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昨年度の流行語大賞で「忖度」が選ばれました。「他人の気持ちをおしはかる」という日本人の持つ良い特性を表した本来の意味とは違って、「権威者におもねり、その意図を汲むこと」というように悪い意味で広まってしまったのは残念なことです。

その悪い意味での「忖度」は、政治や官僚の世界だけでなく、一般のビジネスにおいても珍しいことではありません。組織を円滑に運用するためには必要なことでもあると思います。ただ、そのことが日常化し、真実が見えなくなっているとしたら、それは大きな問題ではないでしょうか。デジタル技術の進化で、いろいろなことがデータに基づいて迅速かつ適切に判断できる世の中になったにも関わらず、多くの営業現場では未だにアナログ的な忖度が行われているのです。

今回のトライツブログでは、「営業マネジメントのデジタル化とExcel」について考えたいと思います。

営業マネジメントに欠かせないExcelというツール

皆さんは営業のマネジメントツールとして、どのようなシステム/ソフトウェアを使っているでしょうか。SFAとしてSalesforceなどのシステムを入れているという営業組織でも、月次や週次の会議ではExcelを使っているというところが多いのではないでしょうか。柔軟に表を作成できて、グラフのデザインも好きなように調整できて、好きな箇所にメモも入れられる。そして何より誰でも簡単に作成・加工できる。マネジメント資料を作るためのツールとして、この便利なExcelなしでは回らないという営業組織もきっと多いことでしょう。

Excelの使い勝手の良さは、柔軟に加工できるところにあります。例えば、売上額などの数字が間違えている場合はその場で簡単に数字を直すことができますし、行を挿入すれば案件の数を簡単に増やすことができます。また、同じような営業活動をしている組織でも、営業マネージャーが変わると見たい数字や強調したい部分が変わってきます。そのようなときに、それぞれの要望に応じて柔軟に修正やカスタマイズができて、かつ見た目もそれらしいものが作れるという点では、Excelに並ぶ営業マネジメントツールは見当たりません。

Excelがかえってマネジメントの邪魔をしている?

しかし、そのようなExcelの使いやすさが仇となってしまっている、という営業組織もとてもよく目にします。

「予算の達成状況を良く見せたいので、案件のランクを『この案件はBじゃないのか?!』と根拠があいまいなまま調整してしまう」
「既存の案件だけでは足りないので、ありもしない架空の案件をとりあえず入力しておく」
などと、営業のマネジメントとして「それで本当に良いのだろうか?」と首をひねってしまうような加工・調整が行われていたりします。

また、「同じデータでも課長と部長と本部長とで見たい数字や好きな体裁が違うので、何種類もの資料を毎月作らないといけない」というように、社内向けの報告のための資料作成が増えてしまい、せっかくデジタル化を進めて仕事を効率化しようとしていたはずなのに、反対に「Excel地獄」とでも言うような資料作りに追い回されていたりします。

本来はExcelというシステムを入れることで、「データに基づいた正確かつ迅速な意思決定」や「資料作成の効率化」といったことを狙っていたはずなのに、現実を反映していないマネジメント資料を作ってしまったり、書類作成の仕事が増えてしまったりしている。しかも、それは誰も悪意をもってやっている訳ではなく、皆「報告がスムーズにいくように」「予算達成に近づいているように見せるために」「誤解されて面倒なことにならないように」と、それぞれ良かれと思ってやっているというのが、柔軟かつ簡単に加工・修正できるExcelの怖いところなのです。

そのように考えると、Excelというのは一見すると表やグラフを作成できて、関数やマクロなどを使ってロジカルに資料作成できるデジタルツールのように見えるのですが、その実は人の手で好きなように調整・忖度することができる、非常にアナログで、つい「忖度」させてしまうツールだと言えるでしょう。

改めて「営業マネジメントのデジタル化」を考える

ここで、「デジタル」と「アナログ」という言葉について、少し考えてみたいと思います。

一般にアナログとデジタルの違いは、値が連続しているかそうでないかで定義されます。例えば、時計板を時針・分針・秒針が回るタイプの時計をアナログ時計と言いますし、デジタル時計は液晶などにその時の時間が表示されているタイプの時計のことを言います。私が子どもの頃に使っていた水銀の体温計はアナログですし、今主流の電子体温計はデジタルです。

