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今年(2023年)の3月期から有価証券報告書等での人的資本関連情報の開示が義務化されましたね。その主要6項目の中に「研修時間」や「研修費用」が含まれるなど、組織としての育てる力に注目が集まっています。

育成が重要なのは営業部門においても変わりません。リモート対応やWeb活用など顧客の働き方や購買の仕方が大きく変化している現在こそ、より学びが求められているといっても過言ではないでしょう。

そこで今回は営業研修の設計・運営に役立つ情報をご紹介します。少なくない費用と時間をかけて実施する営業研修で最大限の成果を出すために何が必要なのか、一緒に勉強しましょう。

営業研修のポイント1「業務に即した研修に」

今回ご紹介するのはSales & Marketing Management誌に掲載されている記事「The Sales Training Black Hole」(営業研修の落とし穴)。営業コンサルタントや一流大学のMBA講師、営業人材育成で定評のある企業の営業マネージャーなどに取材し、「せっかく研修で教えた内容が現場で実践されない」などの落とし穴に陥らないための大事なポイントをわかりやすくまとめてくれています。5つのポイントをインタビューでの発言と併せて見ていきましょう。

1. 実際の業務に関連する内容にする

「研修プログラムの設計には、繰り返しと強化が重要です。学んだことをすぐに応用する機会を与え、当日のディスカッション、研修後のフォローアップ、読み返せる資料など、さまざまな形式で強化を広める機会を与えることが重要です」アダム フィナン氏

「最もよくある間違いの 1 つは、営業担当者の日常業務と関連のない、ありきたりなトレーニングに過度に依存することです。営業担当が直面する実態を無視した画一的な資料への依存は、モチベーションの低下につながります。営業研修では、受講者のニーズ、知識レベル、実際の問題点に合わせたカスタマイズが非常に重要です」ポール・ウッド氏

これを一言で言うと、その企業/事業の実態に即した内容を開発・提供し、それについて様々な形式でフォローしましょう、ということ。当たり前ですが大事なポイントですね。

ポイント2&3「KPIを絞り込む」「対話形式で」

では続けて5つのポイントの2番目と3番目を見ていきましょう。

2. 達成したいKPIに焦点を合わせる

「正式なトレーニングのフォローアップとして、トレーニング後 30 日、60 日、90 日後に教えられたスキルが実践されているかどうかを徹底的に評価する必要があります。KPI(主要業績評価指標)を特定し、それに合わせてトレーニングでカバーする内容を絞り込む必要があります」エリカ・シュルツ氏

3. 対話形式(インタラクティブ)にする

「競争の本能を活用する高度にインタラクティブな要素(ロールプレイコンテスト、ゲーミフィケーション)は、受動的な講義よりも受講者の参加度合を高めることができる」ポール・ウッド氏

「人々は会話、練習、そしてフィードバックを望んでいます」エリカ・シュルツ氏

リモートでの会議が当たり前になった現在では、動画を見るだけの研修も増えています。ただ、受動的に動画を見るだけではなく、リモートであったとしても対話形式にしないと研修の効率が高まらないということを3番目のポイントでは言っています。これも研修設計で非常に重要なポイントだと思います。

ポイント4「マネージャー育成」

4番目のポイントは営業マネージャーについてです。

4. マネージャーを育成する

「成績上位のマネージャーは他のマネージャーに比べて、定期的かつ頻繁にコーチングを実施する可能性が高い。経験が 5 年未満の営業担当者は、有能なマネージャーがいる場合、業績上位者(トップパフォーマー)になる可能性が 240% 高くなる」Rain Group調べ

「あまりにも多くの企業がマネージャー向けの育成研修を実施していない」エリカ・シュルツ氏

営業に限らず、「現場のラインマネージャーの育成能力を高めて育成リーダーにさせよう」というのが最近の人材育成業界での大きなトレンドになっています。今春開催されたHRイベントUNLEASH AMERICA 2023でもまさに「ラインマネージャーを育成リーダーにする3つのステップ」といった講演が行われていました。

