を使わずに分析できる環境を前提としないと、定着させることは困難だと考えます。

大事なのは現在の知識体系・業務環境の延長線上で育成すること

ここまで、データサイエンス人材の育成についてどのように進められ、どこにボトルネックがあるのかを概観し、それをもとに実際のB2B営業組織で育成を行う際には何がポイントになるのかを考えました。大事なのは、データサイエンスの研究者や専門家を育成するような既存の考え方から脱却し、いかに現在の知識体系や業務環境の延長線上で無理なくデータ分析ができるようにお膳立てするか、だと私は思います。

次回はこの続きとして、B2B営業のデータ分析に必要十分なスキルセットとその習得方法について考えてみたいと思います。SFAやMAなどのデータの活用、営業DX実現の第一歩としてのデータ分析力の向上にご興味のある方は、次回もお楽しみにしていただければと思います。

トライツコンサルティングでは、B2B営業/マーケティング組織におけるデータ分析力の向上・内製化のサポートをしています。2月12日にはSFA等の営業デジタルツールのデータ分析の進め方に関連するセミナーを開催いたしますので、ご興味のある方はぜひお越しください。