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拡張現実(AR)や、iPhoneなどに搭載されている対話型の音声アシスタントSiriなど、アラフォーの筆者にとって子どものころ夢物語だったものが現実のものになっています。特に人工知能(AI)の進化は目覚ましく、囲碁で世界トップクラスの棋士に勝利したり、店舗で接客するロボットが登場したりと、まるで子どものころに想像していた未来の世界に迷い込んだようです。そして、「AI」は今年の流行語大賞の候補にも選ばれており、一大ブームとなっています。
今回のトライツブログでは、このAIができることとできないことをもとに、営業マネージャーの仕事について考えてみたいと思います。
「パターン処理」には優れているが、「読解」は弱いAI
最近ニュースでAIに関する記事がいくつか出てきています。国立情報学研究所が進めている「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」プロジェクトでは、センター試験模試5科目8教科で偏差値57を取れるようになりましたし、慶応大学が開発した人工知能では、医師国家試験への正答率が55%にまで高まったそうです。
このように進化が目覚ましいAIですが、最近「東ロボが東大合格を断念した」というニュースが流れました。この東ロボAIは、数学や物理などの問題のパターンが明確になっていて、あとはそれを認識して処理(計算)すれば答えを出せる設問の配分が高い科目では高得点を叩き出せるそうです。ところが、現在のAIでは文章を読み解くということができません。そのため、国語や英語では漢字や穴埋め、和訳などといったパターン処理型の問題は解けるものの、長文読解など問題文を読み解く必要のある設問での成績が伸び悩んでおり、そのために断念することになったそうなのです。
このニュースから、テストの問題に答えるといった知的作業には「パターン処理」と「読解」の2つのやり方があり、現時点でのAIはそのうちのパターン処理とは相性が良いものの、読解は苦手としている、ということが言えそうです。
営業マネジメントにも「パターン処理」と「読解」の2つがある
この「パターン処理」と「読解」は営業の世界でも当たり前に行われています。例えば、顧客の要望や課題をヒアリングするときも、ちゃんと相手の背景や意図といった文脈を「読解」するヒアリングもあれば、自社の商品・サービスに関連するキーワードを「パターン処理」するヒアリングもあるでしょう。提案書でも、文脈を考えて作られたものもあれば、決められたパターンを組み合わせて作られているものもあります。
そして、営業会議などのマネジメントの場も「パターン処理」と「読解」の2つのやり方があります。
これまでの経験値から、「そのキーワードが出たら、商品Aを提案する」とか「提案の場に顧客の管理職がいない、ということは受注の確度が低い」などと、商談情報の中からキーワードやポイントを拾って判断したり、次の行動のアドバイスを伝えたりするのが「パターン処理」です。それとは別に、商談の推移やそこでの会話をメンバーから聞き出しながら商談の文脈を読み解いていき、現状どうなっていて次に何をすれば良いかを組み立てるのが「読解」です。
「パターン処理」と「読解」の両方が営業マネージャーの仕事には大事
ここで確認しておきたいのは、「パターン処理」も「読解」もどちらも大事だということです。
営業会議のようにたくさんの商談を短時間で確認しなければならない場面では、効率的に進められる「パターン処理」がないととても時間が足りません。部下としても、これまでの経験に裏打ちされたアドバイスがスピーディにもらえるのは、ありがたいことです。
パターン処理の質向上のためには「読解」が欠かせない!
しかし、その一方で「読解」も大事です。時間はかかってしまいますが、商談の中身について深く理解することができるので、ジャストフィットな打ち手を考えられる可能性が高まります。加えて、パターン処理のためのパターンそのものを発見するためには、大量の情報をインプットしその間の関連性や構造を推定していく読解という作業が不可欠です。
例えば、クレジットカードやローンなどの融資商品でも、読解によってパターンを作るということがやられています。与信するかどうかを判断するための分析ロジック(パターン)を各社は持っており、申し込み情報のうち分析ロジックに必要なデータだけを選んでOKにするかNGにするかを判断します。しかし、NGと判定された申し込みのうち数%については、与信枠を低く抑えてOKにし、実際の利用状況を継続追跡しています。すると、その中には意外と良い顧客が含まれていることがあるので、そのデータをもとに定期的に分析ロジックを見直して質を高めていくのです。
これと同じように、営業マネジメントでのパターン処理の質を高めるためには、読解という作業が必要です。一度作ったパターンがずっとそのまま使えればよいのですが、技術の進化やグローバル化、法規制の変化などによって顧客や競合企業が変化すると、以前作ったパターンではうまく処理できなくなってしまいます。市場が変化しているときには、今使っているパターンが本当に有効なのかの確かめ、よりよいパターンを生み出すためにも読解が欠かせません。
このように読解という作業は、個別案件への対策の成功率を高めるためにも、またパターン処理の質を維持・向上させるためにも、大事なものなのです。
「パターン処理」はAIに任せて、人間が得意な仕事で自分の付加価値を高めよう!
これからもAIの進化は続くことでしょうし、それはB2B営業の分野でも変わりません。SFAソフトの大手企業Salesforce社は、EinsteinというAIを開発し、この9月に第一弾をリリースしました。このEinsteinは商談情報から商談の予測分析を行い、最適なアクションを提案してくれるという「パターン処理」の機能を持っています。
これから、営業マネージャーの知的作業のうち「パターン処理」は今後AIの独壇場になり、AIが処理しやすいデータを集めて渡すことが人間の役割になるかもしれません。その一方で「読解」のような人間の方が得意とする作業は、依然として営業マネージャーの仕事であり続けることでしょう。
このニュースをお読みになって、営業マネージャーの皆さんはどのように感じられたでしょうか?
「自分の仕事が全部AI任せになるということはなさそうだ。一安心だ」と思われた方も、「最近パターン処理しかやっていないな。どうしよう、AIにデータを渡す係になるのか・・・」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
商談の文脈を読み取って、環境の変化に合わせたパターンを再構成する。そのような、AIにはなかなか手が出せない「読解」という知的作業をやっているかどうか。これを機会に自分の仕事について振り返ってみてはいかがでしょう。
それによってAIがあなたの味方となるか、敵となってしまうのかが決まってくるのだと思います。