現在の人材育成は過去のようにマーケティングやアカウンティングなどの汎用的なMBA科目を体系的に学習するのではなく、実際の業務に合うように個別に細かくチューニングされ、しかもより頻繁に提供されるのが当たり前になっています。

このような条件で人材育成を進めるには、現場経験が豊富なマネージャーが自ら研修講師やコーチング役となって、メンバーの育成に積極的に取り組む必要がある。4番目のポイントは、この人材育成業界のトレンドそのものを表現しているように思えます。

ポイント5「テクノロジーに依存しない」

それでは最後のポイントを見てみましょう。

5. テクノロジーに依存しない

「非テクノロジーベース(対面で講師がその場で実施する)のシミュレーションやロールプレイを営業トレーニングに組み込んだ組織は、業績が向上する可能性が大幅に高い」ATD調査レポート

「テクノロジーやデータが解決策であるという幻想がある。テクノロジーはマネージャーが適切に管理するためのものであり、それを怠ってはいけない」フランク・セスペデス氏

アメリカでは、Eラーニングの配信管理やSFAと連携しての研修効果の測定/評価、コーチングしている様子を撮影/分析してAIがアドバイスを返すなど、様々な営業人材育成システムが利用されています。しかし、それを過信するのではなく、対面での研修実施や、マネージャーが正しく人材育成マネジメントできるようにならなければならないという、核心を突いたポイントだと思います。

ここまで営業研修の落とし穴に陥らないための5つのポイントを見てきました。どの業界/企業の営業部門にも当てはまる汎用的かつ重要なポイントですので、研修の設計や運営の参考にしてみてください。

日本の20倍超!アメリカの営業担当者一人当たりの年間研修費用

実は私がこの記事で一番面白いと思ったのはこの5つのポイントではなく、記事の最初の方にさらっと書いてあった以下のデータです。

営業担当者一人当たりの年間の営業研修費用支出の中央値は 1,000 ドルから 1,499 ドル(ATD State of Sales 2023)

ここ最近の為替相場が1ドル140円前後ですので、日本円に換算すると14~21万円といったところでしょうか。住友化学(34万円、2021年)など、日本でも一人当たりの教育投資額が高い企業はありますが、厚生労働省の調査によると
「OFF-JT(研修)に支出した費用の労働者一人当たり平均額(費用を支出している企業の平均額)は1.5万円」
「OFF-JTに支出した費用の『実績なし』の企業は46.4%」
ということですので、全ての労働者にならすと7千円程度。このデータが営業職にもあてはまるとすると、日本の営業の平均的な研修費用支出は、アメリカの20~30分の1しかないことになってしまいます。

別のデータとして産労総研「教育研修費用の実態調査」というものもあり、そちらでは一人当たり年間平均29,904円とのこと。先ほどの厚労省の調査よりは高くなっていますが、それでも米国のデータの5分の1程度です。

実際に色々な企業の営業マネージャーと話をしていても、「営業職向けの研修カリキュラムがない」「うちの営業は一回も営業についての研修を受けたことがない」という企業がとても多いです。そもそも営業に求められるスキルが明文化されていなかったり、営業プロセスが標準化されていなかったりすることも多いので、そのような背景を聞くとやむを得ないとは思いますが、人的資本経営が当たり前になりつつある現在で本当に大丈夫なのかつい不安になってしまいます。

スキルや業務手順など、自分たちの営業コンテンツ作りから始めよう

変化が大きく人材育成が重視されている現在において、他社に先んじて顧客のパートナーとなるために営業研修は不可欠です。しかし、自社の営業に必要なスキルが明らかになっていなかったり、営業の手順が整っていなかったりと、営業研修で教えるべきコンテンツ自体がない企業が多いのも事実。

トライツでは各企業の現状と目指す姿に合わせて、営業研修のコンテンツづくりからご支援しています。営業研修に取り組みたいけど、そもそものコンテンツがない/時代遅れになっているという方はぜひご相談ください。あるべき営業研修について一緒に考えましょう。

参考:「The Sales Training Black Hole」(Paul Nolan, Sales & Marketing Management magazine, August 4, 2023)