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2019年ももうすぐ終わりを迎えます。今年は「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を、新聞や雑誌でよく目にするようになりました。下の図はGoogleトレンドで「デジタルトランスフォーメーション」の人気度の推移を調べたものです(青の実線が実際の人気度、赤の点線はその移動平均)が、これを見ていただくと、昨年末のころはようやく移動平均で40点程度だったのが、たった1年で80点と倍増しているのが分かります。

このようにブームとなっているDX。その中でも、B2B営業に携わっている方々にとって一番身近なDXと言えば、おそらくSFAでしょう。しかし、SFAを導入してはいるもののDXと言うには程遠く、「かえって手間が増えている」「ただの業務報告ツールでしかない」という営業組織が結構あります。

そこで、SFAを真のDXツールとするために何が必要なのか、どのようにすればSFAを使って営業のデジタル改革を実現できるのかについて考えてみたいと思います。

SFAをDX化する最初のステップ「SFAデータの分析」

そもそも、デジタルトランスフォーメーションとはどういうものなのでしょうか。経済産業省が「DX推進ガイドライン」で長々と定義しているものをぎゅっと圧縮して表現すると、「データやデジタル技術を活用してビジネスモデルを変革すること」となりますが、皆さんのSFAは営業の業務を変革しているでしょうか。新しい価値をSFAから得られているでしょうか。

もし、SFAがDXになっていないというときに、最初にするべきこととして私がお勧めしているのが「データ分析」です。今入力されているデータを使って、「SFAの利用度」や「商談の種類」「受注の割合が高い商談の傾向・特性」といったものを分析する。これによって、「SFAの利用促進策」だけでなく「売上拡大につながる施策(ターゲットの選び方、商談の進め方、商品の組み合わせ方)」を考えることができ、営業のDX実現に向けた第一歩を踏み出すことが可能となります。今の使い方を振り返りつつ、今後の営業活動の進め方やSFAの使い方のアイデアを見つけることができる、お勧めの打ち手なのです。

「データが不十分だから分析できない」という錯覚

しかし、SFAを使いこなせていない営業組織ほど、せっかく入力したSFAのデータを分析していないようです。そのような組織の営業企画のメンバーと話をすると、「ウチのデータはまだ分析できるレベルじゃない」というセリフをよく耳にします。「まだ全てのデータが入っていないから」「データの入れ方がバラバラだから」、今のデータでは分析できないと言っては入力データの量を増やそう、質を高めようと四苦八苦しているのです。

本当にそうなのでしょうか。入っているデータが不十分ならデータ分析はできず、データの量や質が高まるのを待つしかないのでしょうか。

結論を言いますと、入っているデータが不十分でもデータ分析はできますし、データの量や質が高まるまでデータ分析をしないというのは大きな間違いです。と言うのも、「分析結果のフィードバックなしに、SFAの入力データの量や質を高めるのは難しい」ですし、「SFAに入力されるデータの量や質が、文句のつけようがなくなるほど高くなることはあり得ない」からです。そして、「データの量や質が不十分でも、大まかな傾向や因果関係を見つけることは可能」なのです。以下、この3つのポイントについて、順番に確認してみましょう。

ポイント1.分析結果のフィードバックなしに、SFAの入力データの量や質を高めるのは難しい

1つ目のポイントとして、営業担当者にSFAのデータを入力してもらうためには、目に見える対価を返すことが必要です。分かりやすくて一般的な対価は「上司から怒られない」というものですが、SFAを使いこなせていない営業組織では上司の中にも価値がよくわかっていない人がいるなど、統制が十分に効いていないことが多いようです。そのような組織の場合、「今あるデータから面白い分析結果が出てくる」「売上拡大のヒントがもらえる」など、直接メリットがある対価をデータ分析などによって返さないと、より丁寧に抜け漏れなく入力しようとするインセンティブになりません。データが揃ってから分析するのではなく、データをより積極的に入れてもらうために先にデータ分析してフィードバックを返すのです。

ポイント2.SFAに入力されるデータの量や質が、文句のつけようがなくなるほど高くなることはあり得ない

2つ目のポイントは、SFAのデータ自体の限界に関するものです。私がB2CマーケティングのコンサルタントからB2B営業のコンサルタントに転身して痛感したのが、SFAに入力されるデータは一般的なマーケティング分析と随分異なり、「曖昧なデータ」だということです。

