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このトライツブログでは、ここ数年の間に起きた顧客の購買活動の変化として、Webなどを活用して顧客が自ら購買プロセスを進めていく「購買のWeb化/デジタル化」について注目してきました。また、そのような顧客に対応するための「顧客中心営業」という考え方もいち早くご紹介しています。 

ところが最近、もう1つの見逃せない顧客の購買活動の変化が起こっているようなのです。それを一言で言うならば「信頼に基づく購買」。それがいったいどのようなもので、私たちの営業活動にどんな影響を与えるものなのか、早速見ていきましょう。 

顧客は「信頼できる少数の企業から」購買するようになっている 

「信頼に基づく購買」というトレンドに気づくきっかけとなったのは、CMSWireという20年以上の歴史を誇る顧客体験専門のWeb雑誌の記事「Buying Process in B2B: Measure ‘Share of Search’」でした。この記事の冒頭で、最近の顧客の購買の仕方の変化について、以下のように述べています。 

B2Bの購買では、詳細の機能比較よりも、「信頼」が重要なサプライヤー決定の要因となっています。(中略)

B2B の購買は、広範なリサーチよりも担当者個人のネットワークにますます依存しています。サプライヤー候補リストは通常​​、担当者が覚えている企業と、信用できる人に推薦された 企業1 ~ 2 社とで構成されます。

確かに最近のトライツが支援しているクライアントの商談を思い返してみても、多くの企業を集めてRFP(提案依頼書)を出し、しっかり相見積を取って比較するというタイプの商談が少なくなっているような気がします。もちろん、行政事業などは一般競争入札が令和4年度で6割強と主流ですが、約10年前の平成27年度は約8割でしたので、実は日本の行政事業でも広範な調達活動というのは少しずつ減ってきているようです。 

既存サプライヤーが有利になっている現在のB2B購買 

このCMSWireの記事を裏付けるようなデータを公開しているのが、マーケティングと営業のデジタルツールを開発しているSalesFuel社のブログ記事「Why Sales Reps Can’t Reach Prospects and What They Can Do About It」。この記事の中で、顧客の「信頼に基づく購買化」を示すデータを複数紹介しています。まずは、最初のデータから。 

購買担当者は自分たちの課題を認識すると、46%がすぐに既存のサプライヤーに連絡します。

半数近くの人が既存のサプライヤーに連絡してしまうということは、その企業に入りこめていない場合は、商談のうちの半分は気づくこともできないまま既存の競合に行ってしまうということです。ただ、新規で入り込みたいサプライヤーにとってチャンスはゼロではないと記事では続けています 

購買担当者の38%はオンラインで新たなサプライヤーの情報を調べています。

これで約4割の商談と出会える可能性が出てきました。そして、その際に購買担当者が重視しているのが「信頼」だというのです。では、どのようなデータをもとに信頼可能だと判断しているのか、続けて見ていきましょう。 

新たに商談に参加するために通過必須な顧客の「信頼フィルター」 

購買担当者の48%は「業界経験」を持つサプライヤーの、47%は「SNSでの顧客レビュー」が良好なサプライヤーのコンテンツを探します。 

購買担当者は信頼できるサプライヤーから調達しなければならないというプレッシャーにさらされています。そのため、購買担当者の37%が「業界リーダー」との取引を希望します。 

ただし、小規模なサプライヤーにも可能性が残されています。購買担当者の38%は「信頼できる人から紹介」された営業担当者に相談します。 

購買担当者の23%は、以前に評判の悪い会社に勤めていた営業担当者とは仕事をしません。

このように業界経験や顧客からのクチコミ情報、業界リーダー、知人の紹介といった「信頼フィルター」をくぐり抜けられる企業でないと商談に参加するのが難しくなってきているというのです。 

