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これまで本ブログではWeb等の活用により顧客が自ら情報を収集し、購買活動を進めるようになってきているとお伝えしてきました。これは商談の主導権が営業側から顧客側に移行してきていることを意味します。そうなると営業担当者は購買プロセスの途中から参加せざるを得ず、それまでは自分が参加するまでに顧客がどのような活動をしているかがわからないという『購買のブラックボックス化』が生じています。 

この購買のブラックボックス化についての衝撃的なデータが最近発表されました。営業が知りえないところで顧客はどのように購買プロセスを進めていて、どのような場面/状況で営業担当者に声を掛けているのか。早速見ていきましょう。 

B2B顧客の衝撃の購買体験を告げる6sense Insights社の最新レポート 

今回ご紹介するのは2024年の年明け早々に発表されたB2B購買担当者による購買体験調査「The 2023 B2B Buyer Experience Report」。これは6sense Insights社が900名以上のB2B購買担当者に対し、直近2年間での購買体験について質問したアンケート調査。また厳密を期すために、全米有数の調査会社Sirius Decisionsのリサーチチームによって分析・精査されており、この手のレポートにしては珍しく詳細な設問やそれに対してどのような統計処理を施してどのような数値が出たのかまで克明に記載されています。 

それでは、顧客が自ら購買プロセスを進める中で、どの段階で営業担当者にコンタクトを取るかについてのデータから見ていきましょう。 

データ①購買プロセスの70%に至るまでは営業は顧客に会えない 

顧客の購買グループが購買プロセスの 70% を完了するまで、購買担当者は営業担当者と接点を持てない。購買期間が長い場合でも短い場合でも、この70%という位置は変わらない。

購買プロセスの70%に至る前に営業担当者が購買グループにアプローチしても、顧客から連絡が来る時期は早まらない。

ただし、70%より前に営業担当者が購買グループにアプローチした場合、その企業との取引が成立する可能性は下がる。

この「購買プロセスの70%」とは、期間の長さというよりも購買活動全体のうちの工程における70%ということですが、回答者によってその捉え方も必要なプロセスも異なるため、あくまでも感覚的なものだとご理解ください。それにしても登山でいうと7合目まで登ったその先から、正月に実施されている箱根駅伝でいうと往路を終えて2日目の復路の平塚中継所からゴールの大手町までの3区間だけを、営業担当者は顧客と伴走できる。逆にいうとそれまでの大半の購買プロセスは我々の知らないところで進んでいる、と言うことなのです。 

ちなみに、この手の調査として以前には「売り手企業が顧客と接点を持つ前に、顧客は購買プロセスの平均57%までを独自に進めている」(Gartner社)というものがありましたので、より顧客が営業担当者に頼らずに自走する割合が伸びているようです。 

そして、上記のデータで衝撃的なのが、営業担当者がいかに顧客をせっついたところで、顧客と伴走できるタイミングが早まることはなく、逆に取引が成立する可能性を下げてしまうということ。ちなみに6Sense Insights社がレポートの内容を要約した記事を2024年1月8日に発表しているのですが、そのタイトルは「Don’t Call Us, We’ll Call You」(こっちから連絡するまで、連絡してこないで)。まだ準備ができていない、つまり購買プロセスの70%にまで至っていない顧客を無理やり商談化しようとするのは逆効果だというのです。 

データ②顧客が営業に連絡する時点で勝敗は既に決している 

また、もう1つ衝撃的なデータがありますので、続けてご紹介します。 

購買グループは平均して4社の企業に連絡するが、84%の確率で最初に連絡をした企業から購入する。

これはつまり、顧客が営業担当者に連絡するまでの70%の間でどの企業から購入するかはほぼ決まってしまっている、ということ。顧客から連絡をもらったはいいものの自分たちが2番手以降の場合、1番手の企業をひっくり返して受注できる確率はたったの16%。6~7つの商談のうち1件程度しか受注できないということなのです。 

「うちの業界はまだここまで進んでいない」と思い続けるリスク 

これらのデータを見てどう思われましたでしょうか。「確かに今の顧客はよく情報収集しているし、顧客が主導権を握っている感じがするなぁ」と思われる方もいれば、「これは海外のデータでしょ。うちの業界の顧客はまだまだ自分たち営業に頼ってくれているし、営業主導で購買が進んでいるよ」という方もいらっしゃることでしょう。ただ、注意していただきたいのは、「うちの業界はまだここまで進んでない」は未来永劫続くわけではない、ということです。 

