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先月(2023年11月15日)開催しました弊社セミナー『デジタル営業時代の新コンセプト:顧客中心営業で成長し続ける営業組織をつくる』では、顧客がWebなどを活用して自ら情報を集めて購買プロセスを主導するようになった現在の営業に求められる役割やスタンスについてお話しました。 

その中でも特に大事なのが、顧客が主体的に進めている購買プロセスに参画してそれを支援するという役割です。そこで今回は、この「顧客の購買プロセスへの参画・支援」が具体的にどういうものなのか、もう少し深く考えてみたいと思います。「時間や手間をかけて商談をフォローしているのに顧客が購買になかなか踏み切らない」「ホットな見込客に出会えない」という方には必見の内容です。ぜひお読みください。 

アメリカで最高の営業講演者が語る「現代の営業に求められるコンサルティングスキル」とは 

今回ご紹介するのは昨年発売された「Elite Sales Strategies」という海外の営業本。著者のアンソニー・イアナリーノ氏はこれまでに6冊の書籍を出していますが、いずれも未邦訳。しかしながら、Selling Power誌で「アメリカで最高の営業講演者 2023」を受賞するなど、カンファレンスやセミナーでの講演者としても有名な方です。ちなみに、去年から今年にかけてアメリカで開催された3つのカンファレンスに参加してきましたが、そのうちの2つに登壇していましたので「最高の営業講演者」は確かに伊達ではなさそうです。 

そんなイアナリーノ氏は同著で、顧客の購買を支援する現代の営業にはコンサルティング的なスキルが求められていることを再三にわたって触れています。中でもよくまとまっているのがこの部分です。 

商談においては2種類の問題を区別する必要があります。 
一つは、人手不足や物流の非効率、コミュニケーション不足、従業員のモチベーションの低下といった、あなたが解決できる現実的な問題です。2つめは、企業が自ら購買行動自体に変化をおこし、成果を向上させることを阻害している、根深い問題です。(中略) 

あなたの見込客はたまにしか購買行動を変化させないため、どのように決断するのがベストなのか、どのような要素を考慮する必要があるのか、どのようなステップが必要なのか、どのような選択が彼らに最も役立つのかなどの専門知識を持っていません。これらについてより多くの経験や知識を持っているあなたこそが、顧客の購買プロセスを前に進めなければならないのです。

この購買行動の変化には、DXなどの今まで取り組んだことのない新しい施策に取り組むための購買だけでなく、長い間同じ企業から購買していたのを見直すことも含まれます。つまり、同じ企業から同じ商品を継続して購買する以外の購買をするためには、大なり小なりの変化を顧客が決意する必要があるということです。 

顧客が問題を抱えているのは、顧客が自分ではその問題を解決できてこなかったから 

従来のソリューション営業では、顧客が問題をはっきりと理解し、それを解決するための打ち手に納得しさえすれば購買は成立するものだという暗黙の前提がありました。そのために、課題を引き出して具体化するヒアリングや、打ち手の有効性を実証するための投資対効果のシミュレーションなどが提案づくりの中で重視されていたように思います。 

しかし、イアナリーノ氏は、顧客が現在問題を抱えているのは、顧客自らでは変化を起こせずにその問題を解決できていないからであり、顧客に変化の必要性を理解させてそれに取り組ませることこそが現代の営業の大事な役割だと考えています。つまり、「見込客がホットじゃないから対応しない」のではなく、「見込客をホットにするところも営業担当者の仕事だ」ということです。 