POSデータやクレジットカードの利用履歴などのデータと、SFAのデータが違う最大の理由は「人間が入力している」ということです。日々の仕事で忙しい営業担当者が移動時間などのスキマを見つけて入力するものですから、忙しさに応じて抜け漏れが発生してしまいますし、時間がなくザックリとしか入力できないことも当然あります。また、顧客が何に興味を持っていて、どれくらいの予算規模で、いつぐらいに決裁しようとしているのかといった情報も、営業担当者のフィルタを経由しているためどうしても主観的なデータになりますし、事実ではなく推測や誤認識に基づいて入力されてしまうということも起こります。そもそも、顧客の担当者も人間なので、もともと顧客社内にあった情報が営業担当者に伝えられ、SFAに入力されるまでの間に何重にもフィルタがかかっている状態なのです。

そのため、どれだけ営業担当者が熱心に入力するようになっても、SFAの中のデータはずっと主観的なままですし、色々な誤差が含まれたままです。SFAデータを分析しようとするのであれば、この「曖昧なデータ」という制約から逃れることはできないのです。

ポイント3.SFAだけでなく、他のデータも組み合わせて分析することで見えてくるものがある

3つ目のポイントは、分析や数字というものについての考え方の問題です。データ分析というと、物理学や天文学で扱うような精度の高い客観的なデータじゃないと分析する意味がない、と言う人がいらっしゃいます。もちろん自然科学の分野のようにデータの精度が高ければそれに越したことはないのですが、ポイント2で見てきたようにSFAに入力されるデータが客観的で精度の高いものになることはありえません。SFAデータを分析しようとするのであれば、自然科学で扱うような厳正なデータ分析ではなく、社会科学や人文科学で扱うような曖昧さや誤差を前提としたデータ分析の考え方をすることが必要なのです。

一昔前は、自然科学をハードサイエンス、社会科学や人文科学をソフトサイエンスと呼んでいました。ソフトサイエンスにおけるデータ分析の最大のポイントは「量が質を生む」です。完全にランダムなデータでなければ、データの件数が増えればおのずと傾向が見えてきます。

このように書くと、「やはりとにかく入力させなきゃ!」と思われるでしょうが、そこで停滞させてはいけないのです。例えばSFAには一部の顧客の情報しか入力されていなくても、社内のシステムには売上数字のデータがあるはずですし、その営業担当者の人事関連のデータ(経験年数や人事評価など)もあるでしょう。これらを集めるとある程度のデータ量になるでしょう。これらを組み合わせて分析すれば、SFAの1つ1つのデータの精度が低くても、ある程度の傾向を見出すことができるのです。

今のデータで十分なので、まずデータ分析をしてみよう

以上の3つのポイントをまとめると、SFAに入力されるデータがいつまでも完全に満足のいく質・量になることはなく、そうならなくてもソフトサイエンスの考え方による分析は可能だということです。そして、データを入力するモチベーションを高めるために、不十分なデータであってもまずは分析してフィードバックを返すことが大事なのです。結論としてお伝えした「データの量や質が高まるまでデータ分析をしないでおくのは大きな間違い」というのがご理解いただけたのではないでしょうか。

実際に私がデータ分析をお手伝いしたケースでも、入っているデータは営業担当者が日報代わりに書いていたとても主観的なテキストデータばかり、というところがほとんどでした。それでも今後の営業戦略を考えるために役に立つアイデアを見つけることができましたし、その企業ではその分析結果をもとにしてSFAの入力項目を見直してより使い勝手が良いものに変えています。データの精度が低くて曖昧なものであっても、営業のビジネスモデルを変えるのには十分な力を持っているのです。

今入っているデータが不十分だからと言い訳をせずに、まずはソフトサイエンスだと認識した上でデータ分析をしてみる。それこそがSFAを活用したDX実現の第一歩なのではないかと、私は思っています。

トライツコンサルティングでは、SFAに入力されているデータだけでなく、社内に分散している営業関連のデータを組み合わせたデータ分析もご支援しています。「SFAの活用度合を確かめたい」「今あるデータの中から売上拡大や営業の効率化のためのヒントを見つけたい」という方はぜひご相談ください。