色々な業界の方からそれぞれの顧客の購買活動の変化について聞いていると、先進的な業界や顧客ほど購買活動の合理化が進んでいて、顧客が主体的に情報収集してソリューションの選定を行っています。そのため、「まだここまで進んでいない」企業や業界であっても、業務を合理化するプレッシャーが高まったり、Webで情報収集から購買まで進めることに慣れている若い世代が購買グループで主要な地位を占めるようになったりし、顧客が購買の主導権を握るようになってしまう流れは確実に始まっています。 

その際に、「うちの業界はまだここまで進んでいない」と思っている営業組織は、顧客のこのような変化はまさに「ブラックボックス化」して見えなくなっています。そのため、「うちの業界はまだここまで進んでいない」はずだと信じ続けながら、少しずつその数が減っていく「まだここまで進んでいない」企業としかお付き合いできなくなってしまうリスクがあるのです。 

ブラックボックス化する顧客への打ち手①購買プロセスの早い段階では情報発信/学習支援に徹する 

6sense Insights社のデータはB2B営業としてやるべきことを明確に示してくれています。 

その1つは、顧客が独自に購買プロセスを進める「70%以前」の段階では、商談化しようとしつこく追い掛け回すのではなく、顧客が必要な情報を手に入れられたり、ソリューションの選び方や使い方について学べるような情報発信/学習支援のスタンスに徹するということです。これについて、レポートの後段で以下のようなまとめがあります。 

営業担当者は顧客の購買プロセスの早い段階から関与しようとする努力を惜しんではなりません。この関与には以下が含まれます。 
– 学習を促進するコンテンツ(訳注:ブログやホワイトペーパー、ポッドキャストなど) 
– 専門家による1対1の相談対応 
– 顧客と同じ業界・業種の実務担当者によるコミュニティ 
– セミナーや展示会などの教育的なイベント  

これらは、顧客が営業担当者との初回コンタクトとなる「70%」のずっと前に行われるべきです。この段階からの教育的な関与によって、顧客を自社のソリューションに引き付け、競合を排除できるようになるのです。  

ブラックボックス化する顧客への打ち手②顧客から連絡が来たら自社の位置づけを確認し対応方針を明確にする 

そして2つめにやることは、顧客から連絡が来たときは自社の位置づけ、つまり連絡された順番を確認し、どのように対応するかの方針を明確にすることです。70%以前の情報発信/学習支援が功を奏し、幸いにして1番手になっていればよいのですが、2番手以降の場合は今後挽回の可能性がありそうかどうかを見極めて、16%の可能性を狙いにいくのか、手間をかけずに省エネで失礼のないように対応するのかを判断しなければなりません。 

ブラックボックス化する顧客への打ち手③1番手でも油断せずに顧客の「現状維持」と「優柔不断」に対処する 

とはいえ、1番手だったとしても油断はできません。ご紹介したレポートの対象者は冒頭でご紹介したように「直近2年間で購買体験をしたことのある購買担当者」。つまり、購買プロセスを進めていたが途中で断念した顧客、購買を決め切れなかった顧客は含まれていないのです。 

2つ前のブログ海外で話題の営業本『ジョルト・エフェクト』から学ぶ!優柔不断な顧客を支援する『4つの処方箋』」でご紹介したように、顧客が無事に購買を実現するためには、変化しないことを選択する「現状維持」と、変化することは決めたものの購買を決め切れない「優柔不断」という2つのハードルを乗り越えなければなりません。 

そのため、1番手であったとしても顧客が現状維持に戻ってしまわないように、変化しないことによるリスクやコストを示して顧客の関係者内で合意を得る手助けをしたり、優柔不断に陥らないように投資対効果を示したり失敗によるリスクをできる限り低減するなどし、顧客の購買プロセスを後押ししてあげる必要があるのです。 

ブラックボックス化が進む顧客への取組をセミナーでご紹介します 

今回ご紹介した6sense Insights社のレポートは、顧客がより主体的に購買プロセスを進めるようになり、購買のブラックボックス化がさらに進んでいることを示しています。3月6日に開催する弊社セミナー「ハイテク&ハイタッチの営業力強化 ~ ブラックボックス化する顧客と向き合うには ~」では、そのような顧客に寄り添って購買活動を支援する営業になるための取組について、具体的な事例などを交えながらご紹介します。ご興味ある方はぜひご参加ください。 

参考: 
The 2023 B2B Buyer Experience Report」(6Sense Insights, Inc., January 2024 
Don’t Call Us, We’ll Call You: What ‌Research Says About When B2B Buyers Reach Out to Sellers」(6Sense Insights, Inc., January 8, 2024