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フォローの電話をかけようとして、「お忙しいのに迷惑かな」と受話器を置く部下。商談でお客さんが「いいですね、でも今は……」と尻込みすると、「ですよね、タイミングは大事ですよね」と一緒に引き下がる若手メンバー。  

マネージャーの皆さんの現場でも、こんな場面を見かけることはないでしょうか。  

一見すると、彼らの行動は「お客様への配慮」に見えます。しかし、彼らが本当に守っているのは誰でしょうか。「しつこいと思われたくない」「断られて傷つきたくない」といった「わが身可愛さ」が、誠実さの皮をかぶって現場に蔓延していないでしょうか。 

これは彼らの性格の欠陥ではなく、営業現場で昔からよくある「マインドセット」のつまずきです。米国で最近刊行されたジェブ・ブラント氏とテイラー・ウェルチ氏の営業書を紐解きながら、マネージャーとして彼らの視点をどう引き上げるべきか、一緒に見ていきましょう。 

その「迷惑かも」は誰の気持ちか? 

まず、若手によくある「迷惑では……」とフォローの手が止まる現象について。ジェブ・ブラント氏はこの恐れを「投影」と呼びます。若手は自分の不安をお客さんに映し出し、「相手も自分の電話を迷惑がっているはずだ」と思い込んでいるに過ぎないというのです。 

実際には、お客さんは彼らが恐れるほど迷惑には思っていません。お客さんが本当に苛立つのは、連絡の「頻度」ではなく「関連性のなさ」です。「また来たか」ではなく、「自分に関係のない話を、なぜ何度も送ってくるのか」に苛立つのです。 

同書には、マネージャーとしても見過ごせないデータが示されています。 

  • お客さんから反応があるまでには、平均して11回の接点が必要になる 
  • しかし、大半の営業はわずか2回で諦めてしまう 

つまり「迷惑になる前にやめておこう」という部下の自己完結した撤退は、ようやく芽が出る3回目以降のチャンスを自らの手で捨てている状態です。 

マネージャーが指導すべきは、送る前の自問を変えさせることです。「迷惑じゃないか」ではなく、「このフォローは、相手のためになっているか」を問わせてください。相手のためと言い切れるなら堂々と接点を重ねさせ、言い切れないなら、やめさせるのではなく「中身」を考え直すよう導くのです。 

お客さんの中には「2人のお客さん」がいる 

次に、商談で一緒になって尻込みしてしまう癖についてです。これにはテイラー・ウェルチ氏の「営業のルール」がヒントになります。 

  • 営業の唯一の仕事は、お客さんが「自分にとって最善の決断」をするのを助けること 
  • その最善は、たいていお客さんの「コンフォートゾーン(居心地のいい範囲)」の外にある 
  • でも、お客さんはその内側に留まりたがる 

その上で氏は、お客さんの中には「2人のお客さん」がいると指摘します。望みを叶えて生き生きと働いている「未来の姿」と、現状に行き詰まって不安な「いまの姿」です。 

若手が「いいですね、でも今は……」という声に同調して引き下がるのは、寄り添っているようでいて、実はお客さんをコンフォートゾーンに閉じ込めるお手伝いをしています。そして、その背中を押しているのも、やはり「嫌われたくない」というわが身可愛さなのです。 

寄り添う相手を「未来のお客さん」へ切り替えさせる 

若手メンバーに「寄り添うな」と指導する必要はありません。寄り添う相手を、「いまの不安」から「望みを叶えた未来のお客さん」へ切り替えるよう促すのです。 

これは子どもの自転車練習と同じです。「転ぶのが怖い」という気持ちにだけ寄り添えば、補助輪は一生外せません。親が手を離せるのは、「乗れるようになった未来の姿」に寄り添っているからです。 

部下とのロープレなどで、こんな切り返しを教えてみてはいかがでしょうか。 

【改善前の若手営業】 

お客さん:「いいと思うんですけど、今のやり方を変えるとなると、現場がついてこられるかどうか……」 

若手:「(嫌われたくないし……)ですよね。落ち着いたころに、またご連絡します」 

結果:自分を守るための撤退。「いまの不安」に寄り添ってしまっている。 

【改善後のアプローチ】 

お客さん:「現場がついてこられるかどうか……」 

若手:「変えるのは大変ですよね。ちなみにその大変さを乗り越えて、この業務が半分になったら、1年後のチームはどうなっていそうですか? 

お客さん:「そうですね……若手がもっと提案に時間を使えているはずです」 

若手:「それってすごいことじゃないですか。大変だとは思いませんが、乗り越えるための方法を一緒に考えてみませんか?」 

結果:この瞬間、若手は「未来のお客さん」の隣に立ち、背中を押している。 

ただし、ひとつ注意点があります。ここで描く「未来」は、お客さんが本当に望む未来であり、自社の売上目標のすり替えであってはなりません。 

「わが身可愛さ」に気づかせ、本物の誠実さを育む 

「自分を守っていたのかもしれない」と部下自身に気づかせることは、彼らを否定することではありません。そこに気づかないまま「お客様への配慮」という言葉に逃げ込ませてしまうことこそ、彼らの成長の機会を奪うことになります。 

  • フォローの基準を「自分のため」から「相手のため」へ。 
  • 寄り添う相手を「いまの不安」から「未来のお客さん」へ。 

この2つのマインドセットは、才能や経験に関係なく、今日の指導から変えていくことができます。 

明日の1on1やミーティングで、部下たちが「お客さんの1年後を一緒に見る質問」を持てるよう、背中を押してみてはいかがでしょうか。補助輪を外したあの日のように、マネージャーのその一言が、若手の「遠慮」を本物の誠実さに変えてくれるはずです。 

参考: 
「Winning at Sales: How to Get So Good People Say “Thank You” for Letting Them Buy」(Taylor A. Welch, 2025) 
「90 Days to Level Up Your Sales Skills」(Jeb Blount, 2026)