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SalesforceなどのSFAが普及したおかげで、面倒だった営業の進捗管理をしやすくなりました。初回訪問日や提案実施日、見積額などの日々の営業活動のデータがきちんと入力されていれば、ダッシュボード画面で進捗状況、いわゆる「KPI」を簡単に把握することができます。

このようにシステムは便利になっている一方で、「KPIをどう設定したらよいかがわからない」という声もよく聞きます。SFAの機能説明では「こんな項目も、あんな項目もKPIに登録してダッシュボードで確認できます」と言われるものの、自分たちの営業組織に合ったKPIを選べる自信がないとのこと。ちなみに、皆さんの営業組織ではどうでしょうか。適切なKPIが設定されていて、それをもとに営業活動の軌道修正ができるようになっているでしょうか。

そこで今回のトライツブログでは、KPI設定の基本的な考え方をご紹介します。SFAを導入したもののKPIが正しいか自信がなかったり、営業会議でKPIをチェックしているもののマネジメントに活かしきれていないとお感じの方には、参考にしていただける内容ですのでぜひお読みください。

改めて、KPIとは

設定方法の話に進む前に、KPIがどういうものかについて、簡単におさらいをしておきましょう。

KPIを日本語にすると「重要業績評価指標」。目標(KGI)を達成するために重要な要素(業績)の達成状況を確認するためのものです。営業組織だと「売上」や「予算達成率」などが目標となることが多いと思います。以下、「売上」目標を達成するためのKPIの設定方法について、ご紹介していきます。

KPI設定でやってしまいがちな「細分化の罠」

「売上」目標のKPIを設計するときに、やってしまいがちなのが売上額を細分化するだけのKPI。例えば半期ずつの目標を月別に細分化する。細かい商品別に売上を分ける。顧客の業種分類別に分ける。展示会やイベント、Webからの問い合わせなど、新規客が入ってきたチャネル別に分ける。

こういった細分化されたKPIのすべてが、まったく意味がないわけではありません。新規客と既存顧客では営業活動の内容が異なりますし、地域別に営業所を置いている場合は各支店のマネジメントや施策を見比べて「いいとこどり」をするきっかけにもなります。

しかし、KPIを設定していてもうまく使いこなせていない組織では、営業メンバーも営業活動の内容もほとんど変わらないのにただ売上を細分化しているだけ、となっていることが多いように思います。

このような細分化の罠に陥ってしまう主な理由は、SFAやBIツールの機能からKPIを設定してしまうこと。売上月や商品分類、顧客の業種分類に商談発生経路など、商談データの中には様々な項目が含まれているので、分解して図表やグラフで見せることが得意中の得意です。SFAの機能を起点にしてKPIを設定すると、意味のない細分化されたKPIが大量にできてしまうのです。

KPIを設定する3つの基本手順

では、どのようにKPIを設定したらよいのでしょうか。今までさまざまな営業組織で営業マネージャー向けにKPI設定の研修を企画・実施してきましたが、エッセンスは以下の3つの手順にまとめることができると考えています。
1.目標の要素を分解する
2.目標達成のプロセスを分解する
3.計測・管理しやすい定量的・客観的な指標を定める

それでは、1つずつ順番に見ていきましょう。

手順1.目標の要素を分解する

まずは「1.目標の要素を分解する」です。例えば、「売上」目標を要素分解すると、一番シンプルなのが以下の式です。
売上 = 社数 × 単価
どれだけの顧客に(社数)、それぞれいくらで(単価)売るのか。当たり前すぎる話で恐縮ですが、もう少しがまんしてお付き合いください。

手順2.目標達成のプロセスを分解する

その次が「2.目標達成のプロセスを分解する」です。先ほど「売上」を目標にしましたので、そのプロセスとはどうやって受注に至るのかということ。ここでは、下の表の横軸のような4段階のプロセスで考えてみましょう。

ここでポイントなのが、先ほどの要素「社数」「単価」をプロセスに分けることです。それぞれの要素が、各プロセスでどうなっているかの推移を考えると、下の表になります。

「社数」の行は、提案先としてリストアップした社数からスタートします。そこから実際に訪問した社数、提案・見積を出した社数と進んでいき、最終的な受注社数となります。

一方で、「単価」の行は、リストアップやアプローチの段階ではまだ不明です。提案・見積で出した価格からスタートし、その後顧客との価格調整や値引き対応などを経て最終的な受注単価に決着します。