コロナ禍がきっかけで促進された「信頼に基づく購買化」 

これまで見てきたように「信頼」が購買の判断基準で重要視されるようになったきっかけについて、SalesFuelの記事では以下のように触れています。 

以前の購買担当者は営業担当者を喜んでオフィスに迎え入れていました。しかし、パンデミックによって変化した新しい購買活動によってすべてが変わりました。

この新しい購買活動こそが、Webを使った情報収集であり、既存のネットワークを活用した購買なのです。確かに、ロックダウンやリモート勤務といった状況下では、以前に見聞きしたことのない企業を何社も集めて購買するのは難しかったと思います。このため、コロナ禍が「信頼に基づく購買化」を促進したのは間違いないと思います。 

様々な評価基準を包摂している「信頼」指標 

それ以外にも私個人の見解ではありますが、購買の評価基準が増えすぎたことも「信頼に基づく購買化」の1つの要因ではないかと思っています。 

最近ではQCD(品質、価格、納期)といった従来からの基準だけでなく、環境を大事にしているか、社会に役立つ活動をしているかといったESGという基準でも購買の判断を行う企業が増えつつあります。また、DEI(ダイバーシティ、公平性、包括性)という従業員が生き生きと働ける職場かどうかも、欧米では当たり前に購買の評価基準に含まれるようになっています。 

このように多数の観点からサプライヤーを評価しなければならなくなってきたために、そのすべてを含んでいるであろう指標として、他の企業もそこに発注していて評判が良いか、その結果として業界経験も長く存続して業界リーダーになっているか、もしくは知人が信頼しているかという「信頼」指標を使うようになっているのだと思うのです。 

信頼に基づく購買化した企業への2つのアプローチ 

それでは、「信頼に基づく購買化」している企業に対してどのようなアプローチで営業したらよいのでしょうか。 

まず明確なのは、それが既存顧客だとしたら、一生懸命良い仕事をして顧客の満足度を高め、課題を認識したらすぐに相談される立場を確立・維持しなければならないということです。せっかくの有利な立場をミスや怠慢で失ってしまった場合、それを取り返すのはこれまで以上に大変になっているからです。 

私が好きなコトラーの言葉に「最高の広告は満足した顧客によってもたらされる」と言うものがありますが、既存顧客を満足させ信頼を勝ち取り続けるのがこれまで以上に重要になってきているのだと思います。 

また、既存顧客ではない場合、自社のことをWebで見つけてもらい、信頼を感じてもらえるように打ち出し方や見せ方を工夫しなければなりません。「業界での経験が豊富なことが伝わるか」、「顧客からの評判や声を見つけられるか」、またニッチでもいいので「特定の業界/分野のリーディングカンパニーであることを打ち出しているか」といった観点で自社のWebサイトをチェックするのも、「信頼に基づく購買化」している顧客から選ばれるためには大事なことでしょう。 

自分たちは既存顧客&新規顧客から信頼される存在か 

今回は「購買のWeb化/デジタル化」に次ぐ顧客の大きな変化として、「信頼に基づく購買化」を紹介してきました。そして、日本のB2B購買では明確なデータこそありませんが、体感としてはコロナ禍以降日本でもこの傾向が強まってきているように思えます。 

顧客にとってメリットを感じにくい売り込み中心のメルマガを頻繁に送っていたり、相手の都合を考えず何度もしつこくテレセールスをやっていたり、せっかく自社に興味を持ってもらえたのに、相手の話を聞かずに一方的に売り込むだけだったり、Webサイトの構成や内容、操作方法がわかりにくく、顧客が欲しい情報が得にくかったり・・・日常的な顧客接点の中には顧客からの信頼を損なうものが少なくありません。 

今一度、自分たちは既存顧客から信頼され、一番に課題を相談してもらえているか。新しいサプライヤーを探す顧客が自社のWebサイトを見たり商談を体験したりして、自分たちが信頼できる存在だと思えるか。見直してみてはいかがでしょうか。 

参考: 
Buying Process in B2B: Measure ‘Share of Search’」(Jason Ball, Considered Content Ltd, November 21, 2023 
Why Sales Reps Can’t Reach Prospects and What They Can Do About It」(Kathy Crosett, SalesFuel, Inc., November 15, 2023