購買プロセスは「変化の必要性を理解・合意」することから始まる 

そのため、同氏が考える顧客の購買プロセスは、その変化の必要性を理解させることから始まります。 

1. 購買行動の変化の必要性に無自覚

2. 購買行動の変化の必要性に直面

3. 購買行動の変化の必要性を理解・合意

4. 選択肢を探求

5. 自社について再発見

6. 購買手続の推進

7. 購買/投資

8. 進化の継続

8つのプロセスのうち3つを「購買行動の変化の必要性」に充てていることから、いかにこれを重要視しているかがうかがえます。 

最初のプロセス「購買行動の変化の必要性に無自覚」はいわば初期状態。業界全体やその企業の中で問題が発生しているものの、多くの人はそれに気づいておらず、組織として問題だと認識していない状態のことです。 

そこから2番目の「購買行動の変化の必要性に直面」となります。この状態では、組織の中で問題が発生しており何か手を講じなければならないとは思っているものの、購買行動を変えることについて組織内で合意が得られてはいません。 

その後、関係者が実態を理解し、購買行動を変えなければならないことについて合意が得られてようやく3番目の「購買行動の変化の必要性を理解・合意」へと進み、4番目の「選択肢を探求」という私たちがイメージする典型的な購買活動がスタートすることになります。3番目の「購買行動の変化の必要性を理解・合意」するところまで顧客を誘導するのが、顧客中心営業の時代に求められるコンサルティング的なスキルなのです。 

変化の必要性を理解・合意させるための2つのアクション 

同著ではこの購買行動の変化の必要性を理解・合意させるために、営業担当者として2つのアクションが必要だとしています。 

1. 否定的な結果の確信: 顧客が現状を維持すれば、否定的な結果(損失)を被ることを明確にする必要があります。

2. 肯定的な結果の確信:肯定的な結果(成果)を得るための決断を下す方法について、確信が持てるよう支援します。

この2つのアクションによって、顧客は購買行動の変化の必要性を理解・合意できるようになるとのこと。カウンセリングの一種である動機付け面接技法でも、現状維持によって起こる損失を具体化してから変化によって得られる成果をイメージさせる、という手順を踏みますので理にかなった方法だと思います。 

「顧客の購買活動を開始させる=変化への第一歩を踏み出させる」のが営業の責任 

これまでの顧客中心営業では、「顧客の購買プロセスへの参画・支援」について、顧客の中で購買について検討しようとしている状態からスタートし、どのような手順でサプライヤーを選定し社内で起案・承認決裁を得るかという購買プロセスや、そこに関わる購買関係者を把握することに重きが置かれていたように思います。 

それに対して、イアナリーノ氏の著書では、顧客の中で購買行動を見直そうという状態に勝手になることはまずなく、顧客がそう思う、つまり購買行動の変化の必要性について組織として理解・合意するところから営業担当者が関わらなければならないとなっています。この「購買活動の開始 = 変化への取組の第一歩」という考え方と、それに対して営業担当者が責任を負わなければならないという部分が、顧客中心営業において非常に重要なポイントだと思うのです。 

商談中の見込客や既存顧客から「変化への第一歩」を踏み出したストーリーを聞いてみよう 

このように考えると、実は私たちが今商談を進めている見込客や、既存顧客は「変化への取組の第一歩」のさらに先を進んでいることになります。そのような企業から「何がきっかけで購買行動を変えようということになったのか」「それに対する反対意見としてどんなものがあったのか」「誰がどのようにその反対意見を解消したのか」というストーリーを聞くことで、これから出会う購買活動をスタートさせていない見込客に対して、変化への取組の第一歩の踏み出し方を助言できるのではないかと思うのです。 

これからもトライツは顧客中心営業についての最新の情報を発信します 

顧客が中心となって購買プロセスを進める顧客中心営業の現代において、営業担当者としてどのような役割が求められ、どのようにかかれば顧客の購買を効果的に後押しできるのか。具体的に論じられた記事や書籍はまだ多くありません。トライツとしても日々実践・検証しながら、今回のような新しい知見を並行して調査・分析し、新たな発見を皆さんに引き続きご紹介していきます。どうぞご期待ください。 

参考:「Elite Sales Strategies」(Anthony Iannarino, John Wiley & Sons, Inc., 2022)