しかし、営業マネジメントにおけるアナログとデジタルは、別の意味で使われています。例えば、最近はあまり見なくなりましたが壁に個人別や部署別に分けられた紙を貼り、商談プロセスや受注件数、金額に応じてシールを貼っていくと言うのは、いわゆるアナログな営業マネジメントだと言えるでしょう。それが、Excelで表にまとめられていくようになると、デジタル化したということになりますが、その数字を個人の判断や解釈で好きなように調整できるという意味ではまだまだアナログ的です。さらにそこから一歩先に進んで、毎回の商談報告をSFAで入力し、それを自動で集計して受注件数や受注金額、案件のランクといった指標をレポート表示するとなると人による作業や解釈が排除されるので、よりデジタル化されているということになります。

つまり、営業マネジメントにおけるアナログとデジタルは、時計や体温計のように「アナログかデジタルか」という二者択一なものではないということです。人間による非連続な作業が行われている限り、仮にそのデータがデジタルデータ化されていても、アナログ寄りであり、逆に現場からトップまで同じデータを見ていて、その間でデータを加工する作業や解釈といった人による処理が少なくなって、そのデータに基づき白黒はっきりさせというようになるほど、デジタル寄りになっているというように連続した段階的なものなのです。

営業マネジメントのデジタル化の要諦は「構造化」にあり

ちなみに営業マジメントをデジタル化するメリットは、スピードとわかりやすさ、そして分析によって次につながる情報が得られやすくなるというところにあります。いちいち全ての報告書を読まなくても、一目瞭然で状況を掴めるとか、分析によって成功要因を導き出したりするのはデジタル化することによる恩恵でしょう。

これは単に新しいパソコンやSFA、スマホなどと導入すれば実現できるというものではなく、「構造化」がポイントになると私は考えます。

構造化の1つ目の条件は、営業活動が体系的に整理され、それに基づくデータ設計によってマネジメントシートに出てくるデータがローデータから集約されるつながった構造になっているということです。このようになっていると、集計表の数字だけをちょいちょいっといじって加工・調整するのは難しくなるので、どうしても実際に商談報告などで入力されたローデータに基づいて状況を見ることになります。

そして、構造化の2つ目の条件は、マネージャーが見たい指標がローデータを入力する場面から独立した項目になっている、ということです。せっかくSFAで商談報告を入力できるようにしていても、テキスト欄だけで自由に記述できる形式では、マネジメントシート上で集計するのは困難です。「商談対象者の立場」や「顧客の購買プロセスの進捗度合」など、自社のマネジメントで大事な指標を決めて、それを選択肢形式で入力できるようになっていてはじめて、マネジメントシート上で集計できる構造になります。そのため、組織として大事なマネジメントの指標を定めて、各マネージャーが合意するということがとても重要になるのです。

このように構造化することではじめて、営業マネジメントのデジタル化度合が高まり、本来の目的である「現実のデータに基づいた意思決定」や、マネージャー同士のマネジメントの観点が揃うことによる「資料作成の効率化」が実現できるようになります。

ただ、それを進めてしまうと、これまで日常的に行われてきた「忖度」ができなくなるという問題が起こってしまいます。

デジタル化を進める上で問われる「現実のデータと向き合う勇気」

SFAやそれと連携して動くBIツールなど、営業のマネジメントに使える様々なデジタルツールが世の中に出てきています。これらのツールは先に述べた2つの意味で構造化されているので、うまく活用すれば営業マネジメントのデジタル化を大きく後押ししてくれることでしょう。しかし、そのようにデジタル化するということは、同時に今までの人の手による調整や加工による「忖度」ができなくなり、誰もが否が応でも現実のデータを観なければならないということになるのです。

映画「マトリックス」の冒頭で印象的なシーンがあります。キアヌ・リーブスが演じる主人公のネオは、モーフィアスから赤と青の2つのカプセルを渡され、どちらかを飲むように指示されます。赤いカプセルを飲むと真実の世界を見ることができ、青いカプセルを飲むとこのまま仮想世界に戻れる。そこでネオは意を決して赤いカプセルを飲み、真実の世界へと入っていきます。

営業マネジメントのデジタル化も、マトリックスの赤いカプセルと同じように現実の世界を見て現実のデータをマネジメントするためのツールです。そこで大事なのは、現実のデータだけを見てマネジメントすると心に決めること、そしてそのために営業にまつわるデータを構造化することです。営業担当者にとっても営業マネージャーにとっても現実のデータは都合の良いものばかりではありませんし、目をそむけたくなるデータもたくさんあることでしょう。しかし、営業マネジメントのデジタル化を進めるためには、それぞれが赤いカプセルを飲む勇気が必要になってくるのだと私は思うのです。