手順3.計測・管理しやすい定量的・客観的な指標を定める

このように、目標である売上の要素を分解し、売上獲得に至るプロセスを分解することで、KPIの候補が見えてきます。この中から「3.計測・管理しやすい定量的・客観的な指標を定める」と、基本的なKPI設定の出来上がりです。先ほどの表の中の項目はどれもSFAで簡単に把握できますし、項目数も6つと手ごろですので、すべてをKPIに設定することになるでしょう。

実際に使えるKPIを設定するために

もちろん、実際のKPI設定はもう少し複雑になってきます。例えば、「社数」を割合に置き換えた「受注率」(各プロセスの進捗率)を追加することで、順調にそれぞれのプロセスを進んでいるかどうかがわかりやすくなります。

また、ソリューション営業やコンサルティング営業など、顧客の課題把握や購買の意思決定支援が大事な営業の場合は、以下のようにプロセスが増えるでしょう。

追加した濃い黄色のプロセス「課題把握」「解決策の企画」「意思決定支援」のうち、SFAの項目で把握できるのが「課題把握」のみだとすると、KPIとして追加するのは赤枠の項目だけとなります。

また、顧客の分類ごとに上記のプロセスが全く異なるので、別のKPIを作らなければならない場合も往々にしてあります。例えば、小売店向けの営業だとしても、イオンやマツモトキヨシのような全国チェーン向けと、町中にある個別店舗向けで商談の進め方は違います。また、省庁や自治体といった公共向けの営業では「事業の予算化」と「公示」が大事なイベントですので、企業向けとは別のプロセスとKPIが必要になります。

このようにそれぞれの組織の営業活動の実態に合わせて、プロセスや要素を調整していくのです。

KPIの値は「目標達成に十分な量を逆算して設定する」

KPIの項目が決まったら、最後に目標達成のために必要なKPIの値を設定します。ここでのポイントは目標達成に十分な量を逆算して設定するということ。

例えば上の表は、100社から平均1,000万円の受注を獲得することで10億円の売上目標を達成しようとしているものです。これまでの経験からそれぞれのプロセスへと進む割合が上の表のようになっているとすると、100社から受注を獲得するには150社に提案・見積を提示する必要があり、そのためには250社にアプローチする必要があって、300社のリストを作る必要があることがわかります。このように目標達成から逆算してKPIを設定することで、それぞれの段階でのKPIをクリアすれば確実に目標(売上)を達成できる構造となるのです。

KPIは目標達成のロジックそのもの

とはいえ、250社にもアプローチするとなると時間が足りないし、そもそも300社もリストを作れないといった場合には、受注率を上げるための工夫を考えることになります。例えば社内の成功事例を集めて、提案の進め方や提案書を標準化したり、その内容で事前に提案のロールプレイをするなど。このように営業の仕方を工夫をすることで、目標を達成できて、かつ実現可能なKPIを設定することが可能になります。

このように見てみると、KPIの設定は、営業計画つまり目標達成のロジックそのものだということがわかります。「KPIの設定の仕方がわからない」というときは、KPIから先に考えるのではなく、目標達成するためのプロセスつまり営業計画から先に考え、その中から必要なKPIを抽出するのがおすすめです。

3つの手順を参考に「目標達成のために必要なKPI」を設定しよう

SFAやBIなどのツールの機能を見ると、様々な項目がKPIとして設定できてダッシュボードで一覧できると紹介されていますし、Webで「KPI 項目」と検索すると数十もの項目が紹介されているので、初めてKPIを設定しようとすると「どうしたらいいの?」となってしまいがちです。

KPIの設計や営業の目標達成マネジメントにお悩みの場合には、今回ご紹介した3つの手順
1.目標の要素を分解する
2.目標達成のプロセスを分解する
3.計測・管理しやすい定量的・客観的な指標を定める
を参考にしていただければと思います。そして何よりも大事なのが、「自分たちが目標を達成するためのプロセスとロジック」を明確にすること。そうすれば、目標達成のために何がKPIとして必要なのかが自ずと見えてくるはずです。