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「学ぶ」と「真似る」に、「習う」と「倣う」など、諸説あるようではありますが、学習を意味する言葉と模倣を意味する言葉は語源を同じくするものが多いようです。最近話題の人工知能/機械学習の分野においても、人間の動きを模倣することで作業を学習する「模倣学習」という言葉があるように、模倣することが学習の1つの方法であることは間違いなさそうです。
この「模倣して学習する」を営業に置き換えると「成功事例の共有」や「成功モデルの展開」ということになりますが、「これは!」という成功事例が社内にあってもなかなかそれを展開・再現するのは難しいもの。そこで、今回のトライツブログは「成功事例を模倣し、それに学ぶための方法と考え方」について、改めて考えてみることにしましょう。
成功物語の共有どまりになりがちな「成功事例共有会」
皆さんの営業組織では、成功事例を共有しそれを学ぶためにどのような取組をされているでしょうか。
私が色々な営業組織にお邪魔してみてきた中で多いのは、成功事例について営業幹部やメンバーの前で発表する「成功事例共有会」や、社内のホールや社外イベントスペースを借りて成功事例を褒め称える「社内表彰式」など。これらは、成功に至る物語や工夫したこと、苦労したことを皆の前で話し、聞いている人がその努力に拍手するという感動的なもの。
こういった取組では往々にして、選ばれる事例が華々しく取り上げられます。一介の営業担当者が担当するとは思えない商談の規模であったり、普通なら社内リソースの都合から諦めてしまうようなビジネスを形にしたり、長年努力を積み重ねて取引額の小さかった顧客を超大口顧客に育てたりと、どのように進めていったかというよりもどれだけ華々しい事例なのかが強調されています。
このような成功事例共有会や表彰式では、エピソードや人物にスポットライトが当たるのでモチベーションアップには有効ではありますが、「成功物語の共有どまり」になってしまい、なかなか成功事例を他のメンバーに再現させることにはなりません。
とは言え、成功物語の共有以外のやり方で成功事例を社内に展開し、模倣・再現できている営業組織ももちろんあります。その組織とはこの数年間、成功事例の展開・再現のお手伝いをしていますので、そのエッセンスを簡単にご紹介したいと思います。
社内への展開・再現のポイントは「成功事例のモデル化」
その組織(A社)がやっていることを一言で言うならば「成功事例の徹底したモデル化」です。
A社では四半期ごとに各マネージャーがそれまでの3か月間の取組結果の報告と、それからの3か月間の取組計画を発表します。その中で目覚ましい、かつ組織全体に展開したい事例を本社営業企画メンバーが慎重に選定し、何が成功要因でありこの事例のエッセンスなのかをインタビューし、成功事例における考え方や業務、データなどの流れを構造的に整理していきます。このように複雑な事象をシンプルかつ構造的に整理することを「モデル化」と言います。
「モデル化」と言うと、取っつきにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、モデル化されたものを私たちは日々目にしています。業務やデータの流れを整理したフローチャートもモデルですし、中学や高校で見た分子構造の模型や、電気回路図も、数学の公式もモデルです。もっとさかのぼって、小学生の頃に教わった「距離」と「時間」と「速さ」を求めるための図(私の学校では「『き(距離)』の下で『は(速さ)』『じ(時間)』をかく」と習いました)も立派なモデルです。こういったモデルがあることで、実態を簡潔に理解することができ、それぞれの問題に合わせて計算問題を解いたりすることができるようになるのです。
モデル化の説明が長くなりましたので、このあたりで話をA社に戻します。成功事例をモデル化したら、それを他のメンバーが再現できるように営業ツールやマネジメントツールに反映します。そしてツールが与えられっぱなしにならないように、それらのツールの使い方を研修で教えたり、普段使っている業務マニュアルに追加したりする。このような取組を四半期ごとに行うことで日々現場で生まれている成功事例を、組織の中で展開・再現できるようにしているのです。
スポーツ界でも実証済みの「モデル化」による指導
A社のように、属人化・物語化してしまいがちな成功事例をシンプルかつ構造的に整理する、という手法は営業組織以外でも広がってきています。その代表的な事例が、スポーツ界における「クーバー・コーチング」です。
スポーツ界でも名プレーヤーの技をいかに若手選手に教えるかがポイントらしいのですが、名選手と呼ばれる人のプレーを見ているだけではなかなか身に付けられないもの。ゴルフでもテニスでも筋トレでも、インストラクターに指導してもらうというのが上達への近道です。
その指導の仕方として、一流プレーヤーの動きを細かく分解してモデル化し、それを1つずつ身に付けるようにしようというのがクーバー・コーチングの土台となる「クーバー・メソッド」です。この手法はオランダの元プロサッカー選手で、アヤックスやフェイエノールトなどのビッグクラブの監督を務めたウィール・クーバーが1970年代に開発したもの。今ではFIFA公認の練習方法として今では世界30か国以上でクーバー・コーチングを使った指導が行われています。
「モデル化」が学習に大事なのはスポーツも営業も同じ
一流プレーヤーの技を学ぶクーバー・コーチングでも、社内の成功事例を学ぶことでも、大事なのはプレーや事例のエッセンスを分解してモデル化し、体系的・構造的に整理するということ。このモデル化という大事な役割がないと、いかに模倣しようとしても学習して身に付けるには至らない、というのはスポーツでも営業でも同じことのようです。
もし、あなたの営業のモデル化にお悩みの際は・・・
ぜひ、トライツコンサルティングにご相談ください。いろいろな事例を元にお話しができると思います。